上 下
24 / 44

24:雨の公園で(1)

しおりを挟む
「じゃあねー、また明日!」
「うん、またねーくるみん」
 入学式、記念撮影、HR――等々、今日の日程の全てを無事に終えた私は、T字路で菊池吉乃と手を振って別れた。

 吉乃ちゃんはショートカットで背も高い、ボーイッシュな少女だ。中学ではテニス部に所属していて、高校でもそのつもりだと言っていた。

 前の席の彼女が明るくて社交的で、仲良くなれそうなことに私は心底ほっとしていた。どちらかというと私は積極的なタイプじゃないから、向こうから話しかけてくれたのは嬉しかった。会話も弾んだし、本当に良かった。

 学校生活において、雑談を楽しんだり行動を共にできる友達がいるかどうか、これは女子にとって大問題である。くるみんというちょっと変わったあだ名で呼びたいと言われたときは面食らってしまったけど。ピクミンみたいだなぁなんて思った。

 どんな人だろうと思っていた友永くんも、吉乃ちゃんと似たタイプで、愛嬌があって人懐っこい。ゲームという共通の趣味があったから、話題にも事欠かなかった。

 うん。幸先の良いスタートだ。私の高校生活は希望に満ちている。
 そうであればいい。誰だって、寂しい高校生活よりも楽しい高校生活のほうが良いに決まっているのだから。

 行きかう車を見ながら、傘を差して歩道の端っこを歩く。
 朝から降っていた雨は、より強さを増している。足元の水溜りに無数の波紋が生まれ、揺らいでいる。通りの看板も雨に煙り、大人たちは心なしか早足で歩いていた。

 雨の中、はしゃいでいるのは元気な子どもたちだけだ。水溜りに長靴を突っ込んで遊んでいる子どもたちを見て、若いなぁ、なんて思う。あの子たちよりも年を取ってしまった私は、一時の水遊びよりも濡れた靴の心配が先に立つ。大人になるというのはきっとこういうことなのだろう。

 大きな住宅の庭には、目を奪う鮮やかな黄色い花をつけた、アカシアの木が植えられていた。葉の先端からぽたん、と雨の雫が落ちてきて、私の傘を叩いた。
 あの桜はどうなっているだろう。

 ふと私の脳裏をよぎったのは、近所にある公園の桜だった。公園の中にはちょっとした桜並木がある。そして、その桜並木から外れたところ、公園の出口に近い場所にも何故か一本だけ桜が植えてあるのだ。

 なんで一本だけ離れた場所に植えられているのか、理由はよくわからない。
 でも、私は桜並木よりも、あの桜のほうが気になった。群れからはぐれて、たった一本だけで凜と咲く、あの若い桜が。

 私は足のつま先の方向を変えた。

 傘を差していても、雨に打たれ続ける真新しいローファーのことを思えば、早く家に帰るべきなのだろう。でも、気になってしまったのだから仕方ない。
 家に帰ってしまったらきっと、私は濡れた傘を畳み、きちんとボタンをかけて閉じてしまう。こんな雨の中、再び出歩こうとは思えない。出不精の私は、出かけたときは効率的に、全ての物事を片付けてしまいたい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

飛ぶことと見つけたり

ぴよ太郎
青春
学生時代に青春し忘れていた国語教師、押井。 受験前だというのにやる気がみえない生徒たち、奇妙な同僚教師、犬ばかり構う妻。満たされない日々を送っていたある日の帰り道、押井はある二人組と出会う。彼らはオランダの伝統スポーツ、フィーエルヤッペンの選手であり、大会に向けて練習中だった。 押井は青春を取り戻そうとフィーエルヤッペンに夢中になり、やがて大会に臨むことになる。そこで出会ったのは、因縁深きライバル校の社会教師、山下だった。 大人になっても青春ができる、そんなお話です。 ちょっと眺めの3万文字です(笑)

家庭訪問の王子様

冴月希衣@電子書籍配信中
青春
【片想いって、苦しいけど楽しい】 一年間、片想いを続けた『図書館の王子様』に告白するため、彼が通う私立高校に入学した花宮萌々(はなみやもも)。 ある決意のもと、王子様を自宅に呼ぶミッションを実行に移すが——。 『図書館の王子様』の続編。 『キミとふたり、ときはの恋。』のサブキャラ、花宮萌々がヒロインです。 ☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆ ◆本文、画像の無断転載禁止◆ No reproduction or republication without written permission.

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

NTRするなら、お姉ちゃんより私の方がいいですよ、先輩?

和泉鷹央
青春
 授業のサボリ癖がついてしまった風見抱介は高校二年生。  新学期早々、一年から通っている図書室でさぼっていたら可愛い一年生が話しかけてきた。 「NTRゲームしません?」 「はあ?」 「うち、知ってるんですよ。先輩がお姉ちゃんをNTRされ……」 「わわわわっーお前、何言ってんだよ!」  言い出した相手は、槍塚牧那。  抱介の元カノ、槍塚季美の妹だった。 「お姉ちゃんをNTRし返しませんか?」  などと、牧那はとんでもないことを言い出し抱介を脅しにかかる。 「やらなきゃ、過去をバラすってことですか? なんて奴だよ……!」 「大丈夫です、私が姉ちゃんの彼氏を誘惑するので」 「え? 意味わかんねー」 「そのうち分かりますよ。じゃあ、参加決定で!」  脅されて引き受けたら、それはNTRをどちらかが先にやり遂げるか、ということで。  季美を今の彼氏から抱介がNTRし返す。  季美の今の彼氏を……妹がNTRする。    そんな提案だった。  てっきり姉の彼氏が好きなのかと思ったら、そうじゃなかった。  牧那は重度のシスコンで、さらに中古品が大好きな少女だったのだ。  牧那の姉、槍塚季美は昨年の夏に中古品へとなってしまっていた。 「好きなんですよ、中古。誰かのお古を奪うの。でもうちは新品ですけどね?」  姉を中古品と言いながら自分のモノにしたいと願う牧那は、まだ季美のことを忘れられない抱介を背徳の淵へと引きずり込んでいく。 「新品の妹も、欲しくないですか、セ・ン・パ・イ?」  勝利者には妹の愛も付いてくるよ、と牧那はそっとささやいた。  他の投稿サイトでも掲載しています。

浮気中の婚約者が私には塩対応なので塩対応返しすることにした

今川幸乃
恋愛
スターリッジ王国の貴族学園に通うリアナにはクリフというスポーツ万能の婚約者がいた。 リアナはクリフのことが好きで彼のために料理を作ったり勉強を教えたりと様々な親切をするが、クリフは当然の顔をしているだけで、まともに感謝もしない。 しかも彼はエルマという他の女子と仲良くしている。 もやもやが募るもののリアナはその気持ちをどうしていいか分からなかった。 そんな時、クリフが放課後もエルマとこっそり二人で会っていたことが分かる。 それを知ったリアナはこれまでクリフが自分にしていたように塩対応しようと決意した。 少しの間クリフはリアナと楽しく過ごそうとするが、やがて試験や宿題など様々な問題が起こる。 そこでようやくクリフは自分がいかにリアナに助けられていたかを実感するが、その時にはすでに遅かった。 ※4/15日分の更新は抜けていた8話目「浮気」の更新にします。話の流れに差し障りが出てしまい申し訳ありません。

あたし、婚活します!

桃青
青春
いつの時代なのか、どこの場所なのか、母に婚活を迫られたアンナは、都会で婚活をすることを決意。見届け人のカイルに見守られながら、ど定番な展開で、様々な男性と巡り合い…。目指すはハッピーエンドなのです。朝にアップロードします。

〖完結〗では、婚約解消いたしましょう。

藍川みいな
恋愛
三年婚約しているオリバー殿下は、最近別の女性とばかり一緒にいる。 学園で行われる年に一度のダンスパーティーにも、私ではなくセシリー様を誘っていた。まるで二人が婚約者同士のように思える。 そのダンスパーティーで、オリバー殿下は私を責め、婚約を考え直すと言い出した。 それなら、婚約を解消いたしましょう。 そしてすぐに、婚約者に立候補したいという人が現れて……!? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話しです。

ネットで出会った最強ゲーマーは人見知りなコミュ障で俺だけに懐いてくる美少女でした

黒足袋
青春
インターネット上で†吸血鬼†を自称する最強ゲーマー・ヴァンピィ。 日向太陽はそんなヴァンピィとネット越しに交流する日々を楽しみながら、いつかリアルで会ってみたいと思っていた。 ある日彼はヴァンピィの正体が引きこもり不登校のクラスメイトの少女・月詠夜宵だと知ることになる。 人気コンシューマーゲームである魔法人形(マドール)の実力者として君臨し、ネットの世界で称賛されていた夜宵だが、リアルでは友達もおらず初対面の相手とまともに喋れない人見知りのコミュ障だった。 そんな夜宵はネット上で仲の良かった太陽にだけは心を開き、外の世界へ一緒に出かけようという彼の誘いを受け、不器用ながら交流を始めていく。 太陽も世間知らずで危なっかしい夜宵を守りながら二人の距離は徐々に近づいていく。 青春インターネットラブコメ! ここに開幕! ※表紙イラストは佐倉ツバメ様(@sakura_tsubame)に描いていただきました。

処理中です...