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40:三倍返しが信条です

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「えっ、いや、だから……わ、わかるでしょ?」

「ほう。オレには言わせといて自分は黙秘を貫くと?」
 楽しそうだった金色の瞳が一転して、不機嫌そうに眇められる。

「…………」
 確かに不公平ではある。が、改めて自分の気持ちを言葉にするのはどうにも恥ずかしい。

(……ええい!! 腹を括れ、わたし!! 十五歳のエマでも言えることよ!? 当たり前のような顔で手を繋ぐセラとリュオンの姿を見て、羨ましいと思ったんでしょ!? わたしもジオとそういう関係になりたいんでしょ!? ここで逃げたら女が廃るってもんよ!!)

 臆病な自分を叱咤し、キッと鋭い眼差しでジオを睨みつける。

「……だからっ、好きなのよっ!! ジオのことが!!」
 夜でもわかるほどに顔を赤くしてルーシェは言った。

「…………ぶっ」
 こっちは真剣だというのに、あろうことかジオは吹き出して顔を背けた。

「なんで笑うのよ!?」
 さすがに腹が立って叫ぶ。

「いや、だって。愛を告白されてるはずなのに、宣戦布告されてる気分で……お前いま自分がどんな顔してたか自覚ある?」

「う……」

(……これがもしセラなら恥ずかしそうに照れながら、可愛らしく好きですって言ってたわよね……)

 そしてそのほうが断然男受けが良いに決まっている。

 セラは同性のルーシェから見ても大変可愛い。

 たまに抱きしめたくなるときがある――というか堪らず何度か抱きついている。

「……セラみたいに可愛くないからやっぱりダメ……?」

 自信をすっかり失い、泣きそうになりながら上目遣いに尋ねると。

「馬鹿じゃねーの?」
 呆れ返ったような顔をされた。

「馬鹿とは何よ!?」
 つい反射的に噛みついてしまう。

(あああ。だからこういうところがダメなのに……)

 胸中で涙を流す。
 わかってはいるのだが、それが自分なのだから仕方ない。

「馬鹿だから馬鹿だって言ってんだよ。お前より可愛い女がこの世に存在するわけねーだろ」

「!!?」
 ぼんっと、ルーシェの頭は爆発した。
 それを見てまたジオが笑う。

(悔しい……)
 余裕たっぷりな態度が悔しい。
 ルーシェばかりがいちいち振り回されている。

 とにかくその余裕顔を崩したい。自分のように激しく動揺させたい。

 ルーシェは持っていた石を隣に置いた。

 ジオの顔を両手で掴み、引き寄せて唇を重ねる。

「………………」
 ここで顔を真っ赤にして照れたら可愛いのに、ジオの反応は驚きに軽く目を見開く程度のものだった。

(どうよっ!?)
 実験結果を見るような気分で身体を引くと、ジオは真顔で言った。

「……襲われたくないなら不用意にそういうことはしないほうがいいぞ」
「襲ッ……!?」
「言ったよな、オレ、だいぶ前からお前のことが好きだったって。率直に言ってめちゃくちゃ欲求不満なんだよ。なんならいまここで押し倒すぜ?」

「いまここでッ!? ちょちょちょちょっと待って、落ち着いて!? 結婚前の男女に相応しい慎みを持って、健全なお付き合いをしましょう!? わたしが悪かったから!? ね!?」

 両肩を掴まれて慌てふためく。
 パニックのあまり涙目になったルーシェを見て、ジオは手を離して笑い出した。

「冗談に決まってんじゃん。ここ人ん家だぜ?」
「……………~~っ」
 ルーシェは涙目のまま、抗議の意思を込めて握り拳でべしっと彼の腕を叩いた。

 ジオは痛がる様子もなく笑い続けている。
 さっきのルーシェの慌てぶりがよほど愉快だったらしい。

(~~~っ。おかしい。こんなの間違ってるわ。ジオを狼狽させるつもりだったのに、何故わたしのほうが激しく狼狽えさせられてるの!? こっちはキスまでしたのに!! 恥ずかしかったのに!! だからなんでそんなに余裕なのよ!?)

 ふと思い出す。
 そういえば彼の信条は「やられたら三倍返し」だったような気がする。

(……これは下手なことはできないわね……刺激したら何されるかわかったもんじゃないわ……マジで襲われそう……)

 突然ジオが立ち上がったので、ルーシェはびくっと肩を震わせた。

「な、何?」
「何怯えてんだよ。帰るだけだよ」
「そ、そうね、帰りましょうか」
「警戒しすぎだろ。まあ、お前はそんくらい警戒したほうがいいけどな」
 ジオは笑ってルーシェに手を差し伸べた。

「ほら、帰るぞ」
 ルーシェを見下ろす長身の頭上では銀色の月が輝いている。

「……うん」
 当然のように差し出された手を握って立ち上がる。
 自分の手よりも大きくて、骨ばっている、ジオの手を。

 もう一方の手では彼から貰った石を握り、夜の庭園を歩きながら幸せをかみしめていると。

「……お前ってほんとわかりやすいよなー」
 ジオはルーシェを見て何故かまた笑った。

「え?」
「なんでもねーよ。可愛いって言っただけ」
「かかかか可愛くなんてないし!! 全然ちっとも可愛くないし!!」
「はいはい可愛い可愛い」
 ぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。

「ちょっと、髪が乱れる!! 止めて!!」
「とか言って嬉しいんだよなー」
「ううう嬉しくなんてないんだから!!」
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