日曜日の紅茶と不思議な猫。

星名柚花(恋愛小説大賞参加中)

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15:隣のデリバリーキャット(5)

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「だから言ったでしょ、律は優しいのよ。きっと人一倍寂しい思いをしてきたから、寂しさには敏感なの。善人に思われたくないらしいけど、根っからの善人なのよねぇ。そこがまた律の魅力でもあるんだけど。あ、でも、惚れるんじゃないわよ。律の彼女候補生はもういるんだから」
 私の膝の上から下りて、ミヤビは隣に座った。

「彼女候補生?」
「そうそう。2階の203号室に住んでる律の先輩よ。同じ高校に通ってる人で、今年3年生で、よくわからないけど『せーとかいしょき』をしてるんだって。凄く優しくて綺麗で、あの人なら律の彼女になってもいいわ。許す」
「ミヤビさんは一体どこの立場から許可を出してるんですか……?」
「ふふ」
 二匹の掛け合いが漫才みたいで面白くて、私は笑った。

「そっか、そんな人がいるんだ。ここは学生向けのアパートだから、同じ学校に通ってる人が多いのかも。明日にでも挨拶に行ってみようかな……」
 不意にこみ上げてきた欠伸を噛み殺す。ベッドにいたときは全く眠気などなかったのに、二匹が来て気が緩んだのか、瞼が重くなってきた。

「あんたいま、欠伸を噛み殺したでしょ。深夜まであたしのお喋りに付き合わされた律と同じ顔してるもの」
 一連の動きを見ていたらしく、ミヤビが目つきを鋭くした。

「う」
「あたしたちが帰っても、もう寂しくはないでしょ?」
「うん」
「そ。律からあんたへの伝言なんだけどさ、『返却はいつでもいいよ』だって」
 その伝言に、私はきょとんとした。
「……返却って、ミヤビちゃんたちのこと?」
「そうよ。あんにゃろう、あたしたちをレンタルショップのCD扱いしてるんだから。失礼しちゃう」
 ミヤビは目をつりあげて、般若の形相をしている。

「なんかムカつくから、しばらく居候してやってもいいわよ。それであたしたちの大切さを知ればいいんだから」
 ミヤビはソファの上でうつ伏せのポーズを取った。拗ねているらしい。
「ぼくは何も言ってないんですけど、ぼくも居残り決定なんですか?」
「あんたに物事の決定権はない」
「なんでですかっ!?」
「ガキだからよ」
「ミヤビちゃん、気持ちはわかるけど帰ってあげて。私は十分あなたたちに救われたから。あなたたちが帰っても私はもう寂しくないよ。ありがとうって、高坂くんにも伝えて欲しい」
 ミヤビの頭を撫でると、ミヤビは「むー……」と唸った。

「大事な飼い猫が二匹ともいなくなっちゃったら、高坂くんが寂しいと思うんだ。ミヤビちゃんは高坂くんのことが大好きなんでしょう? ノエルくんも、私の家じゃくつろげないよ。私だっていきなりほとんど知らない人の家に泊まれって言われても困るもの。ね? ミヤビちゃんは愛らしくて美しくて可憐で思いやりがあって優しくて健気で繊細で儚い美猫なんでしょう?」
「あんな長台詞、よく覚えてたわね……」
「記憶力には自信があるの」
 得意げに胸をそらすと、ミヤビは不思議そうに首を傾げた。

「方向音痴なのに?」
 高坂くんに渋谷駅で迷っていた事実を聞いたらしい。
「……方向音痴と記憶力は関係ないもん……」
 私は小声で言った。

「そっか、じゃあ、帰ろうかしらね。ノエル」
「そうですね」
 ミヤビに応えるノエルの声は少々弾んでいた。やっぱり帰りたかったらしい。

「うん、今日はありがとうね、二匹とも」
「そう思うなら今度はカニかま用意しといてね」
「わかった」
 私は笑いながら、二匹の猫を連れてベランダへと向かったのだった。
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