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「なにこれ。超うまいんだけど」
それが高坂くんがカレーを一口食べ終えた後の感想だった。
「信じられん。ただのカレーなのに」
衝撃を受けたように、高坂くんはまじまじとカレーを見つめた。
「そんな大げさな」
賞賛されるほど素晴らしいカレーを作ったつもりはなかった。市販の三種類のカレールーをブレンドし、トマトとはちみつ、隠し味にヨーグルトを入れただけ。
そして上には私と同じカツが乗っている。このカツはスーパーの惣菜コーナーで買ったもので、私が揚げたわけじゃない。ちなみに、男の子なので私よりはよく食べるだろうと、2/3は彼に進呈した。
サラダにはトマトの他に、当初乗せる予定はなかったゆで卵とハムを乗せてみた。ドレッシングは市販のものなので、これも褒められるほどのものじゃない……んだけど。
「カレーは中辛で良かった?」
「うん。ちょうどいい。これって、なんのルー? 食べたことない味だけど」
「三種類をブレンドしてるんだよ」
「ああ、なるほど。ブレンドか。斬新だ。その発想はなかった」
斬新かなぁ?
大げさな物言いに、苦笑する。
高坂くんがサラダもカレーも、それはそれはおいしそうに食べてくれるから、私も嬉しくなってしまう。彼の足元では二匹の猫が猫用のカニかまを頬張っているし。ノエルもカニかまは好きらしい。
同じ年頃の男の子を部屋に招くというのは、本音を言うと緊張で心臓が口から飛び出してしまいそうだったけれど、彼のこんな顔を見られたんだから、思い切って誘って良かった。私は何も間違ってなかった。
「そういえばね」
しばらくお互い無言で箸を進めた後、私は口を開いた。
「今朝、203号室の有栖川先輩に会って挨拶したよ。ミヤビちゃんが知ってるってことは、高坂くんも会ったことがあるんだよね?」
「……ああ、うん」
何故か高坂くんの相槌には微妙な間があった。思い出すのに時間がかかったのか、それとも別の理由があるのか。彼の表情からはよくわからなかった。
「白雪先輩とは引っ越し初日に会ったよ。美人だよな、あの人。物腰も柔らかくて、優しそう」
高坂くんは小さな笑みを覗かせた。
「そうだね。本当に綺麗な人だよね」
何故だろう。お姫様のように美しい白雪先輩のことを思って彼が笑ったのだと思うと、胸がちくんと痛んだような、そんな気がした。
その痛みをごまかすように、笑みを返す。
「お茶会のことは聞いた?」
「お茶会?」
高坂くんは怪訝そうな顔をした。まだ聞いてはいなかったらしい。
そうだ、私が来る前はお茶会を存続するかどうか迷っていたんだから、高坂くんを誘うわけがない。白雪先輩の話を振ったのは私なのに、高坂くんのごく当たり前の感想に妙に動揺してしまって、聞いているわけがないことを言ってしまった。
それが高坂くんがカレーを一口食べ終えた後の感想だった。
「信じられん。ただのカレーなのに」
衝撃を受けたように、高坂くんはまじまじとカレーを見つめた。
「そんな大げさな」
賞賛されるほど素晴らしいカレーを作ったつもりはなかった。市販の三種類のカレールーをブレンドし、トマトとはちみつ、隠し味にヨーグルトを入れただけ。
そして上には私と同じカツが乗っている。このカツはスーパーの惣菜コーナーで買ったもので、私が揚げたわけじゃない。ちなみに、男の子なので私よりはよく食べるだろうと、2/3は彼に進呈した。
サラダにはトマトの他に、当初乗せる予定はなかったゆで卵とハムを乗せてみた。ドレッシングは市販のものなので、これも褒められるほどのものじゃない……んだけど。
「カレーは中辛で良かった?」
「うん。ちょうどいい。これって、なんのルー? 食べたことない味だけど」
「三種類をブレンドしてるんだよ」
「ああ、なるほど。ブレンドか。斬新だ。その発想はなかった」
斬新かなぁ?
大げさな物言いに、苦笑する。
高坂くんがサラダもカレーも、それはそれはおいしそうに食べてくれるから、私も嬉しくなってしまう。彼の足元では二匹の猫が猫用のカニかまを頬張っているし。ノエルもカニかまは好きらしい。
同じ年頃の男の子を部屋に招くというのは、本音を言うと緊張で心臓が口から飛び出してしまいそうだったけれど、彼のこんな顔を見られたんだから、思い切って誘って良かった。私は何も間違ってなかった。
「そういえばね」
しばらくお互い無言で箸を進めた後、私は口を開いた。
「今朝、203号室の有栖川先輩に会って挨拶したよ。ミヤビちゃんが知ってるってことは、高坂くんも会ったことがあるんだよね?」
「……ああ、うん」
何故か高坂くんの相槌には微妙な間があった。思い出すのに時間がかかったのか、それとも別の理由があるのか。彼の表情からはよくわからなかった。
「白雪先輩とは引っ越し初日に会ったよ。美人だよな、あの人。物腰も柔らかくて、優しそう」
高坂くんは小さな笑みを覗かせた。
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何故だろう。お姫様のように美しい白雪先輩のことを思って彼が笑ったのだと思うと、胸がちくんと痛んだような、そんな気がした。
その痛みをごまかすように、笑みを返す。
「お茶会のことは聞いた?」
「お茶会?」
高坂くんは怪訝そうな顔をした。まだ聞いてはいなかったらしい。
そうだ、私が来る前はお茶会を存続するかどうか迷っていたんだから、高坂くんを誘うわけがない。白雪先輩の話を振ったのは私なのに、高坂くんのごく当たり前の感想に妙に動揺してしまって、聞いているわけがないことを言ってしまった。
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