暗澹のオールド・ワン

ふじさき

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第四章 砂塵の都編

第四話「弱肉強食」

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 砂塵闘技場コロッセオの近くにあった酒場へと入った二人は部屋の一番奥の席に座る。
 室内は大盛況で、闘技場の出場者や観客たちで賑わっていた。


「この街でジュドの仲間と邪神教の情報を集めよう」


 シャステイルがそう言って、定員を呼ぶ。
 注文している間、ジュドは辺りを見渡し、これまでの街と雰囲気の違う酒場を眺める。


「お待たせにゃ!二人分のエールとクアトロファッジ、アンテラリブね」


 獣人の少女が注文から数分で早速料理や酒を持ってきた。


「あにゃたたち、見ない顔だにゃ。武闘祭の出場者?」


 ここでも武闘祭の話が出てきた。
 王国にいた頃は名前すら聞いたことがなかったが、遠路はるばるやってきたこの街や周辺国では参加するのが当たり前なのだろうか。


「武闘祭は四部族が競う合うと聞いたんだが、一般の参加者も多いものなのか?」

「始まりはそうだったけど、どうにも今回は主催が珍しいものを優勝賞品にしているらしくて。各国から色んな人が来てるらしいにゃ。あにゃたたち知らなかったの?」

「…珍しい優勝賞品?」


 その景品についてジュドは定員に尋ねる。


「何だったかにゃ。たしか…」


 彼女は少し悩んだ後に、はっと思い出したような表情のあと口を開ける。


「そうそう、〝遺物〟とかいうやつだにゃ!」


 定員から告げられた衝撃の一言を聞いたジュドとシャステイルは目を見開き、驚きが顔に現れる。

 聞き馴染みのあるその〝遺物〟という響き。
 ‶邪神の遺物〟。つまり、魔装十二振。
 二人の脳裏に最悪の考えがよぎる。


「痛ってぇなあ!おい」


 緊迫した二人を他所に怒号が飛び交い始める。

 酒場の入り口付近でギャングのような見た目をした男3人が灰色のフードを被った大男に絡んでいた。


「おい、兄ちゃん。肩が当たってんだよ。ちゃんと周りを見て立ち飲みしろや」


 ただ単に席で酒を飲んでいた客にケチをつけている。
 絡んでいる三人、その中でも一番大柄の男が鞘に手をかけ大男に眼を飛ばす。


「明日から武闘祭だってのに、怪我したらどーしてくれんだよ?あぁん?責任取れんのかぁ?」


 騒動に客が気づき始め、酒場がざわつき始める。
 だが意外にも喧嘩を止める者はおらず、喧嘩を盛り上げようと声を上げ始める人もいた。
 ザンディルが言ってた治安の問題はこういうことなのか?ジュドは目の前の異常な光景を見て感じる。


「金置いてけや」


 逃がす気がない男たちに大男は言う。


「力の差もわからないとは」

「あ?てめぇ…」


 その姿勢に我慢を切らした三人は武器を抜き、殺意を込めて襲いかかる。


「あの世で後悔しろやぁ!」


 三方向からナイフやシュミターが振り下ろされる。
 フード付きのマントは安易と切り裂かれ、服の中から傷だらけの肉体が露わになる。
 見るからに強靭なその体は刃でかすり傷しかつけることができず、刃こぼれさせるほどのものだった。


「乱闘はいいけど!殺すなら外で頼むよ!」


 酒場の店長は大男に向けて忠告する。
 三人の男たちは大男に次々と店の外へと放り投げられ、客たちもぞろぞろと外に出始める。
 猫耳の定員と共にジュドとシャステイルも外へ出る。


「兄貴、こいつやばくないか…?」

「うるせぇ!このままじゃ俺たちが殺されんだぞ…!!」


 刃物が通じず、焦りを感じていた三人だが懲りずに攻撃を続ける。
 反撃もせず、ただじっとしていただけの大男が遂に拳を握り、構えを取った。


「その程度か?」


 突っ込んでくる男の振り下ろされた武器、その柄を握る腕を左手で捉え、掴んだ瞬間にボキボキと骨が砕ける音がなる。



「ぁあぁあ!!」



 男の断末魔が聞こえたと同時に、大男の右手が対象の顎に直撃した。
 衝撃で口から血飛沫が舞い、顎が粉々になる。
 その惨劇を見て、逃げようとした残りの二人も背を向けた瞬間に腹部を手刀で貫かれ絶命する。

 助けに入ろうとしたジュドをシャステイルが止めていた。
 今は抑えろ。そう言いたげなシャステイルの考えは十分わかっているが…それでも、あまりにもむごすぎる。

 大男は三人を葬った後、店で会計を済ませ、その場を去って行った。


 客たちもぞろぞろと店へと戻り、来店時よりも更に客は盛り上がりを見せていた。
 ジュドは横たわった死体を道の脇に置き、店内に戻ったが食欲が失せており、食事する気にはならなかった。


「場所によってはルールも違う。あまり気にするな」


 水門都市での一件もあったことからシャステイルはジュドに声をかけ、食事を続ける。


「そうだな…」


 簡単に命が奪われてしまうことに慣れない部分はあるが、そういうものだと自分に言い聞かせて無理やり胃に食事を入れた。
 食事を済ませた二人は、三階の部屋に戻り、明日の戦いに向けて英気を養うことにする。

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