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26:恋する人魚(1)
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「篝。姫子《ひめこ》を連れておいで」
銀太にこれまでの状況を説明する時間をくれた後で、アマネが篝に声をかけた。
「かしこまりました」
篝は立ち去り、しばらくして「失礼致します」と声がかかった。
「入れ」
アマネの一声で襖が開く。
襖の向こうに着物姿ののっぺらぼうが跪いているのが見えた。この大きな屋敷にはのっぺらぼうのお手伝いさんもいるらしい。
「こんばんはアマネ様。そして初めまして皆さま。こんな姿で失礼致します」
篝にお姫様抱っこされて入って来たのは、漆黒の髪に赤い瞳をした美少女だった。
篝の目は真紅だが、彼女の目はオレンジ寄りの赤で、白い上着を着ている。
新たに用意された座布団の上に篝が乗せると、彼女は「ありがとうございました」と綺麗な声で礼を言った。
音もなく襖が閉まり、襖の開閉を担当していたのっぺらぼうが見えなくなる。
「彼女がお主たちに任せたいあやかしじゃ。名乗りなさい」
襖の向こう、一段上の床に戻ったアマネが促す。
「はい。あたし、姫子といいます。人としての名前は魚住《うおずみ》姫子です」
「人としての名前……?」
床に両手をついてお辞儀する彼女を見て、どこか呆然としたように朝陽が呟く。その姿は人に戻っていた。
狐の姿なのでわかりづらいが、朝陽と美緒の傍に座っている銀太も当惑しているように見えた。
「君も現世で人として生きる、と? ……その状態で?」
「ちゃんと訓練しますよ。光瑛の入学式には間に合わせてみせます」
「光瑛って、あなたも光瑛に通うの!?」
姫子の下半身を見つめて驚愕する。
赤と、少しだけ黒の混じった二色の鱗に覆われた下半身。
――そう、姫子は人魚だったのだ。
「はい、そうです! なんで光瑛に通うと決めたかといえば、そこにあたしの想い人がいるからなんですよ!」
どこかで聞いた話だ。
「あたし、現世では公園の池に住んでいたんです。池はちょっと狭いけど、外敵もいないし、人間が餌をくれるし、そこそこ快適な生活を送ってました。でも、あれは去年の夏のこと。黒い錦鯉の中で一匹だけ赤くて綺麗だったせいで目をつけられたらしく、近所の悪ガキどもがこぞって石を投げ始めたんですよ!」
思い出して腹が立ったらしく、姫子は柳眉を逆立てた。
銀太にこれまでの状況を説明する時間をくれた後で、アマネが篝に声をかけた。
「かしこまりました」
篝は立ち去り、しばらくして「失礼致します」と声がかかった。
「入れ」
アマネの一声で襖が開く。
襖の向こうに着物姿ののっぺらぼうが跪いているのが見えた。この大きな屋敷にはのっぺらぼうのお手伝いさんもいるらしい。
「こんばんはアマネ様。そして初めまして皆さま。こんな姿で失礼致します」
篝にお姫様抱っこされて入って来たのは、漆黒の髪に赤い瞳をした美少女だった。
篝の目は真紅だが、彼女の目はオレンジ寄りの赤で、白い上着を着ている。
新たに用意された座布団の上に篝が乗せると、彼女は「ありがとうございました」と綺麗な声で礼を言った。
音もなく襖が閉まり、襖の開閉を担当していたのっぺらぼうが見えなくなる。
「彼女がお主たちに任せたいあやかしじゃ。名乗りなさい」
襖の向こう、一段上の床に戻ったアマネが促す。
「はい。あたし、姫子といいます。人としての名前は魚住《うおずみ》姫子です」
「人としての名前……?」
床に両手をついてお辞儀する彼女を見て、どこか呆然としたように朝陽が呟く。その姿は人に戻っていた。
狐の姿なのでわかりづらいが、朝陽と美緒の傍に座っている銀太も当惑しているように見えた。
「君も現世で人として生きる、と? ……その状態で?」
「ちゃんと訓練しますよ。光瑛の入学式には間に合わせてみせます」
「光瑛って、あなたも光瑛に通うの!?」
姫子の下半身を見つめて驚愕する。
赤と、少しだけ黒の混じった二色の鱗に覆われた下半身。
――そう、姫子は人魚だったのだ。
「はい、そうです! なんで光瑛に通うと決めたかといえば、そこにあたしの想い人がいるからなんですよ!」
どこかで聞いた話だ。
「あたし、現世では公園の池に住んでいたんです。池はちょっと狭いけど、外敵もいないし、人間が餌をくれるし、そこそこ快適な生活を送ってました。でも、あれは去年の夏のこと。黒い錦鯉の中で一匹だけ赤くて綺麗だったせいで目をつけられたらしく、近所の悪ガキどもがこぞって石を投げ始めたんですよ!」
思い出して腹が立ったらしく、姫子は柳眉を逆立てた。
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