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04:とんでもない魔法使い
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(これは、肯定ってことかしら?)
「一緒に来てくれるの?」
声に出して確認すると、アルルは頷いた。
「いいの? 無理はしなくていいのよ?」
アルルは首を振り、大丈夫だというように頷いた。
「……ありがとう。嬉しいわ」
リナリアはアルルの頭を優しく撫でた。
これから一人寂しく旅をしなければならないと思っていたから、アルルの存在は非常に心強かった。
「じゃあ行きましょうか。でもアルル、肩の上は危ないわ。地面に下りてくれる?」
そう言って身体を前に傾けると、アルルは地面に飛び降りた。
リナリアは上機嫌でトランクケースを引っ張った。
アルルもリナリアの右隣をぴったりついてくる。
「ふふ」
楽しい旅になりそうだ、と思った矢先。
がさりと音を立てて、右手の茂みの奥から大きな魔物が現れた。
(え……嘘。こんな森の浅いところに、これほど大きな魔物が出るなんて)
想定外の事態に頭が真っ白になった。
現れたのは極端に短く太い足で二足歩行する、ずんぐりとした巨体の――白い、かぶのような植物だった。
体長は二メートル以上。
リナリアにとっては見上げるほどに大きい。
魔物の頭からは緑のツタが生えていて、先端に奇妙な形の葉っぱがついていた。
ツタは触手のようにうねうねと動き、かぶの中心部分には大きな口がある。
この魔物はあの大きな口で動物を捕食するのだろう。
そして多分、人間も動物に含まれる――
あっ、と思う暇もなく、頭のてっぺんに生えているツタが鞭のように伸びて襲い掛かってきた。
ウサギ程度の大きさしかないアルルより人間のほうが食べ応えがあると思われたらしく、アルルを無視してリナリアの左腕に魔物のツタが巻き付く。
魔物がツタに力を込め、リナリアを一本釣りにされた魚のように天高く巻き上げるよりも前に。
素早く二本足で立ち上がったアルルが両前足を魔物に向かって突き出した。
肉球のついた可愛らしい両前足の前に、金色に輝く魔法陣が現れる。
間髪入れずに、光と熱を伴う衝撃波が放たれた。
放たれた光線 は魔物を直撃し、巨体の大半を消し飛ばした。
魔法の発動によって生じた熱風がリナリアの長い髪を揺らし、前髪がふわりと浮き上げる。
元よりだいぶ小さくなった魔物の死骸が音を立てて地面に倒れた。
リナリアの左腕に巻き付いていたツタもまた力を失い、地面に落ちる。
「…………」
冷や汗を流しながら、リナリアはゆっくりと首を動かしてアルルを見た。
(嘘でしょう、この子……こんな力があるなんて……)
ヴィオラは魔法が使えることを自慢していたが、彼女は長時間集中しても、小指の先ほどの大きさの火を生み出すのが精いっぱいだ。
この国には爵位制度があり、上位から公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵となっている。
一般的に爵位が上がるほど魔力が強いと言われているため、男爵の令嬢ならばたいした魔法が使えないのも仕方ないところではある。
ではこの国の王族はどうかといえば、王子妃選考会の開会式で、国王テオドシウスは空中に巨大な水の塊を出現させ、見事な竜神の姿を描いてみせた。
神業の如き魔法に、集まった歌姫たちや歌姫を支援する貴族たちはどよめき、惜しみない拍手を贈った。
見た目の派手さなら、あのとき国王がしてみせたパフォーマンスのほうが上だろう。
(でも、いまアルルが使った魔法の精度と威力ときたら――)
アルルは一瞬で正確無比に魔物を撃ち抜いた。
周囲に立ち並ぶ木々や植物には傷一つつけることなく、魔物だけを。
魔力の強い者ならば『高威力の魔法を全力で放つ』ことは簡単だろうが、果たして攻撃目標以外を巻き込まず、アルルほど完璧に魔法をコントロールできる者はどれだけいることか。
驚愕している間に、アルルが近づいてきて首を傾げた。
大丈夫? と言っているらしい。
「……ええ、大丈夫よ。アルルは魔法が使えるのね」
アルルは頷き、両前足を大岩に向けて突き出した。
魔法陣から放たれた水鉄砲が大岩にぶつかって弾ける。
さっきと違って威力は控えめにしたらしく、水鉄砲は大岩を穿つことなく、大岩の側面と地面を濡らしただけで終わった。
「えっ!? あなた、貴重な光属性魔法だけじゃなく、水属性魔法まで使えるの!?」
リナリアの仰天ぶりが愉快だったのか、アルルは続いて地面の土を操って土人形を作り、風を起こしてリナリアの頭上に葉っぱの雨を降らせ、前方の空間に真っ黒な靄のようなものを生み出してみせた。
「わ、わかった。あなたがすごい魔法使いだっていうのはよくわかったから、その辺で」
放っとくとまだまだ魔法を放ちそうなアルルの両肩を掴んで止める。
「あなた本当にすごいわ、アルル。助けてくれてありがとう」
頭を撫でると、アルルはくすぐったそうに首を竦めた。
「……でもね、魔法を人に向かって撃ったらダメよ? 誰かに危害を加えられそうになったときは容赦しなくていいけど、相手の命を奪うのは禁止。特に、あの光線《ビーム》は何があっても撃っちゃダメ。約束してね?」
アルルは頷いた。
「一緒に来てくれるの?」
声に出して確認すると、アルルは頷いた。
「いいの? 無理はしなくていいのよ?」
アルルは首を振り、大丈夫だというように頷いた。
「……ありがとう。嬉しいわ」
リナリアはアルルの頭を優しく撫でた。
これから一人寂しく旅をしなければならないと思っていたから、アルルの存在は非常に心強かった。
「じゃあ行きましょうか。でもアルル、肩の上は危ないわ。地面に下りてくれる?」
そう言って身体を前に傾けると、アルルは地面に飛び降りた。
リナリアは上機嫌でトランクケースを引っ張った。
アルルもリナリアの右隣をぴったりついてくる。
「ふふ」
楽しい旅になりそうだ、と思った矢先。
がさりと音を立てて、右手の茂みの奥から大きな魔物が現れた。
(え……嘘。こんな森の浅いところに、これほど大きな魔物が出るなんて)
想定外の事態に頭が真っ白になった。
現れたのは極端に短く太い足で二足歩行する、ずんぐりとした巨体の――白い、かぶのような植物だった。
体長は二メートル以上。
リナリアにとっては見上げるほどに大きい。
魔物の頭からは緑のツタが生えていて、先端に奇妙な形の葉っぱがついていた。
ツタは触手のようにうねうねと動き、かぶの中心部分には大きな口がある。
この魔物はあの大きな口で動物を捕食するのだろう。
そして多分、人間も動物に含まれる――
あっ、と思う暇もなく、頭のてっぺんに生えているツタが鞭のように伸びて襲い掛かってきた。
ウサギ程度の大きさしかないアルルより人間のほうが食べ応えがあると思われたらしく、アルルを無視してリナリアの左腕に魔物のツタが巻き付く。
魔物がツタに力を込め、リナリアを一本釣りにされた魚のように天高く巻き上げるよりも前に。
素早く二本足で立ち上がったアルルが両前足を魔物に向かって突き出した。
肉球のついた可愛らしい両前足の前に、金色に輝く魔法陣が現れる。
間髪入れずに、光と熱を伴う衝撃波が放たれた。
放たれた光線 は魔物を直撃し、巨体の大半を消し飛ばした。
魔法の発動によって生じた熱風がリナリアの長い髪を揺らし、前髪がふわりと浮き上げる。
元よりだいぶ小さくなった魔物の死骸が音を立てて地面に倒れた。
リナリアの左腕に巻き付いていたツタもまた力を失い、地面に落ちる。
「…………」
冷や汗を流しながら、リナリアはゆっくりと首を動かしてアルルを見た。
(嘘でしょう、この子……こんな力があるなんて……)
ヴィオラは魔法が使えることを自慢していたが、彼女は長時間集中しても、小指の先ほどの大きさの火を生み出すのが精いっぱいだ。
この国には爵位制度があり、上位から公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵となっている。
一般的に爵位が上がるほど魔力が強いと言われているため、男爵の令嬢ならばたいした魔法が使えないのも仕方ないところではある。
ではこの国の王族はどうかといえば、王子妃選考会の開会式で、国王テオドシウスは空中に巨大な水の塊を出現させ、見事な竜神の姿を描いてみせた。
神業の如き魔法に、集まった歌姫たちや歌姫を支援する貴族たちはどよめき、惜しみない拍手を贈った。
見た目の派手さなら、あのとき国王がしてみせたパフォーマンスのほうが上だろう。
(でも、いまアルルが使った魔法の精度と威力ときたら――)
アルルは一瞬で正確無比に魔物を撃ち抜いた。
周囲に立ち並ぶ木々や植物には傷一つつけることなく、魔物だけを。
魔力の強い者ならば『高威力の魔法を全力で放つ』ことは簡単だろうが、果たして攻撃目標以外を巻き込まず、アルルほど完璧に魔法をコントロールできる者はどれだけいることか。
驚愕している間に、アルルが近づいてきて首を傾げた。
大丈夫? と言っているらしい。
「……ええ、大丈夫よ。アルルは魔法が使えるのね」
アルルは頷き、両前足を大岩に向けて突き出した。
魔法陣から放たれた水鉄砲が大岩にぶつかって弾ける。
さっきと違って威力は控えめにしたらしく、水鉄砲は大岩を穿つことなく、大岩の側面と地面を濡らしただけで終わった。
「えっ!? あなた、貴重な光属性魔法だけじゃなく、水属性魔法まで使えるの!?」
リナリアの仰天ぶりが愉快だったのか、アルルは続いて地面の土を操って土人形を作り、風を起こしてリナリアの頭上に葉っぱの雨を降らせ、前方の空間に真っ黒な靄のようなものを生み出してみせた。
「わ、わかった。あなたがすごい魔法使いだっていうのはよくわかったから、その辺で」
放っとくとまだまだ魔法を放ちそうなアルルの両肩を掴んで止める。
「あなた本当にすごいわ、アルル。助けてくれてありがとう」
頭を撫でると、アルルはくすぐったそうに首を竦めた。
「……でもね、魔法を人に向かって撃ったらダメよ? 誰かに危害を加えられそうになったときは容赦しなくていいけど、相手の命を奪うのは禁止。特に、あの光線《ビーム》は何があっても撃っちゃダメ。約束してね?」
アルルは頷いた。
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