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17:謎の女性の正体は?
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解呪魔法の専門家はイザークが再び長距離転移魔法を使って自宅へ送り届けた。
その日の夜、リナリアはイスカとバークレイン一家と夕食を囲んだ。
バークレイン家の食堂で出された夕食はとても美味しく、会話も弾んだが、時折イスカが考え込むのが気になった。
心ここにあらず――いまの彼は、王都の安宿に泊まった夜と同じ目をしている。
「イスカ様。手が止まっています。どうかいまは何も考えず、きちんと食べてください」
声をかけると、イスカははっとしたように顔を上げた。
「……悪い。少し考え事をしていた」
テーブルを囲んだ全員が自分に注目していることに気づいたイスカは気まずそうに言って、鴨のローストを頬張った。
「考え事というのは、やはりセレン様のことでしょうか」
白い繊手で優雅にナイフとフォークを操りながらエルザが尋ねる。
「……ああ。いまあいつがどんな状況かわかるか?」
イスカはためらうような間を置いて、エルザを見つめた。
「……ええ。ウィルフレッド様の妃選考会に出席するため、わたくしは王宮勤めを辞めましたが、セレン様の女官を務めている三人とはいまだ密に連絡を取り合っておりますの。率直に申し上げて、セレン様のご容体は芳しくないようです。彼女たちの話によると、セレン様はイスカ様が失踪してから、ずっと伏せったままのようですわ。セレン様にとってみれば、双子の弟がある日突然失踪してしまったのですもの。しかし、イスカ様はその存在を秘匿された身。どんなに心配でも、セレン様は声を上げることもできず、自ら探しに行くこともできない。セレン様のご心痛はいかばかりか……お察し申しあげますわ」
エルザは俯き、何か言いたげに口を開閉させた。
リナリアはそれが気になった。
(まだ何かセレン様のことで伝えたいことがあるのかしら?)
もしくは、言いたくても言えない何かが。
「……そうか。セレンの容態は心配だが、いまはとにかく無事を確認できただけで良しとしよう」
イスカは目を伏せ、自分に言い聞かせるような口調でそう言った。
「おれはずっとセレンのことが気がかりだったんだ。あいつまで魔物に変えられていたらどうしよう、ほとんど寝たきりで動けないあいつが危害を加えられていたらどうしようと……王都で謎の女にセレンは無事だと言われたが、あの言葉は嘘ではなかったんだな」
「謎の女?」
興味を惹かれたらしく、イザークがオウム返しに尋ねた。
「ああ。おれはリナリアの鞄の中にいたから風貌は知らない」
イスカが視線を投げてきた。
リナリアなら知っているはずだと青い目が言っているが、リナリアは首を振った。
「それが、彼女は黒いローブを着込んでいて、目深にフードを被っていたため、風貌はわからなかったんです。ただ、声音と体型からして女性だったことは間違いありません。身長は私より少し高いくらい……そうですね、ちょうどエルザ様と同じくらいでしょうか。女性にしては少し低めの、落ち着いた声をされていました」
「あいつは『君がいま一番知りたい情報だ』などと、思わせぶりなことを言っていたな。 リナリアに対しても、聖女には向いていないとか、歌は手段だとか」
「意味がわかりませんよね。私がイスカ様の運命を変える鍵になるとも言ってましたけど、あれは何なのでしょう。私がもしイスカ様の力になれるのなら、鍵にでも何にでもなりたいですが――」
「……リナリア、お待ちなさい。その女性は確かに『リナリアがイスカ様の運命を変える鍵になる』と言ったの?」
リナリアの台詞を遮って声を上げたのはヴィネッタ。
「はい、そうです」
イスカと揃って前を向くと、ヴィネッタは自分自身も困惑しているかのように、瞬きの回数を増やしながら言った。
「……エルザと同じくらいの身長の女性だと言ったわね。わたくし、宗教国家マナリスで一度だけ《予言の聖女》イレーネ様のお姿を拝見したことがあるの。イレーネ様は金髪に紫水晶の瞳をした美しい女性だったわ。もしかしたら、その女性はイレーネ様だったのではないかしら?」
「《予言の聖女》?」
リナリアは目をぱちくりさせた。
その日の夜、リナリアはイスカとバークレイン一家と夕食を囲んだ。
バークレイン家の食堂で出された夕食はとても美味しく、会話も弾んだが、時折イスカが考え込むのが気になった。
心ここにあらず――いまの彼は、王都の安宿に泊まった夜と同じ目をしている。
「イスカ様。手が止まっています。どうかいまは何も考えず、きちんと食べてください」
声をかけると、イスカははっとしたように顔を上げた。
「……悪い。少し考え事をしていた」
テーブルを囲んだ全員が自分に注目していることに気づいたイスカは気まずそうに言って、鴨のローストを頬張った。
「考え事というのは、やはりセレン様のことでしょうか」
白い繊手で優雅にナイフとフォークを操りながらエルザが尋ねる。
「……ああ。いまあいつがどんな状況かわかるか?」
イスカはためらうような間を置いて、エルザを見つめた。
「……ええ。ウィルフレッド様の妃選考会に出席するため、わたくしは王宮勤めを辞めましたが、セレン様の女官を務めている三人とはいまだ密に連絡を取り合っておりますの。率直に申し上げて、セレン様のご容体は芳しくないようです。彼女たちの話によると、セレン様はイスカ様が失踪してから、ずっと伏せったままのようですわ。セレン様にとってみれば、双子の弟がある日突然失踪してしまったのですもの。しかし、イスカ様はその存在を秘匿された身。どんなに心配でも、セレン様は声を上げることもできず、自ら探しに行くこともできない。セレン様のご心痛はいかばかりか……お察し申しあげますわ」
エルザは俯き、何か言いたげに口を開閉させた。
リナリアはそれが気になった。
(まだ何かセレン様のことで伝えたいことがあるのかしら?)
もしくは、言いたくても言えない何かが。
「……そうか。セレンの容態は心配だが、いまはとにかく無事を確認できただけで良しとしよう」
イスカは目を伏せ、自分に言い聞かせるような口調でそう言った。
「おれはずっとセレンのことが気がかりだったんだ。あいつまで魔物に変えられていたらどうしよう、ほとんど寝たきりで動けないあいつが危害を加えられていたらどうしようと……王都で謎の女にセレンは無事だと言われたが、あの言葉は嘘ではなかったんだな」
「謎の女?」
興味を惹かれたらしく、イザークがオウム返しに尋ねた。
「ああ。おれはリナリアの鞄の中にいたから風貌は知らない」
イスカが視線を投げてきた。
リナリアなら知っているはずだと青い目が言っているが、リナリアは首を振った。
「それが、彼女は黒いローブを着込んでいて、目深にフードを被っていたため、風貌はわからなかったんです。ただ、声音と体型からして女性だったことは間違いありません。身長は私より少し高いくらい……そうですね、ちょうどエルザ様と同じくらいでしょうか。女性にしては少し低めの、落ち着いた声をされていました」
「あいつは『君がいま一番知りたい情報だ』などと、思わせぶりなことを言っていたな。 リナリアに対しても、聖女には向いていないとか、歌は手段だとか」
「意味がわかりませんよね。私がイスカ様の運命を変える鍵になるとも言ってましたけど、あれは何なのでしょう。私がもしイスカ様の力になれるのなら、鍵にでも何にでもなりたいですが――」
「……リナリア、お待ちなさい。その女性は確かに『リナリアがイスカ様の運命を変える鍵になる』と言ったの?」
リナリアの台詞を遮って声を上げたのはヴィネッタ。
「はい、そうです」
イスカと揃って前を向くと、ヴィネッタは自分自身も困惑しているかのように、瞬きの回数を増やしながら言った。
「……エルザと同じくらいの身長の女性だと言ったわね。わたくし、宗教国家マナリスで一度だけ《予言の聖女》イレーネ様のお姿を拝見したことがあるの。イレーネ様は金髪に紫水晶の瞳をした美しい女性だったわ。もしかしたら、その女性はイレーネ様だったのではないかしら?」
「《予言の聖女》?」
リナリアは目をぱちくりさせた。
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