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07:都会の猫は喋るもの?(1)
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高層ビルばかりが並ぶ大都会から、電車で三十分ほど揺られた後に降り立つ。最寄り駅から歩いて十五分、そこが私が今日から暮らすアパートだった。
桜庭荘。偶然にも高校名と同じ名前なので、とても覚えやすい。
1Kの鉄筋コンクリート造。近くにはコンビニもスーパーもある。徒歩圏内にコンビニがあるなんて、なんて便利なんだろう!
周りの風景も、そんなに都会っていう感じじゃないし。ほどよく都会、ほどよく田舎っていう感じで良いではないですか。うん。
「ふえー、つかれたぁ……」
荷物の搬入を終え、半分のダンボールの解体を終えたところで、私はフローリングの床に寝そべった。まず最初に必要となるであろう水周りから整えてきたけど、二時間も作業をしていると集中も途切れる。
時刻は夕方七時を回っていた。
さすがに今日は夕飯を作る気力がないので、近所のコンビニへと向かう。
コンビニのお弁当は密かに楽しみにしていたのだ。CMでは最近、どのコンビニ会社もお弁当やお菓子類に力を入れてるみたいで、おいしそうなものばかりが映っていた。
陽が落ちても煌々と電灯が光るコンビニに一歩入った途端、明るい音楽が流れて、私は身を竦めた。このコンビニはこんな音楽が流れるのか……!
妙なところに感心しながら、私は十分かけてお弁当と惣菜、パンなどを両手に持ち、会計を済ませた。
「ありがとうございましたー」
いいえ、どういたしましてー。
愛想の良い店員さんに、つい反射的にそう応えてしまいそうになるのを堪える。
店員さんにお礼を言われてもスルーするのが都会式らしいというのは、他の人の対応で学んでいた。ここは私も都会人らしくスルーしよう。
コンビニを出る。至るところに外灯が設置されているため、都会は夜でも明るい。夜の七時を回っているのに、大通りは人が多かった。
なんとなく、私は道を一本外れた細道へと入った。
ここはアパートの目と鼻の先、住宅街の一角。左右に電灯が並ぶ、二十メートルほどの狭い細道。いくら方向音痴でも、大通りとほぼ平行して走る道に入ったくらいでは迷わない……と思いたい。
迷ったら携帯の地図アプリの出番だ。大丈夫、アパートの住所は登録している。ここは向かうべき方向に『前後左右』はあっても渋谷駅のような『上下』の概念はないから、指示通りに歩けば着くさ!
周囲から人気がなくなったことで、ようやく息がつけた。
首を傾けて空を見上げる。
真っ暗な田舎の空に比べると、見える星が少ないな。
でも、月が綺麗。お盆みたいな満月――ううん、少しだけ欠けて見えるから、満月は明日か、明後日くらいかな。
夜空から視線を落とし、前を向いて歩いていると、前方から声が聞こえた。
「自分で歩いたらいいのに。これじゃ散歩の意味がないじゃんか。外を散歩したいって言い出したのはお前だろ」
交差する横道から誰かが合流してきたらしい。大通りではなくこんな狭い細道を選ぶとは、この人もなかなかの変わり者だ。
「いいじゃないの。好きな人に抱かれて月夜の散歩なんてロマンチックだわ」
「猫が何言ってるんだか」
「またまたー、あたしに好かれて嬉しいくせにー。ひねくれたこと言ってるともう肉球触らせてやらないわよ」
「うっ……わ、わかったよ、嬉しいです」
「ほほほほほ。素直でよろしい」
一体これはどういう会話なんだろう。猫と人間が話してる……わけがないから、猫になりきった彼女と、彼氏が話してるのかな? ちょっと理解しがたいけど、そういう遊び?
興味を覚えて、私は歩くペースをあげた。ほどなく人影の詳細が見えてくる。
猫を抱いて歩いている少年がいた。彼以外は誰もいない。
桜庭荘。偶然にも高校名と同じ名前なので、とても覚えやすい。
1Kの鉄筋コンクリート造。近くにはコンビニもスーパーもある。徒歩圏内にコンビニがあるなんて、なんて便利なんだろう!
周りの風景も、そんなに都会っていう感じじゃないし。ほどよく都会、ほどよく田舎っていう感じで良いではないですか。うん。
「ふえー、つかれたぁ……」
荷物の搬入を終え、半分のダンボールの解体を終えたところで、私はフローリングの床に寝そべった。まず最初に必要となるであろう水周りから整えてきたけど、二時間も作業をしていると集中も途切れる。
時刻は夕方七時を回っていた。
さすがに今日は夕飯を作る気力がないので、近所のコンビニへと向かう。
コンビニのお弁当は密かに楽しみにしていたのだ。CMでは最近、どのコンビニ会社もお弁当やお菓子類に力を入れてるみたいで、おいしそうなものばかりが映っていた。
陽が落ちても煌々と電灯が光るコンビニに一歩入った途端、明るい音楽が流れて、私は身を竦めた。このコンビニはこんな音楽が流れるのか……!
妙なところに感心しながら、私は十分かけてお弁当と惣菜、パンなどを両手に持ち、会計を済ませた。
「ありがとうございましたー」
いいえ、どういたしましてー。
愛想の良い店員さんに、つい反射的にそう応えてしまいそうになるのを堪える。
店員さんにお礼を言われてもスルーするのが都会式らしいというのは、他の人の対応で学んでいた。ここは私も都会人らしくスルーしよう。
コンビニを出る。至るところに外灯が設置されているため、都会は夜でも明るい。夜の七時を回っているのに、大通りは人が多かった。
なんとなく、私は道を一本外れた細道へと入った。
ここはアパートの目と鼻の先、住宅街の一角。左右に電灯が並ぶ、二十メートルほどの狭い細道。いくら方向音痴でも、大通りとほぼ平行して走る道に入ったくらいでは迷わない……と思いたい。
迷ったら携帯の地図アプリの出番だ。大丈夫、アパートの住所は登録している。ここは向かうべき方向に『前後左右』はあっても渋谷駅のような『上下』の概念はないから、指示通りに歩けば着くさ!
周囲から人気がなくなったことで、ようやく息がつけた。
首を傾けて空を見上げる。
真っ暗な田舎の空に比べると、見える星が少ないな。
でも、月が綺麗。お盆みたいな満月――ううん、少しだけ欠けて見えるから、満月は明日か、明後日くらいかな。
夜空から視線を落とし、前を向いて歩いていると、前方から声が聞こえた。
「自分で歩いたらいいのに。これじゃ散歩の意味がないじゃんか。外を散歩したいって言い出したのはお前だろ」
交差する横道から誰かが合流してきたらしい。大通りではなくこんな狭い細道を選ぶとは、この人もなかなかの変わり者だ。
「いいじゃないの。好きな人に抱かれて月夜の散歩なんてロマンチックだわ」
「猫が何言ってるんだか」
「またまたー、あたしに好かれて嬉しいくせにー。ひねくれたこと言ってるともう肉球触らせてやらないわよ」
「うっ……わ、わかったよ、嬉しいです」
「ほほほほほ。素直でよろしい」
一体これはどういう会話なんだろう。猫と人間が話してる……わけがないから、猫になりきった彼女と、彼氏が話してるのかな? ちょっと理解しがたいけど、そういう遊び?
興味を覚えて、私は歩くペースをあげた。ほどなく人影の詳細が見えてくる。
猫を抱いて歩いている少年がいた。彼以外は誰もいない。
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