33 / 44
33:お茶会(6)
しおりを挟む
「手伝いますよ」
私が席を立つよりも先に、高坂くんが動くほうが早かった。
「いいわよ、運ぶだけだから」
「でも、トレーが小さいから一回じゃ無理でしょう? だったら準備する人と運ぶ人がいたほうが速いです」
「……まあそうね。ありがとう」
白雪先輩も高坂くんの申し出を無碍にはできなかったらしく、最終的には折れて微笑んだ。
「いえ」
高坂くんはその笑みから逃れるように、さりげなく目を逸らした。
あ、まただ。
さっきと同じだ。彼は白雪先輩とできるだけ目を合わせないようにしている。
その理由は……?
「あーなるほどな」
ぴんときたように、友永くんが笑った。秘密を握った、そんな感じで。
高坂くんがカップが載ったトレーを持って運んできた。にやにやしている友永くんを見て「なんだよ気持ち悪い」と、結構酷いことを言う。
「べっつにー。次回からは俺ら、お茶会は遠慮したほうがいいのかなって。惚れてんだろ? 美人だもんな、先輩」
「違うし。勘違いするな」
各自に飲み物を配りながら、高坂くんは複雑な顔をした。嫌がっているようにも、照れ隠しのようにも見える。
……ああ、そうか。
高坂くんは、白雪先輩のことが好きなんだ。
何故か、胸に痛みが走ったような気がして、テーブルの下で手を握る。
ミヤビは飼い主のそんな想いを知っていたから『彼女候補生』と言ったのだろうか。
「さあ、お茶会を始めましょうか」
お菓子を並べて、全ての準備を整えた白雪先輩が、席に着いて微笑んだ。私のように、化粧なんてしなくても元から充分に魅力的な、美しい顔で。
「どうしましょうか。まずは入学を祝って乾杯かしらね」
「乾杯って、そんなビールみたいな」
高坂くんが苦笑いする。もう慣れたのか、今度は白雪先輩をまっすぐに見つめた。
「言ったでしょう、このお茶会は『何でもあり』がモットーなのよ。じゃあみんなカップを持って。三人とも、桜庭高校、アーンド、桜庭荘へようこそ! かんぱーい!」
「かんぱーい!」
「乾杯」
ノリが良いのは友永くんだけで、私と高坂くんは『カップで乾杯ってどうなの?』という戸惑いが抜けないまま、控えめにカップを鳴らした。
私が愛想笑いを浮かべていると気づいたらしく、高坂くんが同志を見つけたような顔で笑いかけてきた。私も笑い返す。難しかったけれど、どうにか笑みを作った。
「ではでは、自己紹介タイムといきましょう。まずは私から、時計回りね。有栖川白雪、三年二組。生徒会書記をやってます。誕生日は8月20日で、しし座です。リーダーシップがあるなんていわれてるけどそうでもないわ」
白雪先輩は苦笑した。
そうかなぁ。お茶会を決行したのは先輩の勇気と決断力だと思うけれど。彼女の行動力をもってしてもリーダーになれないなら、他の誰にもリーダーなんてなれないと思う。
「趣味は音楽鑑賞、ポップもロックも好きよ。なにか質問ある人ー?」
「はーい、彼氏いますか?」
友永くんは片手を挙げて質問した。さりげなく高坂くんを肘で突いて。
高坂くんは嫌そうな顔をしたけれど、無視している。
「残念ながらいません。なかなか理想通りの人にめぐり合えなくてね。理想が高すぎるんだって友達からは言われてるんだけど、好きになる相手に妥協なんてしたくないもの」
白雪先輩は微笑んだ。
私が席を立つよりも先に、高坂くんが動くほうが早かった。
「いいわよ、運ぶだけだから」
「でも、トレーが小さいから一回じゃ無理でしょう? だったら準備する人と運ぶ人がいたほうが速いです」
「……まあそうね。ありがとう」
白雪先輩も高坂くんの申し出を無碍にはできなかったらしく、最終的には折れて微笑んだ。
「いえ」
高坂くんはその笑みから逃れるように、さりげなく目を逸らした。
あ、まただ。
さっきと同じだ。彼は白雪先輩とできるだけ目を合わせないようにしている。
その理由は……?
「あーなるほどな」
ぴんときたように、友永くんが笑った。秘密を握った、そんな感じで。
高坂くんがカップが載ったトレーを持って運んできた。にやにやしている友永くんを見て「なんだよ気持ち悪い」と、結構酷いことを言う。
「べっつにー。次回からは俺ら、お茶会は遠慮したほうがいいのかなって。惚れてんだろ? 美人だもんな、先輩」
「違うし。勘違いするな」
各自に飲み物を配りながら、高坂くんは複雑な顔をした。嫌がっているようにも、照れ隠しのようにも見える。
……ああ、そうか。
高坂くんは、白雪先輩のことが好きなんだ。
何故か、胸に痛みが走ったような気がして、テーブルの下で手を握る。
ミヤビは飼い主のそんな想いを知っていたから『彼女候補生』と言ったのだろうか。
「さあ、お茶会を始めましょうか」
お菓子を並べて、全ての準備を整えた白雪先輩が、席に着いて微笑んだ。私のように、化粧なんてしなくても元から充分に魅力的な、美しい顔で。
「どうしましょうか。まずは入学を祝って乾杯かしらね」
「乾杯って、そんなビールみたいな」
高坂くんが苦笑いする。もう慣れたのか、今度は白雪先輩をまっすぐに見つめた。
「言ったでしょう、このお茶会は『何でもあり』がモットーなのよ。じゃあみんなカップを持って。三人とも、桜庭高校、アーンド、桜庭荘へようこそ! かんぱーい!」
「かんぱーい!」
「乾杯」
ノリが良いのは友永くんだけで、私と高坂くんは『カップで乾杯ってどうなの?』という戸惑いが抜けないまま、控えめにカップを鳴らした。
私が愛想笑いを浮かべていると気づいたらしく、高坂くんが同志を見つけたような顔で笑いかけてきた。私も笑い返す。難しかったけれど、どうにか笑みを作った。
「ではでは、自己紹介タイムといきましょう。まずは私から、時計回りね。有栖川白雪、三年二組。生徒会書記をやってます。誕生日は8月20日で、しし座です。リーダーシップがあるなんていわれてるけどそうでもないわ」
白雪先輩は苦笑した。
そうかなぁ。お茶会を決行したのは先輩の勇気と決断力だと思うけれど。彼女の行動力をもってしてもリーダーになれないなら、他の誰にもリーダーなんてなれないと思う。
「趣味は音楽鑑賞、ポップもロックも好きよ。なにか質問ある人ー?」
「はーい、彼氏いますか?」
友永くんは片手を挙げて質問した。さりげなく高坂くんを肘で突いて。
高坂くんは嫌そうな顔をしたけれど、無視している。
「残念ながらいません。なかなか理想通りの人にめぐり合えなくてね。理想が高すぎるんだって友達からは言われてるんだけど、好きになる相手に妥協なんてしたくないもの」
白雪先輩は微笑んだ。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話
水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。
そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。
凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。
「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」
「気にしない気にしない」
「いや、気にするに決まってるだろ」
ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様)
表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。
小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。

傷者部
ジャンマル
青春
高校二年生に上がった隈潟照史(くまがた あきと)は中学の時の幼なじみとのいざこざを未だに後悔として抱えていた。その時の後悔からあまり人と関わらなくなった照史だったが、二年に進学して最初の出席の時、三年生の緒方由紀(おがた ゆき)に傷者部という部活に入ることとなるーー
後悔を抱えた少年少女が一歩だけ未来にあゆみ出すための物語。
冬の水葬
束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。
凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。
高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。
美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた――
けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。
ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。

サンスポット【完結】
中畑 道
青春
校内一静で暗い場所に部室を構える竹ヶ鼻商店街歴史文化研究部。入学以来詳しい理由を聞かされることなく下校時刻まで部室で過ごすことを義務付けられた唯一の部員入間川息吹は、日課の筋トレ後ただ静かに時間が過ぎるのを待つ生活を一年以上続けていた。
そんな誰も寄り付かない部室を訪れた女生徒北条志摩子。彼女との出会いが切っ掛けで入間川は気付かされる。
この部の意義、自分が居る理由、そして、何をすべきかを。
※この物語は、全四章で構成されています。
私の隣は、心が見えない男の子
舟渡あさひ
青春
人の心を五感で感じ取れる少女、人見一透。
隣の席の男子は九十九くん。一透は彼の心が上手く読み取れない。
二人はこの春から、同じクラスの高校生。
一透は九十九くんの心の様子が気になって、彼の観察を始めることにしました。
きっと彼が、私の求める答えを持っている。そう信じて。

切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

夢幻燈
まみはらまさゆき
青春
・・・まだスマホなんてなくて、ケータイすらも学生の間で普及しはじめたくらいの時代の話です。
自分は幼い頃に親に捨てられたのではないか・・・そんな思いを胸の奥底に抱えたまま、無気力に毎日を送る由夫。
彼はある秋の日、小学生の少女・千代の通学定期を拾ったことから少女の祖父である老博士と出会い、「夢幻燈」と呼ばれる不思議な幻燈機を借り受ける。
夢幻燈の光に吸い寄せられるように夢なのか現実なのか判然としない世界の中で遊ぶことを重ねるうちに、両親への思慕の念、同級生の少女への想いが鮮明になってくる。
夢と現の間を行き来しながら展開される、赦しと再生の物語。
※本作は2000年11月頃に楽天ブログに掲載したものを改稿して「小説家になろう」に掲載し、さらに改稿をしたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる