美緒と狐とあやかし語り〜あなたのお悩み、解決します!〜

星名柚花

文字の大きさ
上 下
19 / 127

19:再びヨガクレへ(4)

しおりを挟む
「ふむ。小娘も狐か?」
「ええと、わたしは……」
「彼女も狐だよ」
 視線を向けられたような気がして、返答に窮した美緒の代わりに、朝陽がさらりと嘘を吐く。

「そんなことはいいから、一反木綿を呼びたいんだ。空で客待ちをしている彼らに見えるように、くるりと大きく回ってくれないか」

 言いながら、朝陽はトートバッグからスナック菓子を取り出した。
 包装紙には激辛ハバネロ味と書いてあり、可愛くデフォルメされたどくろマークがついている。
 辛いものが苦手な美緒にとっては、手を出す気にもならない品物だ。

「おお、それは、現世の菓子ではないか! しかもその絵は唐辛子じゃな!? わし好みのからーいやつじゃな!?」
 歓喜を示すように、火の玉がくるくる踊った。

(なるほど。駄菓子はあやかしにお願いをするときの取引材料ってわけだ)
 やり取りを見ながら、美緒は納得した。
 ショッピングモールで珍しく朝陽が買ってほしいと頼んできたのは、このためだったらしい。

「回ってくれるならお礼にやるよ。一袋全部」
「一袋全部!? よし任せろ! 待っておれ!」
 嬉々として火の玉は上昇し、大きく円を描いて飛んだ。

 回る火の玉を上空から見つけたらしく、しばらくして、空から真っ黒な一反木綿が下りてきた。

「どうもどうも~! 木綿便をご利用でしょうか?」
 一反木綿の目は横線一本で表せるほど細かった。
 真っ黒な手で揉み手をしている。

 全身黒だとばかり思っていたが、美緒の目線より下降したその背面には、赤い椿の模様が描かれていた。

 色鮮やかな椿を見て、美緒は目を見開いた。

「椿さん! 椿さんですよね!? お久しぶりです!」
「おおっ!? そういうキミは美緒ちゃんじゃないっすか! 久しぶりっすー!」

 一反木綿――椿がぺらぺらな両手の手のひらを向けてきたため、潰さないように注意してその薄い両手を握り、上下に振って再会を喜び合う。

「知り合いか?」
「うん。何度かうちのお茶会に参加してくれた一反木綿さん。引っ越すとき、飛んで会いに行くって言ってくれたのも椿さんだよ」
 手のひら全体で椿を示す。

「初めましてっす。オイラ椿っていいます。以後よろしくっす。もしかしてアナタが銀太くんっすか? 美緒ちゃんの探してた」
 椿がふよふよと漂い、朝陽に近づく。

「いえ。おれは銀太の兄で朝陽といいます。銀太は一年前に亡くなりました」
「そうか、それは残念っすね……お悔やみ申し上げるっす」
 椿がぺらりと動いて頭を下げると、朝陽も会釈を返した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あやかし猫の花嫁様

湊祥@書籍13冊発売中
キャラ文芸
アクセサリー作りが趣味の女子大生の茜(あかね)は、二十歳の誕生日にいきなり見知らぬ神秘的なイケメンに求婚される。 常盤(ときわ)と名乗る彼は、実は化け猫の総大将で、過去に婚約した茜が大人になったので迎えに来たのだという。 ――え⁉ 婚約って全く身に覚えがないんだけど! 無理! 全力で拒否する茜だったが、全く耳を貸さずに茜を愛でようとする常盤。 そして総大将の元へと頼りに来る化け猫たちの心の問題に、次々と巻き込まれていくことに。 あやかし×アクセサリー×猫 笑いあり涙あり恋愛ありの、ほっこりモフモフストーリー 第3回キャラ文芸大賞にエントリー中です!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

お昼寝カフェ【BAKU】へようこそ!~夢喰いバクと社畜は美少女アイドルの悪夢を見る~

保月ミヒル
キャラ文芸
人生諦め気味のアラサー営業マン・遠原昭博は、ある日不思議なお昼寝カフェに迷い混む。 迎えてくれたのは、眼鏡をかけた独特の雰囲気の青年――カフェの店長・夢見獏だった。 ゆるふわおっとりなその青年の正体は、なんと悪夢を食べる妖怪のバクだった。 昭博はひょんなことから夢見とダッグを組むことになり、客として来店した人気アイドルの悪夢の中に入ることに……!? 夢という誰にも見せない空間の中で、人々は悩み、試練に立ち向かい、成長する。 ハートフルサイコダイブコメディです。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

処理中です...