23 / 127
23:ヨガクレで一番偉い神様
しおりを挟む
篝に通されたのは庭に面した部屋だった。
上段の間、とでもいうのだろうか。時代劇で殿様が家臣と相対する時に使われる広間に似ていた。
天井からは紐付きの御簾が垂れさがっていたが、いまは頭上で止められているため、一段高い場所に正座する少女の姿は丸見えだった。
「ふむ。つまり、美緒も良枝と同じ道を辿りたいというわけじゃな」
額に赤い紋様のある少女は鈴を転がすような声で言い、ふわりと笑った。
眉の上でまっすぐに切られた銀髪。
後ろは長く伸び、床まで届いている。
黄金の大きな目。
透き通るほど白い肌は染み一つなく、巫女装束を大胆にアレンジしたような着物に包まれている。
外見年齢は十歳前後。
彼女の頭からは狐の耳が生え、耳の下に牡丹の花飾りをつけていた。
彼女の背後には尻尾が九つ、扇のように広がっている。
高天原から下りてきた天狐、九尾の狐。それがアマネの正体だった。
「はい」
美緒は金襴織りの分厚い座布団の上で正座し、頷いた。
ただそうするだけで気力が必要だった。
アマネは他のあやかしとは纏うオーラの質が違う。
目にしただけで、その威光にひれ伏したくなってしまう。
隣で朝陽も緊張しているのが見て取れた。
「人の身でありながらあやかしの力になりたいと思う、その心がけは嬉しい。しかし、わらわはまだお主の人となりを知らぬ。良枝は良く働いてくれたが、祖母が善人だからとて、孫がそうであるとは限らぬであろう?」
優しい声で、アマネは諭すように言った。
「じゃから美緒、しばらくは朝陽の助手として働くが良い。お主を相談員と認め、紐を与えるかどうかはお主の働き次第じゃ。ちょうどお主たちに任せたい者がおる。現世からやって来た魚なんじゃが、まだ上手に人に化けられもせんのに、どうしても戻りたいと言って聞かぬ。後で紹介するから、朝陽とともに力になってやっておくれ」
「わかりました」
「朝陽もそれで良いな?」
「はい」
朝陽が頭を下げると、アマネがふふっと微笑んだ。
「物分かりの良い者は好きじゃ。人でも、あやかしでもな。どれ、褒美をやろう。美緒、鞄の中に何か持っておるであろう? 仄かにあやかしの気配がする。出しなさい」
「はい」
傍に置いていた鞄を開け、鈴を取り出すと、アマネが立ち上がり、こちらへ下りてきた。
美緒は驚いた。
アマネはこのヨガクレで一番偉い神さま。
となれば、当然その場から動かず、美緒が平伏して運ぶものだとばかり思っていたのに、アマネは頓着することなく、銀糸のような髪を引きずって、美緒の前にやって来た。
控えていた篝が素早く動いて、美緒の前に座布団を置く。
アマネはそこに座り、差し出した鈴を受け取って眺め、「ふむ」と目を細めた。
上段の間、とでもいうのだろうか。時代劇で殿様が家臣と相対する時に使われる広間に似ていた。
天井からは紐付きの御簾が垂れさがっていたが、いまは頭上で止められているため、一段高い場所に正座する少女の姿は丸見えだった。
「ふむ。つまり、美緒も良枝と同じ道を辿りたいというわけじゃな」
額に赤い紋様のある少女は鈴を転がすような声で言い、ふわりと笑った。
眉の上でまっすぐに切られた銀髪。
後ろは長く伸び、床まで届いている。
黄金の大きな目。
透き通るほど白い肌は染み一つなく、巫女装束を大胆にアレンジしたような着物に包まれている。
外見年齢は十歳前後。
彼女の頭からは狐の耳が生え、耳の下に牡丹の花飾りをつけていた。
彼女の背後には尻尾が九つ、扇のように広がっている。
高天原から下りてきた天狐、九尾の狐。それがアマネの正体だった。
「はい」
美緒は金襴織りの分厚い座布団の上で正座し、頷いた。
ただそうするだけで気力が必要だった。
アマネは他のあやかしとは纏うオーラの質が違う。
目にしただけで、その威光にひれ伏したくなってしまう。
隣で朝陽も緊張しているのが見て取れた。
「人の身でありながらあやかしの力になりたいと思う、その心がけは嬉しい。しかし、わらわはまだお主の人となりを知らぬ。良枝は良く働いてくれたが、祖母が善人だからとて、孫がそうであるとは限らぬであろう?」
優しい声で、アマネは諭すように言った。
「じゃから美緒、しばらくは朝陽の助手として働くが良い。お主を相談員と認め、紐を与えるかどうかはお主の働き次第じゃ。ちょうどお主たちに任せたい者がおる。現世からやって来た魚なんじゃが、まだ上手に人に化けられもせんのに、どうしても戻りたいと言って聞かぬ。後で紹介するから、朝陽とともに力になってやっておくれ」
「わかりました」
「朝陽もそれで良いな?」
「はい」
朝陽が頭を下げると、アマネがふふっと微笑んだ。
「物分かりの良い者は好きじゃ。人でも、あやかしでもな。どれ、褒美をやろう。美緒、鞄の中に何か持っておるであろう? 仄かにあやかしの気配がする。出しなさい」
「はい」
傍に置いていた鞄を開け、鈴を取り出すと、アマネが立ち上がり、こちらへ下りてきた。
美緒は驚いた。
アマネはこのヨガクレで一番偉い神さま。
となれば、当然その場から動かず、美緒が平伏して運ぶものだとばかり思っていたのに、アマネは頓着することなく、銀糸のような髪を引きずって、美緒の前にやって来た。
控えていた篝が素早く動いて、美緒の前に座布団を置く。
アマネはそこに座り、差し出した鈴を受け取って眺め、「ふむ」と目を細めた。
1
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
お昼寝カフェ【BAKU】へようこそ!~夢喰いバクと社畜は美少女アイドルの悪夢を見る~
保月ミヒル
キャラ文芸
人生諦め気味のアラサー営業マン・遠原昭博は、ある日不思議なお昼寝カフェに迷い混む。
迎えてくれたのは、眼鏡をかけた独特の雰囲気の青年――カフェの店長・夢見獏だった。
ゆるふわおっとりなその青年の正体は、なんと悪夢を食べる妖怪のバクだった。
昭博はひょんなことから夢見とダッグを組むことになり、客として来店した人気アイドルの悪夢の中に入ることに……!?
夢という誰にも見せない空間の中で、人々は悩み、試練に立ち向かい、成長する。
ハートフルサイコダイブコメディです。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる