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37:くるくる回る恋心(3)
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「それは大変だね」
「ああ。彼女の目に映るには、まずは体脂肪率を10%未満に落とさなきゃいけないらしい」
それは、友永くんのことを思っての言葉なのかな。高坂くんも、密かに頑張るつもりだったりするんだろうか。かなり大変なことだと思うけれど、好きな人のためなら肉体改造も苦じゃないとか……?
メリーゴーランドみたいにくるくると無数の言葉が胸の中で渦を巻く。くるくる。くるくる、止まらない。
「くるみは夜何食べた?」
適当な話題を考えているのか、黙っている主に代わってミヤビが尋ねてきた。
「今日は手抜きだよ。きつねうどん」
「律と似たり寄ったりね。カップ麺?」
「ううん、一応自分で茹でた」
「じゃあ律の負けだわ。律ったら、二日連続でカップ麺だもの」
「二日連続って、昨日はパスタだったし。パスタとラーメンは違うだろ」
「……どちらもインスタントという点においては同じだと思うけど」
私の苦言に、高坂くんは渋い顔をした。さすがにまずいかなという自覚はあるらしい。
「ねえ律、そろそろ本当に料理しなさいよ。成長期の男子がカップ麺やらコンビニ弁当やらって、栄養が足りなくなるわよ? なんならくるみに作ってもらえば?」
「えっ!?」
思わぬ発言に、私はつい大声をあげてしまった。
「だって、前に一回カレー作ってもらってたじゃない。おいしかったって言ってたでしょ? ただ飯が嫌ならちゃんとお金を払えばいいんじゃないかしら」
「お前な、無茶言うなよ。お隣さんにそんな迷惑かけられるかって」
高坂くんはミヤビの頭をぽんと叩いて、苦笑した。
「ごめん、気にしないで」
ミヤビの発言は驚いた。驚いたけど、迷惑かといえば、別にそんなことはない。私の決して特別に上手とはいえない、人並みな手料理を、あれだけおいしいとありがたがって食べてくれる人に作るのは、全く迷惑じゃない。むしろ作り甲斐があるし楽しい。
高坂くん、いっつも顔色があんまり良くないんだよね。
白雪先輩のために努力するのは本人の勝手だとは思うけれど、現状でトレーニングや肉体改造なんかしたら駄目だ。まず先にちゃんと食べて栄養をつけないと、悲惨な結果にしかならない。
私が彼の力になれるのなら。
お姫様の役は別の人に譲っても、料理人としてでも役に立てるなら!
「……わ、私は構わないけど。も」
精いっぱいの勇気を振り絞ったせいで、台詞に力がこもってしまい、言葉が不自然に途切れた。
「…………」
高坂くんが目をぱちくりしている。
ああ、恥ずかしい。私の顔は真っ赤だろう。いまが夜で良かった。
「いや、いいよ。そこまでしてもらわなくても」
「してもらいなさいよ! あんたマジで栄養失調で死ぬわよ!? 朝はパンと珈琲一杯、昼も購買か学食、夜はカップ麺って! どういう食生活なのよ完全に破綻してるじゃないの!」
ミヤビはばしばしと激しい猫パンチを繰り出した。
「お前は俺の母親か!?」
「恋猫兼母親代わりよ文句ある!?」
「文句というか突っ込みどころしかない! 恋猫ってなんだ!?」
「恋人ならぬ恋猫よ!」
「いつ誰がお前に恋を――」
「まあまあ、二人とも、落ち着いて。ノエルくんがおろおろしてるから。泣きそうだから」
足元でおろおろしている子猫の代わりに仲裁する。ノエルは人の大声が苦手らしいということを学んだ。すっかり怯えてしまっている。
「ああ、ごめんノエル。お前がいるのに大声出して。しかもこんな夜に騒ぐなんて近所迷惑だよな」
高坂くんはミヤビを下ろして、ノエルを抱き上げた。震えている子猫を優しく撫でながら、私のほうを向く。
「ああ。彼女の目に映るには、まずは体脂肪率を10%未満に落とさなきゃいけないらしい」
それは、友永くんのことを思っての言葉なのかな。高坂くんも、密かに頑張るつもりだったりするんだろうか。かなり大変なことだと思うけれど、好きな人のためなら肉体改造も苦じゃないとか……?
メリーゴーランドみたいにくるくると無数の言葉が胸の中で渦を巻く。くるくる。くるくる、止まらない。
「くるみは夜何食べた?」
適当な話題を考えているのか、黙っている主に代わってミヤビが尋ねてきた。
「今日は手抜きだよ。きつねうどん」
「律と似たり寄ったりね。カップ麺?」
「ううん、一応自分で茹でた」
「じゃあ律の負けだわ。律ったら、二日連続でカップ麺だもの」
「二日連続って、昨日はパスタだったし。パスタとラーメンは違うだろ」
「……どちらもインスタントという点においては同じだと思うけど」
私の苦言に、高坂くんは渋い顔をした。さすがにまずいかなという自覚はあるらしい。
「ねえ律、そろそろ本当に料理しなさいよ。成長期の男子がカップ麺やらコンビニ弁当やらって、栄養が足りなくなるわよ? なんならくるみに作ってもらえば?」
「えっ!?」
思わぬ発言に、私はつい大声をあげてしまった。
「だって、前に一回カレー作ってもらってたじゃない。おいしかったって言ってたでしょ? ただ飯が嫌ならちゃんとお金を払えばいいんじゃないかしら」
「お前な、無茶言うなよ。お隣さんにそんな迷惑かけられるかって」
高坂くんはミヤビの頭をぽんと叩いて、苦笑した。
「ごめん、気にしないで」
ミヤビの発言は驚いた。驚いたけど、迷惑かといえば、別にそんなことはない。私の決して特別に上手とはいえない、人並みな手料理を、あれだけおいしいとありがたがって食べてくれる人に作るのは、全く迷惑じゃない。むしろ作り甲斐があるし楽しい。
高坂くん、いっつも顔色があんまり良くないんだよね。
白雪先輩のために努力するのは本人の勝手だとは思うけれど、現状でトレーニングや肉体改造なんかしたら駄目だ。まず先にちゃんと食べて栄養をつけないと、悲惨な結果にしかならない。
私が彼の力になれるのなら。
お姫様の役は別の人に譲っても、料理人としてでも役に立てるなら!
「……わ、私は構わないけど。も」
精いっぱいの勇気を振り絞ったせいで、台詞に力がこもってしまい、言葉が不自然に途切れた。
「…………」
高坂くんが目をぱちくりしている。
ああ、恥ずかしい。私の顔は真っ赤だろう。いまが夜で良かった。
「いや、いいよ。そこまでしてもらわなくても」
「してもらいなさいよ! あんたマジで栄養失調で死ぬわよ!? 朝はパンと珈琲一杯、昼も購買か学食、夜はカップ麺って! どういう食生活なのよ完全に破綻してるじゃないの!」
ミヤビはばしばしと激しい猫パンチを繰り出した。
「お前は俺の母親か!?」
「恋猫兼母親代わりよ文句ある!?」
「文句というか突っ込みどころしかない! 恋猫ってなんだ!?」
「恋人ならぬ恋猫よ!」
「いつ誰がお前に恋を――」
「まあまあ、二人とも、落ち着いて。ノエルくんがおろおろしてるから。泣きそうだから」
足元でおろおろしている子猫の代わりに仲裁する。ノエルは人の大声が苦手らしいということを学んだ。すっかり怯えてしまっている。
「ああ、ごめんノエル。お前がいるのに大声出して。しかもこんな夜に騒ぐなんて近所迷惑だよな」
高坂くんはミヤビを下ろして、ノエルを抱き上げた。震えている子猫を優しく撫でながら、私のほうを向く。
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