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第五章 風嵐都市編
第三話「暗黒の王」
しおりを挟む‶神拠〟から聖騎士たちが発ってから数十分後。
閉ざされた扉が開く。
「来たか」
禍々しい邪気を放つ何かが部屋へと侵入して来た。
護衛のため唯一残っていた七翼の聖騎士《六席》・クロエは抜刀の構えを取る。
徐々に近付くその人物は顔に仮面を被り、邪神教の祭服を身に纏っている。
「風嵐神ファルファレラ、忌々しい旧神の一角よ」
「我を覚えているか?」
仮面の人物は問いかける。
「その気配…人ではないな。何者だ」
黒いオーラが範囲を増し、触手のような形に変化していく。
謎の人物は仮面をゆっくと外した。
その顔は人の顔を成しておらず、蛸のような見た目の異形が現れる。
「暗黒の王・クトゥルフ、か」
ファルファレラは驚きで目を見開く。
「この千五百年間、どれだけ待ちわびたことか…今こそ我は復活を果たし、世界を創造してくれる」
完全な権限ではないにも関わらず、十二使徒を凌駕する邪悪さが全身から滲み出る。
「神王陛下!お下がり下さい」
クロエが能力で敵の弱点を視認する。
「《悪即斬》!」
放たれた心閃一刀はクトゥルフへ直撃するが、黒い触手に渾身の一撃を防がれてしまう。
次の攻撃に移ろうとしたクロエを触手で拘束した。
「ぐ…!!」
首を締め上げられるクロエの背後から風魔術が触手目がけて放たれる。
「《狂い風の聖十字》」
拘束していた触手が切り落とされる。
切り落とされた触手はクトゥルフに吸収され、切断面からは新たな触手が生えてきた。
「悪くない。この星のものにしては良い威力だ」
余裕の表情であしらう。
一足即発の空気を壊すように‶神拠〟に三人の聖騎士が入って来た。
「神王陛下!!」
レイシアたちは即座に戦闘態勢を取り、武器を手に取る。
「邪魔をするな。分をわきまえよ」
聖騎士たちの足元から触手が生え、全員の心臓を貫いた。
絶命し、倒れていく聖騎士たちをファルファレラは何も言わずに見つめる。
「どうした、貴様の手駒が殺されて怒りを覚えぬのか?」
嵐神教会のトップを愚弄し、挑発するクトゥルフ。
ファルファレラは席を立ち、階段を降り始める。
「よい、いずれ殺す予定だった。私の計画をこの者たちに気付かれる訳にはいかないのでな」
思いがけぬ回答にクトゥルフは立ち止まる。
「貴様…、この気配…!!」
「もう遅い」
「‶貪り喰らう者〟」
ファルファレラが隠し持っていた魔装十二振がクトゥルフを拘束する。
全力で抜け出そうとするクトゥルフだが、対邪神の糸は更に強く標的を締め上げた。
「これは起動するのが難しくてな。まず、標的の一部を獲得する必要がある。これに関しては貴公の触手を切り落とした際に断片を回収させてもらった」
「次に、標的を‶檻〟に閉じ込めることだが…。これは‶神拠〟自体を一つの‶檻〟と設定することで成立しており、貴公がこの部屋に入った時点で条件は達成されていたというわけだ」
クトゥルフはこの糸を知っている。
全盛期、とある邪神との戦いで使用されたことがあったからだ。
発動すれば必ず対象を拘束し、抵抗すればするほど拘束力が増し、やがては対象をねじ切る糸。
「どうやって封印を解いた、黄衣の皇太子・ハスター…!!」
「数十年前から生命たちをかどわかし、徐々にこの地で紛争や内乱を起こす事で封印を弱めた。最後は人間という生命の手によって解き放たれたのだ」
「風嵐神は実に物分かりが良いやつだったぞ。完全なる復活を遂げた私が、民を殺すと脅しただけでその身を明け渡してくれたのだから」
風嵐神ファルファレラの正体は邪神の一柱、黄衣の皇太子・ハスターだったのだ。
ハスターはファルファレラの身体を乗っ取り、牙城で着々と牙を研いでいた。
「貴様がわざわざこの都市に攻め入ってくれたおかげで、‶生命に危害を加えてはならない〟という風の旧神との契約も無視して計画を成し得ることができたのだ。感謝するぞ、クトゥルフ」
ハスターは拘束されているクトゥルフの前へと立つ。
「何か言い残すことはあるか?邪神戦争最大の強敵よ」
地面から一本の槍を取り出し、手に持った。
「その槍…。まさか我の手中に反逆者がいたとはな…」
「なぜ今、我らが行動に出たか…。貴様は後悔することになるぞ…」
今際の際にクトゥルフは言い残す。
―グシャンッ!!
槍はクトゥルフの腹部を貫き、やがて呪いが全身へと回る。
ボロボロと灰のように崩れ落ちる宿敵を見て、ハスターは静かに笑っていた。
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