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02:夏祭りの夜に(2)
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友好的で優しいものもいれば、命を脅かすほど危険なものもいるんだと、あやかしと関わり合って生きてきた祖母は懇々と語った。
(ど、どうしよう。このあやかし、関わっちゃいけないやつだ!)
見えないふり、知らないふりを貫くべきだったのに、美緒はあやかしの一つ目を見てしまった。
見えるということを、態度で表してしまった。
視線で助けを求める。
でも、目が合った首の長い女性は首を半回転させて顔を背け、猫の耳と二又の尻尾を持つ親子はそそくさと屋台の陰に隠れた。
「小さな子が一人でいるってことは、迷子なんだろう? ボクと一緒においで。お母さんの元へ連れて行ってあげるよ」
巨漢のあやかしが手を伸ばしてきて、美緒は一歩引いた。
「わ、わたし、お母さんいないんです。五歳のときに死んじゃって。お父さんは顔も知らないし。だから、おばあちゃんと来てて……」
「おや、それは悪いことを言ってしまったかな。じゃあおばあちゃんのところに連れて行ってあげるよ」
「いいです、一人で帰れますから、大丈夫です」
両手を振り、さらにもう一歩下がる。
「あやかしの厚意を無碍にするものじゃないよ。いいからおいで」
巨漢のあやかしが美緒の肩を掴もうとしたとき、後ろからやって来た誰かに右手を強く引かれた。
「わっ」
たたらを踏んで後退した美緒と入れ替わり、その子は美緒の前に立った。
あやかしから美緒を守るように通せんぼして、両手を横に広げる。
(――だれ?)
背丈は美緒より低い。八歳の美緒と同じか、いくつか下か。
着物は白で、帯は青。恐らくは男の子。
男の子の頭には狐の耳が生え、警戒した猫のようにぴんと立っている。
尻からは立派な尻尾が突き出していた。
「この子に触らないで」
震えながら、それでも男の子はきっぱりと言った。
「……なにかと思えば、ふん。狐の子ではないか。百年も生きる大妖怪に向かって生意気な。おとなしくその子を渡せ。さもなくば、もろともに食ってしまうぞ」
巨漢のあやかしは優しかった口調を一変させ、浴衣の前をはだけた。
覗いた腹は裂け、ぱっくりと大きな口が開いている。
涎が鋭い上下の歯を繋いでいるのを見て、美緒はものも言えずに震え上がった。
もしも男の子が助けに来てくれていなかったら、今頃美緒はどこかに連れ去られ、食べられていたかもしれない。
(ど、どうしよう。このあやかし、関わっちゃいけないやつだ!)
見えないふり、知らないふりを貫くべきだったのに、美緒はあやかしの一つ目を見てしまった。
見えるということを、態度で表してしまった。
視線で助けを求める。
でも、目が合った首の長い女性は首を半回転させて顔を背け、猫の耳と二又の尻尾を持つ親子はそそくさと屋台の陰に隠れた。
「小さな子が一人でいるってことは、迷子なんだろう? ボクと一緒においで。お母さんの元へ連れて行ってあげるよ」
巨漢のあやかしが手を伸ばしてきて、美緒は一歩引いた。
「わ、わたし、お母さんいないんです。五歳のときに死んじゃって。お父さんは顔も知らないし。だから、おばあちゃんと来てて……」
「おや、それは悪いことを言ってしまったかな。じゃあおばあちゃんのところに連れて行ってあげるよ」
「いいです、一人で帰れますから、大丈夫です」
両手を振り、さらにもう一歩下がる。
「あやかしの厚意を無碍にするものじゃないよ。いいからおいで」
巨漢のあやかしが美緒の肩を掴もうとしたとき、後ろからやって来た誰かに右手を強く引かれた。
「わっ」
たたらを踏んで後退した美緒と入れ替わり、その子は美緒の前に立った。
あやかしから美緒を守るように通せんぼして、両手を横に広げる。
(――だれ?)
背丈は美緒より低い。八歳の美緒と同じか、いくつか下か。
着物は白で、帯は青。恐らくは男の子。
男の子の頭には狐の耳が生え、警戒した猫のようにぴんと立っている。
尻からは立派な尻尾が突き出していた。
「この子に触らないで」
震えながら、それでも男の子はきっぱりと言った。
「……なにかと思えば、ふん。狐の子ではないか。百年も生きる大妖怪に向かって生意気な。おとなしくその子を渡せ。さもなくば、もろともに食ってしまうぞ」
巨漢のあやかしは優しかった口調を一変させ、浴衣の前をはだけた。
覗いた腹は裂け、ぱっくりと大きな口が開いている。
涎が鋭い上下の歯を繋いでいるのを見て、美緒はものも言えずに震え上がった。
もしも男の子が助けに来てくれていなかったら、今頃美緒はどこかに連れ去られ、食べられていたかもしれない。
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