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22:特別な時間(3)

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「なんで敬語なの。同い年なんだからいらないって言ったじゃん」
 高坂くんはおかしそうに笑って、珈琲が入ったコップを手元に引き寄せた。席に戻るんじゃなくて引き寄せちゃうんですか、そうですか。私の隣に居座るつもりなんですね。思わぬ美形との急接近に、私の心臓が悲鳴をあげてるんですけどもどうしましょう。
 確かに昨日、そう言われてはいるけれど。あなたが不意打ちなんてするからですよ! もしかして私も猫なの? 猫扱いなの!? 天然の女殺しですか!?

「ず、随分と詳しいですね」
 女の子の髪形についてアドバイスできる男子は、そうそういないんじゃないのかな。それとも私が無知なだけ? ええ、彼氏いない暦=年齢ですけども。

「俺の母親、美容師だっ、からな」
 台詞の途中で、彼は微妙に詰まった。それをごまかすように咳払いして、
「俺は日下部さんの髪、いいと思うけど。個性的で」
 たとえそれが、天然パーマの苦労を知らず、生まれつき綺麗な髪を持った者の能天気さから生まれた言葉であっても。

 何の気負いもなく放たれた率直な彼の言葉は、私の憂鬱を昇華してくれた。

「遠目からでも見つけやすくて便利じゃない?」
「あー……」
 確かに一理ある。とても個性的なお母さんの髪は、見間違えようがなかった。
「ありがとう」
 好きだとかそこまで積極的なことを言われたわけではないけれど、励ましてくれたのは嬉しい。世の中には天パというそれだけで馬鹿にしてくる人もいるのだから。
 今朝夢に出てきた人と、高坂くんは、当たり前だけど全然違う。

「もしクラスが一緒だったら凄いよね」
「え?」
 唐突に切り替わった話題に、私は顔をあげた。

「渋谷駅で偶然会って、偶然アパートが一緒でしかも隣の部屋って、これだけでもう奇跡的なのに、さらにクラスが一緒だったら……なんだろう。奇跡を通り越して運命? 前世か何かの呪いかと疑いたくなる」
「呪いって、そんな不吉な」
 せめて神様の悪戯とか、そういう表現をしてほしい。呪いだなんて禍々しい。ひょっとして高坂くんは私との付き合いが嫌なのだろうかと不安になってしまう。
 不満を込めた私の視線に笑って、高坂くんは水を一口飲んだ。

「同じクラスだったら、名字も『く』さかべと『こ』うさか、だから、席が近いどころか隣なんてこともありえるんじゃない?」
「……どうかなぁ」
 もしもそうだったら、私は一体どんな顔をすれば良いのかわからない。凄い偶然だねって笑えばいいのか、困ればいいのか。

 それとも。
 高坂くんは、ミヤビに話しかけられて横を向いた。抱っこをリクエストしたミヤビに、綺麗な顔を綻ばせて抱き上げる彼を見つめながら思う。
 素直に喜ぶのは……駄目なのかな?
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