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43:満天の星の下(5)
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「だから、つまり。高坂くんが傷ついて、引きずる必要なんて全然ないよ!」
「本心がどうだろうと、良いことをしてることに変わりはないと思うんだけど。たとえば渋谷駅で私が迷子になったとき、声をかけてくれたのは高坂くんだけだった。それが偽善だとしたって、私は救われたよ。声をかけてくれて嬉しかった。やらない善よりやる善のほうがよっぽどいいよ」
私は熱を込める。この言葉が彼の心に届くように、願いを込めて。
彼の選択は一つも間違ってなかったと伝わるように。
私の涙を止めてくれたのは彼なんだと知ってもらうために。
「下心があって何が悪いの? バレンタインデーにチョコを渡したらホワイトデーにそわそわしちゃうのは当たり前じゃないの? 誰だって聖人君子じゃないんだから、見返りを期待するななんて無理だよ。人に好かれたいと思うのは当然のことでしょう? 何が悪いの? 高坂くんのどこが間違ってるの? 私にはわからない」
驚いている様子の高坂くんに、私はまくし立てる。
「高坂くんは空っぽなんかじゃない。優しい人だよ。だから……」
白状すると、私は嫉妬していた。彼女という私の憧れのポジションを手に入れておきながら、結果的に高坂くんを傷つけた、顔も知らないその子に。
私なら努力する。村人Dにしかなれなくても、王子様が私を選んでくれるなら、私はお姫様に相応しいように努力する。
王子様に――高坂くんに、あんな哀しそうな顔なんて、絶対にさせない。
私は高坂くんに幸せでいてほしい。笑っていてほしい。それだけだ。
人語を喋る不思議な二匹の猫を愛でて、のんびりと笑っている、彼の姿を見ているのが一番幸せなのだ。
「…………」
高坂くんは、しばらく私の言葉を吟味するように何も言わなかった。
やがて、私を見て言った。
「日下部さんも大概、良い人だよね」
「え。いや、私もそんな良い人じゃないよ。良い人と思われたいだけだよ」
慌てて否定すると、彼は笑ったようだった。
「そっか。じゃ、似たもの同士かな。日下部さんと付き合ったら肩の力が抜けるかも」
「ふえっ!?」
答える声がひっくり返ったのは、仕方ないことだろう。
「冗談だよ」
そう言って笑って、高坂くんは上体を倒した。
……なんだ、冗談か。
ちょっぴり残念になりながら、私も隣に寝転んだ。
目の前に広がる星空は、不思議とさっき見上げたときよりも綺麗に見える。少しだけ彼との距離が近づいたような気がするからかな。
「そういえば明日は――いやもう今日か。木曜日だけど、夕飯作ってくれるの?」
「うん。いいよ」
毎週二日間は彼が私の部屋に来て夕食を食べることになっているけれど、彼は食事代を払うといって聞かなかった。一食五百円。結構なお金だと思う。私がいらないと言い張っても「労働に対する正当な報酬だ」と彼は聞かなかった。仕方ないので、彼からもらったお金は彼自身への誕生日プレゼントにでも使おうと思う。
「本心がどうだろうと、良いことをしてることに変わりはないと思うんだけど。たとえば渋谷駅で私が迷子になったとき、声をかけてくれたのは高坂くんだけだった。それが偽善だとしたって、私は救われたよ。声をかけてくれて嬉しかった。やらない善よりやる善のほうがよっぽどいいよ」
私は熱を込める。この言葉が彼の心に届くように、願いを込めて。
彼の選択は一つも間違ってなかったと伝わるように。
私の涙を止めてくれたのは彼なんだと知ってもらうために。
「下心があって何が悪いの? バレンタインデーにチョコを渡したらホワイトデーにそわそわしちゃうのは当たり前じゃないの? 誰だって聖人君子じゃないんだから、見返りを期待するななんて無理だよ。人に好かれたいと思うのは当然のことでしょう? 何が悪いの? 高坂くんのどこが間違ってるの? 私にはわからない」
驚いている様子の高坂くんに、私はまくし立てる。
「高坂くんは空っぽなんかじゃない。優しい人だよ。だから……」
白状すると、私は嫉妬していた。彼女という私の憧れのポジションを手に入れておきながら、結果的に高坂くんを傷つけた、顔も知らないその子に。
私なら努力する。村人Dにしかなれなくても、王子様が私を選んでくれるなら、私はお姫様に相応しいように努力する。
王子様に――高坂くんに、あんな哀しそうな顔なんて、絶対にさせない。
私は高坂くんに幸せでいてほしい。笑っていてほしい。それだけだ。
人語を喋る不思議な二匹の猫を愛でて、のんびりと笑っている、彼の姿を見ているのが一番幸せなのだ。
「…………」
高坂くんは、しばらく私の言葉を吟味するように何も言わなかった。
やがて、私を見て言った。
「日下部さんも大概、良い人だよね」
「え。いや、私もそんな良い人じゃないよ。良い人と思われたいだけだよ」
慌てて否定すると、彼は笑ったようだった。
「そっか。じゃ、似たもの同士かな。日下部さんと付き合ったら肩の力が抜けるかも」
「ふえっ!?」
答える声がひっくり返ったのは、仕方ないことだろう。
「冗談だよ」
そう言って笑って、高坂くんは上体を倒した。
……なんだ、冗談か。
ちょっぴり残念になりながら、私も隣に寝転んだ。
目の前に広がる星空は、不思議とさっき見上げたときよりも綺麗に見える。少しだけ彼との距離が近づいたような気がするからかな。
「そういえば明日は――いやもう今日か。木曜日だけど、夕飯作ってくれるの?」
「うん。いいよ」
毎週二日間は彼が私の部屋に来て夕食を食べることになっているけれど、彼は食事代を払うといって聞かなかった。一食五百円。結構なお金だと思う。私がいらないと言い張っても「労働に対する正当な報酬だ」と彼は聞かなかった。仕方ないので、彼からもらったお金は彼自身への誕生日プレゼントにでも使おうと思う。
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