37 / 52
37:食堂にて
しおりを挟む
傷の手当てをしてからは三人で昼食を摂った。
食後の紅茶を楽しんでいると、リュオンとセラとメグが入ってきた。
寝間着だったリュオンは服を着替えている。
彼は頭に包帯を巻いておらず、両目を晒していた。
金色の《魔力環》が浮かぶ青い両目を。
「あっ」
リュオンたちを見てノエルが声を上げ、
「お! 目が覚めたんだな、おはようリュオン。良かったなーセラ」
ジオは笑顔でセラに話しかけた。
「ええ、本当に」
この世の終わりのような顔をしていたセラが笑っている。心底嬉しそうに、朗らかに。
セラはサンドイッチが乗ったトレーを持っていた。手付かずだったそれを昼食として食べるつもりらしい。
「セラから事情を聞いたよ。皆のおかげで助かった。ありがとう」
食堂の入り口に立ったまま、リュオンは深々と頭を下げた。
「私からもお礼を言わせて。本当にありがとうございました」
リュオンの隣でセラも頭を下げた。
どういたしまして、とルーシェたちは微笑んで応じた。
セラはいそいそと配膳をし、リュオンの隣に座って食卓を囲んだ。
「……何があったかはセラに聞いてはいるんだが。実はいまだに実感が湧かないんだ」
サンドイッチを食べながらリュオンが話し出した。
「おれの感覚としては、寝てたら物凄く不味い液体を飲まされた。最悪な気分で目覚めたら何故か部屋にセラとメグがいて、戸惑う暇もなくセラに抱きしめられて号泣された――って感じなんだよな」
「死にかけてた自覚はねーんだな」
「ああ。でも、事実として皆には迷惑をかけた。特にジオとノエルには、《魔女の墓場》まで行ってもらって本当に……」
「いや、オレらにはもう謝らなくていーよ。お前が元気になったならそれで十分」
また頭を下げようとするリュオンに、ジオはひらひらと片手を振った。
「謝るならセラに謝ってやれ。リュオンがなかなか起きてこないから、『もう、ダーリンったらお寝坊さん★ いい加減起きないと可愛い寝顔にキスしちゃうぞっ★』的なノリで部屋に行ったら死にかけてんだぜ? 当時の心中は察するに余りあるわ」
本当? という顔でリュオンが隣を見る。
「き、キスしようなんて思ってなかったわよ!?」
セラは真っ赤になって慌てた。
「わかりやすく動揺してるわね」
「大当たりだな」
ルーシェとジオは小声で囁き合った。
ひとしきり話し込んだ後で、ふと思いついたようにメグが言った。
「ところでさ。ジオとノエルは予想より遥かに早く《魔女の墓場》から帰還したわよね。《オールリーフ》が偶然近くに生えてて良かったわね」
「いや、教えられた通り、山の麓で摘んできたぜ? な、ノエル」
「うん」
頷くノエルを見て、メグは目をぱちくり。
「…………は? 冗談でしょ? いくらあんたたちでも、あの距離を片道一時間で踏破するのはどう考えても不可能……いや、ちょっと待って? まさか最短距離を行ったの!? あの危険極まりない《雷電地帯》を迂回しなかったの!?」
よほど衝撃を受けたらしくメグは声を裏返らせて立ち上がった。
ジオとノエルは顔を見合わせてから、合図もしてないのに声を唱和させた。
「「突っ切った」」
「馬鹿なのッ!!?」
メグは頭を抱えて悲鳴を上げた。
「いや、正真正銘の馬鹿だわ、信じられないッ!! 命知らずにも程があるわよ、 いままで《雷電地帯》で何人死んだと思ってんの!?」
「えー? 意外といけたよな?」
「うん。こうして生きてるしね」
「それはただ運が良かっただけに決まってんでしょーがっ!!」
「ねえメグ、その《雷電地帯》っていうのは何なの?」
メグのあまりの取り乱しように尋ねずにはいられない。
喚いていたメグは我に返ったらしく着席し、こほんと一つ咳払い。
「《雷電地帯》は灰色の空に稲妻が走り、絶え間なく雷が落ち続ける場所よ。ただし雷は地面から空に向かって落ちる」
「……地面から空に向かって……?」
当惑する。およそ自然を無視した超常現象だ。
「そうそう。《雷電地帯》の地面は普通の地面じゃなくて、なんつーか、全体的にのっぺりした銀色なんだよな。地面に白い光点が灯ったら、その光はだんだん大きくなって、三秒……遅くて五秒後に空に向かって雷が落ちる。威力は通常の雷とそんなに変わらない。直撃したら運が悪けりゃ死んでただろうな」
「………………」
セラたちは絶句している。
食後の紅茶を楽しんでいると、リュオンとセラとメグが入ってきた。
寝間着だったリュオンは服を着替えている。
彼は頭に包帯を巻いておらず、両目を晒していた。
金色の《魔力環》が浮かぶ青い両目を。
「あっ」
リュオンたちを見てノエルが声を上げ、
「お! 目が覚めたんだな、おはようリュオン。良かったなーセラ」
ジオは笑顔でセラに話しかけた。
「ええ、本当に」
この世の終わりのような顔をしていたセラが笑っている。心底嬉しそうに、朗らかに。
セラはサンドイッチが乗ったトレーを持っていた。手付かずだったそれを昼食として食べるつもりらしい。
「セラから事情を聞いたよ。皆のおかげで助かった。ありがとう」
食堂の入り口に立ったまま、リュオンは深々と頭を下げた。
「私からもお礼を言わせて。本当にありがとうございました」
リュオンの隣でセラも頭を下げた。
どういたしまして、とルーシェたちは微笑んで応じた。
セラはいそいそと配膳をし、リュオンの隣に座って食卓を囲んだ。
「……何があったかはセラに聞いてはいるんだが。実はいまだに実感が湧かないんだ」
サンドイッチを食べながらリュオンが話し出した。
「おれの感覚としては、寝てたら物凄く不味い液体を飲まされた。最悪な気分で目覚めたら何故か部屋にセラとメグがいて、戸惑う暇もなくセラに抱きしめられて号泣された――って感じなんだよな」
「死にかけてた自覚はねーんだな」
「ああ。でも、事実として皆には迷惑をかけた。特にジオとノエルには、《魔女の墓場》まで行ってもらって本当に……」
「いや、オレらにはもう謝らなくていーよ。お前が元気になったならそれで十分」
また頭を下げようとするリュオンに、ジオはひらひらと片手を振った。
「謝るならセラに謝ってやれ。リュオンがなかなか起きてこないから、『もう、ダーリンったらお寝坊さん★ いい加減起きないと可愛い寝顔にキスしちゃうぞっ★』的なノリで部屋に行ったら死にかけてんだぜ? 当時の心中は察するに余りあるわ」
本当? という顔でリュオンが隣を見る。
「き、キスしようなんて思ってなかったわよ!?」
セラは真っ赤になって慌てた。
「わかりやすく動揺してるわね」
「大当たりだな」
ルーシェとジオは小声で囁き合った。
ひとしきり話し込んだ後で、ふと思いついたようにメグが言った。
「ところでさ。ジオとノエルは予想より遥かに早く《魔女の墓場》から帰還したわよね。《オールリーフ》が偶然近くに生えてて良かったわね」
「いや、教えられた通り、山の麓で摘んできたぜ? な、ノエル」
「うん」
頷くノエルを見て、メグは目をぱちくり。
「…………は? 冗談でしょ? いくらあんたたちでも、あの距離を片道一時間で踏破するのはどう考えても不可能……いや、ちょっと待って? まさか最短距離を行ったの!? あの危険極まりない《雷電地帯》を迂回しなかったの!?」
よほど衝撃を受けたらしくメグは声を裏返らせて立ち上がった。
ジオとノエルは顔を見合わせてから、合図もしてないのに声を唱和させた。
「「突っ切った」」
「馬鹿なのッ!!?」
メグは頭を抱えて悲鳴を上げた。
「いや、正真正銘の馬鹿だわ、信じられないッ!! 命知らずにも程があるわよ、 いままで《雷電地帯》で何人死んだと思ってんの!?」
「えー? 意外といけたよな?」
「うん。こうして生きてるしね」
「それはただ運が良かっただけに決まってんでしょーがっ!!」
「ねえメグ、その《雷電地帯》っていうのは何なの?」
メグのあまりの取り乱しように尋ねずにはいられない。
喚いていたメグは我に返ったらしく着席し、こほんと一つ咳払い。
「《雷電地帯》は灰色の空に稲妻が走り、絶え間なく雷が落ち続ける場所よ。ただし雷は地面から空に向かって落ちる」
「……地面から空に向かって……?」
当惑する。およそ自然を無視した超常現象だ。
「そうそう。《雷電地帯》の地面は普通の地面じゃなくて、なんつーか、全体的にのっぺりした銀色なんだよな。地面に白い光点が灯ったら、その光はだんだん大きくなって、三秒……遅くて五秒後に空に向かって雷が落ちる。威力は通常の雷とそんなに変わらない。直撃したら運が悪けりゃ死んでただろうな」
「………………」
セラたちは絶句している。
224
お気に入りに追加
1,085
あなたにおすすめの小説
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。
光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。
昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。
逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。
でも、私は不幸じゃなかった。
私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。
彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。
私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー
例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。
「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」
「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」
夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。
カインも結局、私を裏切るのね。
エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。
それなら、もういいわ。全部、要らない。
絶対に許さないわ。
私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー!
覚悟していてね?
私は、絶対に貴方達を許さないから。
「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。
私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。
ざまぁみろ」
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
【完結】精神的に弱い幼馴染を優先する婚約者を捨てたら、彼の兄と結婚することになりました
当麻リコ
恋愛
侯爵令嬢アメリアの婚約者であるミュスカーは、幼馴染みであるリリィばかりを優先する。
リリィは繊細だから僕が支えてあげないといけないのだと、誇らしそうに。
結婚を間近に控え、アメリアは不安だった。
指輪選びや衣装決めにはじまり、結婚に関する大事な話し合いの全てにおいて、ミュスカーはリリィの呼び出しに応じて行ってしまう。
そんな彼を見続けて、とうとうアメリアは彼との結婚生活を諦めた。
けれど正式に婚約の解消を求めてミュスカーの父親に相談すると、少し時間をくれと言って保留にされてしまう。
仕方なく保留を承知した一ヵ月後、国外視察で家を空けていたミュスカーの兄、アーロンが帰ってきてアメリアにこう告げた。
「必ず幸せにすると約束する。どうか俺と結婚して欲しい」
ずっと好きで、けれど他に好きな女性がいるからと諦めていたアーロンからの告白に、アメリアは戸惑いながらも頷くことしか出来なかった。
【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。
あなたなんて大嫌い
みおな
恋愛
私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。
そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。
そうですか。
私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。
私はあなたのお財布ではありません。
あなたなんて大嫌い。
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる