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13:隣のデリバリーキャット(3)

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「デリバリー……?」
 ミヤビの発言は、私の頭の中の疑問符をさらに増殖させた。
「何よ。このあたしがせっかく小粋な挨拶をしてやったっていうのに、ノリが悪いわねぇ」
 首を傾げた私に、ミヤビは不服そうに鼻を鳴らした。

「あ、えっと、あの……こ、こんな夜更けに突然すみません」
 怯えたように、ノエルは一歩下がった。怒っている自覚もないし、口調で責めたつもりもないんだけど、どうも怖がらせてしまったらしい。愛想良く笑って、優しく言えばよかったなと、私は出迎えの態度を反省した。

「ぼくはノエルっていいます。ミヤビさんと同じで……律さんの飼い猫です」
 ノエルはお辞儀するように頭を下げた。

「その、実はぼくたち、律さんにあなたの様子を見に行くように言われて来たんです。一人暮らしを始めたばかりで、ホームシックになって泣いてるかもしれないって」
「え」
 私は唖然とした。高坂くんが、そんなことを?

「窓からそーっと様子を見てくるだけでいい、寝てたら寝てたで構わないって言われてたのに、なんで思いっきりノックして起こすようなことするんですか、ミヤビさん。起きちゃったじゃないですか!」
「これは寝起きの顔じゃないわよ。反応の速さからしても、本当に起きてたんでしょ? だから問題なし」
 ノエルの抗議に、ミヤビはしれっとした顔――だろう、多分――で言った。

「大有りですよ! なんでミヤビさんはやることなすこと適当なんですか!? これじゃ律さんの気遣いが台無しです!」
「うっさいわねー、律が寝てるあたしを叩き起こすから悪いのよ。大体、話し相手ならあんただけで良かったじゃないの」
「ぼくとくるみさんは会ったことがないんですよ!? 初対面の猫に『慰めに来ましたー』って言われても戸惑って警戒されるだけじゃないですか! 何を話せって言うんですか!」

「あんた人見知りだもんね。元は引きこもりのコミュ障だし。いや、いまでもか」
「ひ、酷いです!」
「……えっと、二匹とも、言い争うのはそれくらいにして、とりあえず中に入って。こんな深夜に大声出すとご近所迷惑だろうし、あなたたちが喋れるっていうのは一応内緒なんだよね?」

『あ』
 自分自身のことだというのに、二匹はようやくそのことについて思い出したらしく、揃って前脚で口を塞いだ。
 その様子が可愛らしくて、私はつい噴き出したのだった。



 三毛猫のミケが死んでから、実に三年ぶりに触る猫の感触は、やはり心地よいものだった。
 猫が膝の上にいて、思う存分撫でることができる。
 これを至福といわずになんというのだろう。

 さっきまで感じていた寂しさはもうない。地平線の彼方に消え去った。
 室内の温度は変わっていない――いや、むしろ一度窓を開けたおかげで少し下がってもおかしくはないのに、二匹の猫が来ただけで寒さすら感じなくなったのだから、人間の体感温度というのは意外と適当なものだ。

 ……とはいえ。
 床の上に座っているノエルを見つめる。

 ミヤビは『好きにしなさい』という感じでくつろいでいるけれど、ノエルのはそうではないのが傍目にもわかる。緊張しているらしく、床の一点を見つめてじっとしている。

 ミヤビ曰く、この子は人見知りで、コミュ障――コミュニケーションを取るのが苦手だ。いくら高坂くんに頼まれたからといっても、初対面の人間の家に来るのは精神的にも辛かったのだろう。

 高坂くんは何故この子を派遣したんだろう。ミヤビだけのほうが良かったんじゃないかな。
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