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第三章 水門都市編
第八話「炎の記憶」
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―それはある晴れた日で、太陽が照り温かな日差しが心地良かったことを覚えている。
「こっちこっち!」
短髪の少女が一人の騎士の手を引く。
「セシリア、一体どこまで行くんだ?」
男は少女に連れられ王城の離れにある花畑まで来ていた。
「着いたわ!ここがシモンに見せたかった私のお気に入りの場所よ!」
記憶に写る騎士の男はシモンと呼ばれ、セシリアという少女と仲良さげに笑い合っていた。
「私はね、争いがなくなってみんなが仲良くなればいいと思うの。だって同じ生命なのに争い合うっておかしな話でしょ?」
「この花の花言葉は〝平穏〟。この花が来年もたくさん咲いてくれるといいな」
手には純白の花が握られており、そよ風が花びら運んでいく。
「またここへ来る時は一緒に来てくれる?」
セシリアは太陽のような笑顔で微笑みかける。
「ああ、また来年な」
シモンは優しく言葉を返し、一番きれいな花を彼女の髪につける。
「くれるの?嬉しい!ありがとう」
満面の笑みで喜ぶセシリア。
「そろそろ、城へ戻って勉強しないと王妃様に起こられてしまう」
「はぁい。エスコートしてくださいね。私の騎士様」
記憶が乱れ、次の場面が流れてくる。
◇ ◇ ◇
「大変だ…!城に賊が侵入した!」
「王を守れ…!」
何が起きているかを理解していないシモンは兵士を問い詰める。
「何がどうなっている!一体何者だ!?」
「貴族が手引きをして反逆を起こしたらしい」
城内は騎士たちが走り回り、騒がしくなっていた。
城の内外は戦場と化しており、あちこちから火の手があがる。
「セシリア姫はどこへ行った?!」
シモンが通りかかった騎士に尋ねる。
「王が現在、殿を務めており姫様は隣国へ亡命する為に城外へ参られました」
「わかった。私はそちらへ向かう」
全速力で許嫁の元へと走る。
「無事でいてくれ…」
事態は刻一刻と悪化しており、シモンはセシリアの無事を祈る。
「お偉い騎士様がよぉ!くたばれ!!」
突然、背後の物陰から現れた賊に背中を斬りつけられる。
「…ッ!」
幸い鎧のおかげで傷は浅く、致命傷には至らずに済んだ。
「どけ!!」
押し寄せる賊の集団をなぎ倒しながら前へと進むシモンだったが、放たれた《火の魔弾》が顔の左半分に直撃してしまう。
「がぁぁぁぁあ!!」
左目は失明し、顔は焼け爛れる。
それでも右目を駆使し、持ち前の身体能力で窮地を脱する。
城門近くまで辿り着いた時、賊の声が聞こえてきた。
「王と王妃を討ち取ったぞ!あとは王女だけだ…!」
「離れにある花畑の方に向かったらしいぞ!」
話を盗み聞きしたシモンは背後から賊を討つ。
「はぁ…はぁ…今行くぞ…セシリア」
身体には無数の傷と火傷があり、何人斬ったのかわからない剣は刃こぼれし始めていた。
◇ ◇ ◇
やっとの思いで花畑についたシモンは辺りを見回し、想い人の名を叫ぶ。
「セシリア!!!どこだ!!!」
返事はなく花畑にも火の手が回り始めていた。
無我夢中で燃える花畑を探し、奥に人影を発見する。
「良かった!セシリア!!」
急ぎ駆け寄ったシモンだったが彼女の返事がない。
「どうした?早く逃げよう!」
見えなくなった左目を抑え、血に染まった右目を袖で拭き、前を見る。
「え…」
開いた視界の先にはぐったりと横になったセシリアの姿があり、頭部から血を流していた。
脈がある確認しようと抱きかかえるが、すでに彼女はこと切れており、足の腱は無残にも切断されている。
「そん…な」
その場にへたり込み放心状態になったシモンの顔が歪む。
「セシリア…返事をしてくれ。頼む…!」
問いかけは虚しく、空を切る。
「ただ…誰の迷惑にもならず、みんなの平和を願っていた少女が…どうして」
血の滲んだ拳を握りしめた時、感情が戻って来た。とてつもない損失感と怒りがシモンに襲いかかる。
約束の花は燃え、亡き想い人を胸に心の底から叫ぶ―。
「あああああああ!!!」
「許さない…俺から大切な人を奪った奴らを許さない…俺から平穏を奪ったこの世界を許さない」
「そんなにも戦いたいなら俺が全部壊してやる…!」
その目が次第に怒りを灯し始め、表情は修羅のように変化していく。
「憎いか」
脳内に声が聞こえてくる。
「ああ…憎い」
「ならば、力をやろう。汝の望みを叶える力だ。人はこれを〝能力〟と呼ぶそうだ」
謎の声がシモンに語りかける。
「我に共に世界を創り変えようではないか。この間違った世界を―」
声は次第に大きくなり、やがて目の前に仮面をつけた黒い〝何か〟が現れる。
「欲するか。この力を」
シモンは顔をあげる。
「よかろう。受け取るがいい」
差し伸べられた暗黒を受け取ると〝それ〟は次第に身体へと染み込んでいき、激痛と共にその姿を変える。
体は一回り大きくなり、顔は前面爛れ始める。
そして手は赤くひび割れ、燃え始めた。
「それが汝の能力だ。その力を使い我らが悲願を果たせ」
「今宵、新たな使徒が誕生した」
そう言うと黒い何かは姿を消し、シモンは異形の存在へと変貌する。
記憶は終わり、淡い光がセノに意識を取り戻させた。
(光の中で微かに花の匂いがした気が…)
「今のは…一体…」
見せられた記憶に疑問を持ちつつも他の二人の無事を確認しに向かう。
起き上がったセノの足元には一輪の白い花が咲いていた。
「こっちこっち!」
短髪の少女が一人の騎士の手を引く。
「セシリア、一体どこまで行くんだ?」
男は少女に連れられ王城の離れにある花畑まで来ていた。
「着いたわ!ここがシモンに見せたかった私のお気に入りの場所よ!」
記憶に写る騎士の男はシモンと呼ばれ、セシリアという少女と仲良さげに笑い合っていた。
「私はね、争いがなくなってみんなが仲良くなればいいと思うの。だって同じ生命なのに争い合うっておかしな話でしょ?」
「この花の花言葉は〝平穏〟。この花が来年もたくさん咲いてくれるといいな」
手には純白の花が握られており、そよ風が花びら運んでいく。
「またここへ来る時は一緒に来てくれる?」
セシリアは太陽のような笑顔で微笑みかける。
「ああ、また来年な」
シモンは優しく言葉を返し、一番きれいな花を彼女の髪につける。
「くれるの?嬉しい!ありがとう」
満面の笑みで喜ぶセシリア。
「そろそろ、城へ戻って勉強しないと王妃様に起こられてしまう」
「はぁい。エスコートしてくださいね。私の騎士様」
記憶が乱れ、次の場面が流れてくる。
◇ ◇ ◇
「大変だ…!城に賊が侵入した!」
「王を守れ…!」
何が起きているかを理解していないシモンは兵士を問い詰める。
「何がどうなっている!一体何者だ!?」
「貴族が手引きをして反逆を起こしたらしい」
城内は騎士たちが走り回り、騒がしくなっていた。
城の内外は戦場と化しており、あちこちから火の手があがる。
「セシリア姫はどこへ行った?!」
シモンが通りかかった騎士に尋ねる。
「王が現在、殿を務めており姫様は隣国へ亡命する為に城外へ参られました」
「わかった。私はそちらへ向かう」
全速力で許嫁の元へと走る。
「無事でいてくれ…」
事態は刻一刻と悪化しており、シモンはセシリアの無事を祈る。
「お偉い騎士様がよぉ!くたばれ!!」
突然、背後の物陰から現れた賊に背中を斬りつけられる。
「…ッ!」
幸い鎧のおかげで傷は浅く、致命傷には至らずに済んだ。
「どけ!!」
押し寄せる賊の集団をなぎ倒しながら前へと進むシモンだったが、放たれた《火の魔弾》が顔の左半分に直撃してしまう。
「がぁぁぁぁあ!!」
左目は失明し、顔は焼け爛れる。
それでも右目を駆使し、持ち前の身体能力で窮地を脱する。
城門近くまで辿り着いた時、賊の声が聞こえてきた。
「王と王妃を討ち取ったぞ!あとは王女だけだ…!」
「離れにある花畑の方に向かったらしいぞ!」
話を盗み聞きしたシモンは背後から賊を討つ。
「はぁ…はぁ…今行くぞ…セシリア」
身体には無数の傷と火傷があり、何人斬ったのかわからない剣は刃こぼれし始めていた。
◇ ◇ ◇
やっとの思いで花畑についたシモンは辺りを見回し、想い人の名を叫ぶ。
「セシリア!!!どこだ!!!」
返事はなく花畑にも火の手が回り始めていた。
無我夢中で燃える花畑を探し、奥に人影を発見する。
「良かった!セシリア!!」
急ぎ駆け寄ったシモンだったが彼女の返事がない。
「どうした?早く逃げよう!」
見えなくなった左目を抑え、血に染まった右目を袖で拭き、前を見る。
「え…」
開いた視界の先にはぐったりと横になったセシリアの姿があり、頭部から血を流していた。
脈がある確認しようと抱きかかえるが、すでに彼女はこと切れており、足の腱は無残にも切断されている。
「そん…な」
その場にへたり込み放心状態になったシモンの顔が歪む。
「セシリア…返事をしてくれ。頼む…!」
問いかけは虚しく、空を切る。
「ただ…誰の迷惑にもならず、みんなの平和を願っていた少女が…どうして」
血の滲んだ拳を握りしめた時、感情が戻って来た。とてつもない損失感と怒りがシモンに襲いかかる。
約束の花は燃え、亡き想い人を胸に心の底から叫ぶ―。
「あああああああ!!!」
「許さない…俺から大切な人を奪った奴らを許さない…俺から平穏を奪ったこの世界を許さない」
「そんなにも戦いたいなら俺が全部壊してやる…!」
その目が次第に怒りを灯し始め、表情は修羅のように変化していく。
「憎いか」
脳内に声が聞こえてくる。
「ああ…憎い」
「ならば、力をやろう。汝の望みを叶える力だ。人はこれを〝能力〟と呼ぶそうだ」
謎の声がシモンに語りかける。
「我に共に世界を創り変えようではないか。この間違った世界を―」
声は次第に大きくなり、やがて目の前に仮面をつけた黒い〝何か〟が現れる。
「欲するか。この力を」
シモンは顔をあげる。
「よかろう。受け取るがいい」
差し伸べられた暗黒を受け取ると〝それ〟は次第に身体へと染み込んでいき、激痛と共にその姿を変える。
体は一回り大きくなり、顔は前面爛れ始める。
そして手は赤くひび割れ、燃え始めた。
「それが汝の能力だ。その力を使い我らが悲願を果たせ」
「今宵、新たな使徒が誕生した」
そう言うと黒い何かは姿を消し、シモンは異形の存在へと変貌する。
記憶は終わり、淡い光がセノに意識を取り戻させた。
(光の中で微かに花の匂いがした気が…)
「今のは…一体…」
見せられた記憶に疑問を持ちつつも他の二人の無事を確認しに向かう。
起き上がったセノの足元には一輪の白い花が咲いていた。
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