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09:都会の猫は喋るもの?(3)

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「動物学上の人間の分類よ。正しく挨拶してやったのに、文句でもあるの?」
 どうやらこの猫はかなり高飛車な性格をしているらしく、ふんと鼻を鳴らした。
「私の名前は日下部くるみだよ。くるみって呼んで」
「じゃあくるみ。早速記憶を消したいと思うんだけど、物理と催眠暗示と劇薬どれがいい?」
「どれも怖いんだけど!?」
 やる気満々らしく、はーっと前脚に息を吹きかける白猫。
 私は身の危険を察知し、三歩ほど退いた。

「こらミヤビ、早まるな。記憶を消す劇薬なんて俺は知らないぞ。そもそもこんな往来で堂々と喋ってたお前が悪いんだよ。喋るのは部屋の中でだけ、その約束を破ったのはお前だ」
「むー……だって、最近は誰にも見られなかったから……」
「秘密は油断したときにばれるものなんだよ」
 白猫――ミヤビ?――は、ぽんと頭を叩かれて前脚を下ろした。
 ミヤビを宥めて、少年は私を見た。

「猫を飼ってるって言っただろ。それがこいつ、ミヤビっていうんだ。この通り喋るけど、気にする?」
「……ううん」
 私はかぶりを振った。
 少年とミヤビの視線が、私に集まる。
 信用が置ける人物かどうか、私はいま、試されている。恐らくこの返答で、再び繋がった少年との縁が決定的に切れるかどうか、決まる。

 見透かすような少年の視線の前では、無理に取り繕ったって絶対にばれてしまう。

 ならばまっすぐに、正直に――飾らない本心を伝えよう。

「驚いたけど、気にはしません。東京は色んな人が集まる場所ですから。動物だって色んな種類の子が集まるんでしょう。一匹くらい喋る猫がいたって何もおかしくはないです」
 そして、笑う。

「ミヤビちゃんはこんなに可愛い猫なんだから、喋る技能くらい持ってたって、むしろ納得ですよ。私は絶対に誰にも言いません。約束します」
「…………」
 ミヤビと少年はしばらく黙っていた。
 私はその間、じっと少年を見つめた。嘘じゃないっていう意思を込めて。
 すると、少年はようやく安心したように笑った。

「ありがとう」
「ふん。あたしは感謝なんかしないわよ。あんたが好き勝手言いふらしたって、他人の前では完璧にただの猫を演じてやるもの。あんたが頭おかしいって認識されるだけよ。ま、可愛いって言葉だけは受け取ってやらないでもないけど?」
 ミヤビはそっぽ向いた。

「だからって勘違いしないでよね、あたしが可愛いのは当然のことなんだから。絶対不変の事実を言われたって嬉しくもなんともないんだから」
「尻尾尻尾」
 少年の指摘通り、そっぽ向いたミヤビの尻尾は、喜びを隠しきれないようにぶんぶんと左右にふれていた。

 ああ、この猫、素直じゃないタイプの猫だ。
 私は憎まれ口を叩く本体と尻尾との態度のギャップがおかしくて笑った。

「ところで」
 私は前置きで彼の注意を引いてから、背後で手を組んだ。ビニール袋を持っていたため、実際には手を重ねたような格好だったけど。

「今度こそお名前を聞いても良いですか? どうやらあなたとの縁はこれからも続くようなので」
 出会った初日で再会して、彼の飼い猫の秘密まで知った。
 これはもう、運命的でしょう?
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