暗澹のオールド・ワン

ふじさき

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第三章 水門都市編

第五話「水の都に住まう旧神」

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「着きやしたよ。お客さん」


 アクアポートに1時間ほど揺られ、街の西側へと到着する。
 坂道を歩いて行くと紹介された灯台の下へと辿り着く。
 灯台下には岩で囲まれた空間が広がっており、そこを抜けると一軒の家がぽつりと立っていた。

 足元に生えている花を踏まないように家の前まで足を進め、ジュドは扉をノックした。

 すると扉が開き、一人の女が出てくる。


「どちら様でしょうか?」


 透き通るような青い髪と美しい碧眼の女に一行は目を奪われる。
 彼女の耳の上には珊瑚のような角が生え、ただならぬ雰囲気が漂う。 


「近衛兵長のオーレダリア、そして地底神ラースからあなたに会うように言われました」


 女はじっと来客の目を見つめ、少しすると先ほどの緊張を解き「こちらへどうぞ」と部屋の中に招待する。

 中に入り、机を囲んだジュドたちは地底都市での一件とオーレダリアから任された件について話した。
 どうやら彼女は本当に前線に一切の関与もしておらず、街の近況を把握していなかったみたいだ。


「なるほど、そんなことがあったのですね。オーレダリアの件もわざわざありがとうございます」

「改めて、私があなたたちの探していた漠水神フィオーネです」 


 ついに会うことができた二人目の旧神。
 地底神ほど高飛車な人格ではないようで少し安心した。


「地底神が言う世界の真実について、あの話は本当なのか?」


 ここに来るまでずっと気になっていた例の話を彼女に問いかける。


「今まで話を聞いて、彼があなたたちを信頼していることはわかりました」

「それじゃ…」


 一行の言葉を遮るようにフィオーネは話す。


「ですが。あなたたちが本当に信頼に足る人物なのかを私自らが見極めさせていただきます」


 思わぬ言葉にジュドたちは困惑する。


「そこまで難しい話ではありませんよ。模擬戦です。剣を交えればおおよそのことはわかりますから」


 見た目に反して、申し出てきたのは模擬戦。
 ラースは旧神の強さについて、邪神には劣るもののこの世の生命よりは格段に上位と言っていた。
 だが、目的を成すにはここで引き下がるわけにはいかない。

 ジュドたちはフィオーネに連れられ、外へと出た。


「安心してください。街の人はここへは滅多に来ないので、全力で奮闘していただいて大丈夫ですよ」


  表情を変えることなく、一行から距離を取る。
 そしてフィオーネの手のひらへと水が集まり、泡となる。


「この泡を開始の合図にしましょう。破裂したら各々仕掛けてきてください」


 そう言い空へと泡を放つ。数秒後、放った泡は地面へと落ち始める。ジュドたちは武器を手に取り、ルシアとモーリスが強化魔術を前衛の三人にかける。 

 ―パチッ。

 地面へと落ちた泡が破裂する。

 その瞬間、勢いよく前の三人が飛び出した。
 地底都市で貰った新たな装具に身を包んだ三人は以前よりも動きがよくなっており、三方向から攻めかける。

 フィオーネは近くの水路から水を収束させ、水刃を創り出した。
 さらに自身の周囲に水を浮遊させ、構えを取る。


「《痛撃ストライク》!!!」


 獅子を模ったダグラスの斧がフィオーネへと振り下ろされるが、ガシャンと音を立て水刃に弾かれる。
 水でできた刃が大男の斧を弾き飛ばした。
 なんて硬度だ。

 のけぞったダグラスの背後からルシアの雷撃が飛んでくる。


「死角からの魔術、しかも雷。いい判断です」

「ただ、相性が必ずしも戦況を左右するとは限りません」


 フィオーネは魔術が直撃する瞬間、周囲の浮遊させた水を地面に広げ、後衛のルシアたちの足元まで一帯を水溜まりへと変える。


「きゃぁあ!!」


 感電を狙い放った魔術はフィオーネごとダグラス、モーリス、ルシアの三人へと襲い掛かる。
 二重詠唱ダブル・キャストによる二倍の威力の魔術を喰らい、三人は地面に倒れ込む。強化魔術のおかげもあり火傷程度の負傷で済んでいるが、体は痺れて動かない。


「システィ!!」


 フィオーネが感電しているうちに両方向から挟み込むようにジュドとシスティが斬り込むが、辺りの水がフィオーネを守るように二人を吹き飛ばす。
 受け身を取ったシスティは斬魔刀で地面を両断し、砕け散った土の破片を影に視界から消える。


「どこへ… 」


 周りを隈なく警戒するフィオーネに視界の端から斬魔刀が飛んでくる。
 反射で斬魔刀を薙ぎ払うが、その影からシスティが殴りかかる。


「はぁああ!!!」


 全力の拳は、あと少しのところで水に防がれる。 


「全部使ったわね、浮遊させている水を…!」


 システィの狙いを理解したフィオーネは即座に振り返る。
 しかし、速攻で放たれたジュドの剣撃が振り向くよりも先に目標を捉える。


「《閃光連斬》!!!」


 剣が純白の肌に触れる刹那、漠水神の体が水のように透ける。
 剣は体に到達するが手応えはなく、目の前にいたはずのフィオーネは溶け落ち、システィの後ろに立っていた。


「確かに斬ったはず、どうなって…」


 思考が停止したジュドを他所にフィオーネの水刃は弓へと形状を変化させる。
 引き絞られた水の矢がジュドとシスティへと発射され、手足を水で拘束する。 


「もう少しというところでしたね…」

「いい線ではありますが、この程度ではこれから先あなたたちの実力でこの世界の闇を戦うことは難しいでしょう」

「地底都市で生き残ったその命を無下にしてはいけません。手をお引きなさい」


 地底都市を乗り切ったことで一行は強くなったと思い込んでいたが、実力差を痛感させられる。

 フィオーネは戦闘状態を解除した時、自身の肩に違和感を覚える。
 先ほどジュドに斬られた箇所がほんの少し光を帯びていた。


「……」


 フィオーネは斬られる寸前、〝蜃水楼ミレロラージュ〟により水の分身体を創り出し、一定の距離を取った。
 実際に剣がかすめたのは実体ではなく分身体だったのだ。

 それなのに、実体に剣撃が届いている。ジュドを見ると左手がかすかに光を放つ。


「その力は…、なるほど。彼はそれを賭けたということですか」


  そう呟き、漠水神は思い詰めたような顔をした後、先ほどの発言を撤回する。


「少しあなた方に興味が沸きました。ですが、今のままでは近いうちに死ぬことになるでしょう」


「そこで…もしあなたたちが私の修行を乗り越えることができたならば、私の知り得る真実をお話しするというのはいかがですか?」


 諦めかけていたジュドを他のメンバーが鼓舞する。


「負け…たまま…じゃ終われないわ」

「可能性が残されているなら…やるしかないの、そうじゃろ?」


 システィやモーリスたちが何とか体を起こす。


「必ず乗り切ってみせる…!だから…俺たちに修行をつけてくれ」


 ジュドが頭を下げると、四人もそれに続く。


「いい、パーティーですね」


 フィオーネは遠くを見つめて微笑む。


「今日はもう日が暮れます。宿に戻り、明日ここへ来られるといいでしょう」


 模擬戦だったため大きな怪我はなく、一行は部屋で簡単な応急処置を施される。

 ジュドたちは疲弊した体で宿に戻り、食事や入浴を終えた後、泥のように眠るのであった。 

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