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18:ありがとうを言いたくて(1)

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 白雪先輩の話によれば、桜庭荘に住む桜庭高校生は、月に一度、第二の日曜日に誰かの部屋に集まってお茶会を開く習慣がある。紅茶好きの女子生徒から端を発したそれは、五年ほど続いているそうだ。

 しかし、今年は桜庭高校生のほとんどが卒業してしまい、お茶会のメンバーとして残ったのは白雪先輩だけ。新しく入ったのは高坂くんと、まだ会ったことがない205号室の友永旭《ともながあさひ》くん。

 さすがに三年生の女子一人と一年生の男子二人では気後れする……と、悩んでいたところに私が入居してきた。

 紅茶も珈琲もどちらも好きです、と答えると、白雪先輩はそれはもう、嬉しそうな顔をした。お茶会と銘打ってはいるものの、飲む物は珈琲でも紅茶でも緑茶でも、なんでもありらしい。

 絵本の中ではアリスのお茶会ティーパーティーは確か紅茶だったけど、そこは柔軟にアレンジしたのだろう。紅茶に限定してしまうより、色んな種類があるほうが楽しいし、飽きない。

 ちなみにこのお茶会、皆で集まるのは第二日曜日と決めてはいるものの、白雪先輩は毎週自室で行っているそうだ。

 気が向いたら来てと言われた。白雪先輩は大の紅茶好きらしい。前のお茶会のメンバーから残り物を頂いたから、ダージリンもアッサムもギャルも、大抵の種類はある。もちろん紅茶嫌いの人のためにもお茶や珈琲も準備してあるから、と熱弁された。

 彼女のお茶会にかける情熱はなかなか凄い。よっぽどお茶が好きなんだろう。
 ううん、お茶じゃなくて、単純に気の知れた友達と集まるのが好きなのかな。だとしたら、先輩たちが卒業してしまってとても寂しかったのだろう。

「気の知れた友達」
 口に出して呟いてみる。
 さて、私は二歳離れた美人の先輩と友達になれるのだろうか。
 東京での友達はいないし、友達は大いに越したことはない。
 友達になれたら嬉しいな。

 午前10時になり、テレビの番組が切り替わって週間天気予報を告げた。明々後日の入学式の日は雨らしい。
 雨。その単語だけで憂鬱になってしまうのは、天然パーマの髪を持つ者の宿命だ。何故よりにもよって新しいクラスメイトたちと会う初めての日が雨なんだと私は唸った。

 照る照る坊主を作ってみようか、と幼稚な考えが閃いたものの、すぐに打ち消す。ティッシュを丸めて少々加工するくらいで天気が変わるなら、楽なんだけど。
 ため息をついてテレビを消し、立ち上がって外出の準備を整える。

 今日は買いたいものがあった。否、買わなければならないものがある。
 浄水器だ。
 昨日の夜、私はうがいをしただけで水道水の味がおかしいことに気づいた。なんというか、化学のような味がする。とても人工的で、天然水とは程遠い。
 有体に言えば、とても不味い。それはもう、信じがたいほどに。

 ドラッグストアやスーパーで何故水が売られているのか、田舎育ちの私は水を買うという意味すらわからなかったけれど、いまならわかる。都会の水は飲めたものじゃない。味を身体が拒否してしまう。

 昨日のうちにキッチンの水道は携帯に撮っておいたし、一応メジャーでサイズも測っておいた。この写真と記録があれば、電器屋さんで浄水器のコーナーに行っても迷わずには済む、はず。
 戸締りを終えてから、私は外へと出て行った。


 浄水器と、夕食用の野菜諸々を買った私は、それなりの荷物を抱えて帰宅した。慣れない手つきで浄水器を取りつけた後、試しに一口飲んでみる。

「……田舎の水には勝てませんな」
 評論家のようなことを言いながら、コップを置く。それでも浄水器があるのとないのとでは味が違う。それなりに高価なものを買ったのだから、これで良かったのだろう。

 夕食にはカレーとサラダを作った。どちらも比較的簡単な料理だ。
 5分経ったら出来上がり……というところで、隣の部屋の扉が開く音がした。
 高坂くんの部屋だ。彼もどこかに出かけていたらしい。
 あっ、お礼を言うチャンスかも!
 私は火を止めて、急いで玄関を出た。
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