日曜日の紅茶と不思議な猫。

星名柚花(恋愛小説大賞参加中)

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38:くるくる回る恋心(4)

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「さっきの話だけど、本当に気にしなくていいから。そこまで世話になるのも申し訳ないし、今度からはちゃんと作るよ。そうしないとミヤビがうるさい」
「うん、そっか、わかった。ちゃんと食べたほうがいいよ」
 真面目な高坂くんのことだから、そう簡単に人の家――しかも異性の家――でご飯をご馳走になるなんて頷きはしないだろうとは思っていた。思っていた、けれど。

 ちょっと残念なような。これで良かったような。乙女心は複雑だ。

「……じゃあさー、月曜日と木曜日はお邪魔するなんてどう?」
 ミヤビは食い下がった。

「まだ言うか」
 高坂くんは呆れたような顔をした。
「燃えるごみの日だよね、それって」
「覚えやすくない? 律がやるって言っても前科が多すぎて、いまいち信用ならないもの。せめて週に二回くらいはまともなご飯を作ってもらいなさいよ。白雪先輩と違ってくるみならそれほど緊張しなくて済むだろうし」
 白雪先輩と違って。ミヤビの言葉は私の胸に突き刺さった。
 顔を曇らせた私を、ミヤビが不思議そうに見ている。

「お前、何言ってんの」
「だってそうじゃない。くるみの家ならあたしたちも気軽に行けるし、喋れるしさ。くるみ、駄目? もし引き受けてくれるならお礼に律に関するとっておきの情報を教えてあげるけど」
「高坂くんの情報?」
「興味を持たないでくれ。他人に余計なことを吹き込もうとする猫は捨てるぞ」
「やあね、ガールズトークをするだけよう。律の不利になるようなことは絶対に言わないから、この後ちょっとお邪魔してもいいかしら」
「何を言うつもりだよ」
「聞いといて損はないと思うけどな?」
 ミヤビは思わせぶりなことを言って、私を見上げた。

 ……なんだろう。この目は。
 高坂くんに関する情報なら、何でも知りたいという欲求が膨れ上がる。だって好きなんだもの。たとえ高坂くんの目に私は映ってないとしても、好きなんだもの。それに、ミヤビに触りたい。久しぶりに、猫を思う存分に愛でたい。

「じゃあ、これからは月曜と木曜は皆さん私の家に集合ということで」
「えっ? 本気で?」
 高坂くんは困惑顔をした。
「高坂くんが嫌ならもちろん、なしで。どうしましょう? 食べたいものをリクエストしてくれるなら、そんなに難しいものでない限り、お応えしたい所存です」
 私は真面目くさった表情で言った。高坂くんの困惑がますます酷くなる。

「可愛い猫二匹と、こんなイケメンと食卓を囲めるなら、身に余る光栄ですが?」
「……さっきからなんなの、その丁寧語」
 高坂くんは笑った。

「わかった。じゃあ、お願いします」
「いえいえこちらこそ。汚い家でよろしければ歓迎します」
 私は王子に仕える家臣のように、一礼した。
「それでは交渉成立ということで、ちょっとばかりミヤビちゃんをお借りしてもよろしいでしょうか?」
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