上 下
9 / 44

09:都会の猫は喋るもの?(3)

しおりを挟む
「動物学上の人間の分類よ。正しく挨拶してやったのに、文句でもあるの?」
 どうやらこの猫はかなり高飛車な性格をしているらしく、ふんと鼻を鳴らした。
「私の名前は日下部くるみだよ。くるみって呼んで」
「じゃあくるみ。早速記憶を消したいと思うんだけど、物理と催眠暗示と劇薬どれがいい?」
「どれも怖いんだけど!?」
 やる気満々らしく、はーっと前脚に息を吹きかける白猫。
 私は身の危険を察知し、三歩ほど退いた。

「こらミヤビ、早まるな。記憶を消す劇薬なんて俺は知らないぞ。そもそもこんな往来で堂々と喋ってたお前が悪いんだよ。喋るのは部屋の中でだけ、その約束を破ったのはお前だ」
「むー……だって、最近は誰にも見られなかったから……」
「秘密は油断したときにばれるものなんだよ」
 白猫――ミヤビ?――は、ぽんと頭を叩かれて前脚を下ろした。
 ミヤビを宥めて、少年は私を見た。

「猫を飼ってるって言っただろ。それがこいつ、ミヤビっていうんだ。この通り喋るけど、気にする?」
「……ううん」
 私はかぶりを振った。
 少年とミヤビの視線が、私に集まる。
 信用が置ける人物かどうか、私はいま、試されている。恐らくこの返答で、再び繋がった少年との縁が決定的に切れるかどうか、決まる。

 見透かすような少年の視線の前では、無理に取り繕ったって絶対にばれてしまう。

 ならばまっすぐに、正直に――飾らない本心を伝えよう。

「驚いたけど、気にはしません。東京は色んな人が集まる場所ですから。動物だって色んな種類の子が集まるんでしょう。一匹くらい喋る猫がいたって何もおかしくはないです」
 そして、笑う。

「ミヤビちゃんはこんなに可愛い猫なんだから、喋る技能くらい持ってたって、むしろ納得ですよ。私は絶対に誰にも言いません。約束します」
「…………」
 ミヤビと少年はしばらく黙っていた。
 私はその間、じっと少年を見つめた。嘘じゃないっていう意思を込めて。
 すると、少年はようやく安心したように笑った。

「ありがとう」
「ふん。あたしは感謝なんかしないわよ。あんたが好き勝手言いふらしたって、他人の前では完璧にただの猫を演じてやるもの。あんたが頭おかしいって認識されるだけよ。ま、可愛いって言葉だけは受け取ってやらないでもないけど?」
 ミヤビはそっぽ向いた。

「だからって勘違いしないでよね、あたしが可愛いのは当然のことなんだから。絶対不変の事実を言われたって嬉しくもなんともないんだから」
「尻尾尻尾」
 少年の指摘通り、そっぽ向いたミヤビの尻尾は、喜びを隠しきれないようにぶんぶんと左右にふれていた。

 ああ、この猫、素直じゃないタイプの猫だ。
 私は憎まれ口を叩く本体と尻尾との態度のギャップがおかしくて笑った。

「ところで」
 私は前置きで彼の注意を引いてから、背後で手を組んだ。ビニール袋を持っていたため、実際には手を重ねたような格好だったけど。

「今度こそお名前を聞いても良いですか? どうやらあなたとの縁はこれからも続くようなので」
 出会った初日で再会して、彼の飼い猫の秘密まで知った。
 これはもう、運命的でしょう?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

飛ぶことと見つけたり

ぴよ太郎
青春
学生時代に青春し忘れていた国語教師、押井。 受験前だというのにやる気がみえない生徒たち、奇妙な同僚教師、犬ばかり構う妻。満たされない日々を送っていたある日の帰り道、押井はある二人組と出会う。彼らはオランダの伝統スポーツ、フィーエルヤッペンの選手であり、大会に向けて練習中だった。 押井は青春を取り戻そうとフィーエルヤッペンに夢中になり、やがて大会に臨むことになる。そこで出会ったのは、因縁深きライバル校の社会教師、山下だった。 大人になっても青春ができる、そんなお話です。 ちょっと眺めの3万文字です(笑)

家庭訪問の王子様

冴月希衣@電子書籍配信中
青春
【片想いって、苦しいけど楽しい】 一年間、片想いを続けた『図書館の王子様』に告白するため、彼が通う私立高校に入学した花宮萌々(はなみやもも)。 ある決意のもと、王子様を自宅に呼ぶミッションを実行に移すが——。 『図書館の王子様』の続編。 『キミとふたり、ときはの恋。』のサブキャラ、花宮萌々がヒロインです。 ☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆ ◆本文、画像の無断転載禁止◆ No reproduction or republication without written permission.

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

NTRするなら、お姉ちゃんより私の方がいいですよ、先輩?

和泉鷹央
青春
 授業のサボリ癖がついてしまった風見抱介は高校二年生。  新学期早々、一年から通っている図書室でさぼっていたら可愛い一年生が話しかけてきた。 「NTRゲームしません?」 「はあ?」 「うち、知ってるんですよ。先輩がお姉ちゃんをNTRされ……」 「わわわわっーお前、何言ってんだよ!」  言い出した相手は、槍塚牧那。  抱介の元カノ、槍塚季美の妹だった。 「お姉ちゃんをNTRし返しませんか?」  などと、牧那はとんでもないことを言い出し抱介を脅しにかかる。 「やらなきゃ、過去をバラすってことですか? なんて奴だよ……!」 「大丈夫です、私が姉ちゃんの彼氏を誘惑するので」 「え? 意味わかんねー」 「そのうち分かりますよ。じゃあ、参加決定で!」  脅されて引き受けたら、それはNTRをどちらかが先にやり遂げるか、ということで。  季美を今の彼氏から抱介がNTRし返す。  季美の今の彼氏を……妹がNTRする。    そんな提案だった。  てっきり姉の彼氏が好きなのかと思ったら、そうじゃなかった。  牧那は重度のシスコンで、さらに中古品が大好きな少女だったのだ。  牧那の姉、槍塚季美は昨年の夏に中古品へとなってしまっていた。 「好きなんですよ、中古。誰かのお古を奪うの。でもうちは新品ですけどね?」  姉を中古品と言いながら自分のモノにしたいと願う牧那は、まだ季美のことを忘れられない抱介を背徳の淵へと引きずり込んでいく。 「新品の妹も、欲しくないですか、セ・ン・パ・イ?」  勝利者には妹の愛も付いてくるよ、と牧那はそっとささやいた。  他の投稿サイトでも掲載しています。

浮気中の婚約者が私には塩対応なので塩対応返しすることにした

今川幸乃
恋愛
スターリッジ王国の貴族学園に通うリアナにはクリフというスポーツ万能の婚約者がいた。 リアナはクリフのことが好きで彼のために料理を作ったり勉強を教えたりと様々な親切をするが、クリフは当然の顔をしているだけで、まともに感謝もしない。 しかも彼はエルマという他の女子と仲良くしている。 もやもやが募るもののリアナはその気持ちをどうしていいか分からなかった。 そんな時、クリフが放課後もエルマとこっそり二人で会っていたことが分かる。 それを知ったリアナはこれまでクリフが自分にしていたように塩対応しようと決意した。 少しの間クリフはリアナと楽しく過ごそうとするが、やがて試験や宿題など様々な問題が起こる。 そこでようやくクリフは自分がいかにリアナに助けられていたかを実感するが、その時にはすでに遅かった。 ※4/15日分の更新は抜けていた8話目「浮気」の更新にします。話の流れに差し障りが出てしまい申し訳ありません。

あたし、婚活します!

桃青
青春
いつの時代なのか、どこの場所なのか、母に婚活を迫られたアンナは、都会で婚活をすることを決意。見届け人のカイルに見守られながら、ど定番な展開で、様々な男性と巡り合い…。目指すはハッピーエンドなのです。朝にアップロードします。

〖完結〗では、婚約解消いたしましょう。

藍川みいな
恋愛
三年婚約しているオリバー殿下は、最近別の女性とばかり一緒にいる。 学園で行われる年に一度のダンスパーティーにも、私ではなくセシリー様を誘っていた。まるで二人が婚約者同士のように思える。 そのダンスパーティーで、オリバー殿下は私を責め、婚約を考え直すと言い出した。 それなら、婚約を解消いたしましょう。 そしてすぐに、婚約者に立候補したいという人が現れて……!? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話しです。

処理中です...