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第四章 砂塵の都編
第二話「嵐の兆し」
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ジュドの療養室を後にしたフィオーネはオーレダリアに都市の再建をお願いしますと告げ、自室へと帰ってきた。
「……」
ある事を思い出していた。
街に邪神教が攻め入るずっと前。
ジュドたち、そしてフォーレタニア一行がフィオーネを初めて訪ねて来た時よりも前。
水門都市、その統治を退くと決断した数時間前の出来事。
「オーレダリアと近衛兵団の方々、都市管理組織はよくやってくれています。ですが近々魔物の活性化や周辺諸国での黒い噂などまだまだ不安要素は絶えませんね…」
「ですが、人々にはもう…神は…」
考え込んでいると後ろから一瞬懐かしい気配を感じる。
しかし、感じた気配が異質なものであると気づいたフィオーネは瞬時に水を刃へと変え、目で視認する前に目標へと斬りかかる。
水が音を立てて弾ける。フィオーネが対象を視認した頃には水刃は霧散していた。
リビングのテーブル、その前の椅子に灰髪で眼帯をした男が片手をフィオーネの方へ向け、座っていた。
「いきなり斬りかかってくるとは随分とここの主神は物騒だな」
次の攻撃を仕掛けようとする前に男が口を挟む。
「やめておけ」
フィオーネが追撃の手を止める。
臆したわけではない。先程の水刃が効かなかったことを警戒して、冷静に攻撃の手を止めた。
「漠水神はお前だな?」
向けられた男の手は漆黒の小手に覆われている。
あれで攻撃が弾かれたのか?まだ敵の能力を把握しきれていないこの状況で水を操作できることが露呈した今、アドバンテージはあちらにある。フィオーネはそう考えていた。
「無視か。ならいい、ここの主神は口も聞けないようだ」
席を立つ男をフィオーネは制止する。
「私が漠水神フィオーネです。何が目的なのですか」
「近々、この都市に邪神教の‶十二使徒〟が強襲をかける」
にわかにも信じがたいその情報にフィオーネは警戒を緩めない。
「そう警戒するな、お前を殺そうと思えばいつでも殺せている」
「今回は個人的に交渉をしに来ただけだ」
男は再び席へと着く。
「使徒の一人は街の中心から近衛兵団本部へと進行。そちらは単純に戦力の弱体化が目的だ。本命はガタノゾアを封印している封楼灯台の触媒の破壊。もう一人の使徒が近衛兵団に向かっている使徒を陽動にし、封印の破壊へと向かう」
「あなたは何者ですか?」
男は表情を変えることなく続ける。
「封楼灯台は全部で三か所。使徒は全部で二人。どうやっても三か所の破壊は困難。それがお前の考えだ」
「確かに理にかなった考察だ。いくら使徒が強力だろうと残り一か所の封印に神であるお前が向かえば破壊は阻止できるかもしれないからな。上手くいく可能性は高い、使徒が二人なら…な」
フィオーネは何となく察しがついていた。
(この男は間違いなく十二使徒)
(自身の気配を絶つのが異常に長けている。私でさえ気取るのに一瞬の時間を有してしまった)
沈黙するフィオーネを他所に男は切り出す。
「この部屋に入った後、俺に気づかないお前に対してあえて気配を放った」
「この意味がわかるな?」
(厄介な相手です…。いつでも殺せるということですか)
フィオーネは心の中で打開策を考えようとしたが、力量の差は歴然だった。
「交渉が成立した場合、俺はこの件から手を引いてやっても構わない」
「つまり、襲撃に参加しないということですか…?」
「ああ」
「交渉…と言いましたね。そちらの要求は何ですか?」
男は正面の扉の方を向いたまま要求を言う。
「この都市の統治を降りろ」
フィオーネが自身の考えが読まれているのではないかと勘繰ってしまう程にタイムリーな要求だった。
この要求はここで飲まなくても近く実現するつもりだったのだ。
「…私を統治から退かせてあなたたちに何か利益があるのですか?」
「それはお前が知る必要のないことだ」
「要求はもう一つ、お前の旧神としての権能をこの襲撃で使い果たせ」
間髪を置かずに次の要求が来る。
「私が出る事態にならなかった場合は?」
「その時はこの要求を反故にしてもらって構わん」
確たる自信。それほどの邪神教はこの都市に戦力を割いているということ…。
二つの要求を果たしたとしても、襲撃は免れない。
残り二名の使徒に滅ぼされる可能性がある以上、これは交渉ではなく脅迫だ。
「要求が守られなかった場合は…?」
男はこちらを向き、瞳に殺意が宿る。
「その時は俺がこの都市を滅ぼす」
フィオーネは深く息を吸い、吐き出す。
「こちらには拒否権がないようですね」
「わかりました。その要求であなたを回避できるというなら受け入れましょう。ただ…」
フィオーネは向けられていた殺意を顧みず、真剣な顔で男へと伝える。
「こちらからも一つ要求があります」
男は「何だ」と返す。
「あなたの主に伝えてください。その企みに意味はあるのですか、と」
言葉を聞いた男は席を立ち、扉へと歩き始めた。
「俺は見ているぞ」
一瞬立ち止まり、一言告げた後に男はその場を後にする。
外に出た眼帯の男の気配は扉を通ると同時に無くなり、そこには静かに流れる水の音と静寂を凪ぐ風が吹いていた。
「……」
ある事を思い出していた。
街に邪神教が攻め入るずっと前。
ジュドたち、そしてフォーレタニア一行がフィオーネを初めて訪ねて来た時よりも前。
水門都市、その統治を退くと決断した数時間前の出来事。
「オーレダリアと近衛兵団の方々、都市管理組織はよくやってくれています。ですが近々魔物の活性化や周辺諸国での黒い噂などまだまだ不安要素は絶えませんね…」
「ですが、人々にはもう…神は…」
考え込んでいると後ろから一瞬懐かしい気配を感じる。
しかし、感じた気配が異質なものであると気づいたフィオーネは瞬時に水を刃へと変え、目で視認する前に目標へと斬りかかる。
水が音を立てて弾ける。フィオーネが対象を視認した頃には水刃は霧散していた。
リビングのテーブル、その前の椅子に灰髪で眼帯をした男が片手をフィオーネの方へ向け、座っていた。
「いきなり斬りかかってくるとは随分とここの主神は物騒だな」
次の攻撃を仕掛けようとする前に男が口を挟む。
「やめておけ」
フィオーネが追撃の手を止める。
臆したわけではない。先程の水刃が効かなかったことを警戒して、冷静に攻撃の手を止めた。
「漠水神はお前だな?」
向けられた男の手は漆黒の小手に覆われている。
あれで攻撃が弾かれたのか?まだ敵の能力を把握しきれていないこの状況で水を操作できることが露呈した今、アドバンテージはあちらにある。フィオーネはそう考えていた。
「無視か。ならいい、ここの主神は口も聞けないようだ」
席を立つ男をフィオーネは制止する。
「私が漠水神フィオーネです。何が目的なのですか」
「近々、この都市に邪神教の‶十二使徒〟が強襲をかける」
にわかにも信じがたいその情報にフィオーネは警戒を緩めない。
「そう警戒するな、お前を殺そうと思えばいつでも殺せている」
「今回は個人的に交渉をしに来ただけだ」
男は再び席へと着く。
「使徒の一人は街の中心から近衛兵団本部へと進行。そちらは単純に戦力の弱体化が目的だ。本命はガタノゾアを封印している封楼灯台の触媒の破壊。もう一人の使徒が近衛兵団に向かっている使徒を陽動にし、封印の破壊へと向かう」
「あなたは何者ですか?」
男は表情を変えることなく続ける。
「封楼灯台は全部で三か所。使徒は全部で二人。どうやっても三か所の破壊は困難。それがお前の考えだ」
「確かに理にかなった考察だ。いくら使徒が強力だろうと残り一か所の封印に神であるお前が向かえば破壊は阻止できるかもしれないからな。上手くいく可能性は高い、使徒が二人なら…な」
フィオーネは何となく察しがついていた。
(この男は間違いなく十二使徒)
(自身の気配を絶つのが異常に長けている。私でさえ気取るのに一瞬の時間を有してしまった)
沈黙するフィオーネを他所に男は切り出す。
「この部屋に入った後、俺に気づかないお前に対してあえて気配を放った」
「この意味がわかるな?」
(厄介な相手です…。いつでも殺せるということですか)
フィオーネは心の中で打開策を考えようとしたが、力量の差は歴然だった。
「交渉が成立した場合、俺はこの件から手を引いてやっても構わない」
「つまり、襲撃に参加しないということですか…?」
「ああ」
「交渉…と言いましたね。そちらの要求は何ですか?」
男は正面の扉の方を向いたまま要求を言う。
「この都市の統治を降りろ」
フィオーネが自身の考えが読まれているのではないかと勘繰ってしまう程にタイムリーな要求だった。
この要求はここで飲まなくても近く実現するつもりだったのだ。
「…私を統治から退かせてあなたたちに何か利益があるのですか?」
「それはお前が知る必要のないことだ」
「要求はもう一つ、お前の旧神としての権能をこの襲撃で使い果たせ」
間髪を置かずに次の要求が来る。
「私が出る事態にならなかった場合は?」
「その時はこの要求を反故にしてもらって構わん」
確たる自信。それほどの邪神教はこの都市に戦力を割いているということ…。
二つの要求を果たしたとしても、襲撃は免れない。
残り二名の使徒に滅ぼされる可能性がある以上、これは交渉ではなく脅迫だ。
「要求が守られなかった場合は…?」
男はこちらを向き、瞳に殺意が宿る。
「その時は俺がこの都市を滅ぼす」
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「こちらからも一つ要求があります」
男は「何だ」と返す。
「あなたの主に伝えてください。その企みに意味はあるのですか、と」
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一瞬立ち止まり、一言告げた後に男はその場を後にする。
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