暗澹のオールド・ワン

ふじさき

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第二章 地底都市編

第五話「絶死」

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「あなた、一体…」


 鎖を斬られたことにマルクトが困惑する。

 包帯を身体中に巻いたその男は再び槍を構えた。


「ギルドからの要請でお前たちの加勢に来た」


 どうやらこの男も冒険者のようだ。
 この絶望的な状況が覆るのかはわからないが、ジュドたちにとっては命の恩人だった。


「…助かった、ありがとう」


 ジュドがそう言うと、男は振り返って軽く頷いた。

 斬れるはずのない鎖が斬られたことで包帯の男を脅威だと認識したマルクトは臨戦態勢を取る。


「巻き込むかもしれない。少し離れててくれ」


 ジュドたちは何とか起き上がり、距離を取った。


「あなた名前は?」


 マルクトが問う。


「…〝絶死〟。スティングレイ」


 その異名はギルドでも知れ渡っていた。
 名を冠する者。

 それは、S級冒険者だ。

 張り付くような空間の中、瞬きすら許されない一瞬が訪れた。
 包帯の男が駆け出し、マルクトもそれに準ずるよう鎖を変幻自在に伸ばす。


 戦いの火蓋が切られ、二人は目にも止まらぬ速さでぶつかり合う。


 マルクトの厄介な鎖をスティングレイは見事な手さばきでいなしている。


「《妨害する鎖錠チェーン・デュスターブ》!」


 伸ばした鎖がスティングレイの周りを檻のような陣形で取り囲み、一気に対象へと縮む。


「逃げられるかしら?」


 技により強化された鎖は容赦なくスティングレイを襲った。
 数か所身体をかすめたが、男はその技を初見で見切り捌き切る。


「とてつもない身体能力ねぇ。その力、人の域を超えているわ」

「俺と互角で戦えているお前も十分バケモノだ」


 スティングレイは槍での攻撃を完全なブラフにし、肉弾戦で攻めていた。

 全方向から襲い来る鎖の一本が頭に直撃しかけたのを間一髪で避けたものの、マルクトはその一瞬を見逃さなかった。
 前方から猛進してきたマルクトの拳に気づいたスティングレイは、防御の構えを取るが数メートル後ろに殴り飛ばされてしまう。

 男を見てマルクトは嘲笑する。


「私たち使徒は、邪神を復活させるという目的を叶える代わりに強力な能力ギフトを授かっているの」

「私の能力ギフトは〝感覚共有〟。手で触れた相手に自分と同じ〝痣〟を発現させ、受けた傷をそのまま共有リンク先と共有できるというものよ。邪神様の加護を得ている我々は普通の人間よりも強靭な肉体を持っている。つまり、私を倒す前に自分で自滅してしまうというわけ」

「今の一撃で条件を満たし、あなたにそのギフトが発動したわ」

「これで私の勝…ち…」



 ゴボッー



 敗戦濃厚だと思われた状況で、なぜかマルクトが膝をつき、吐血した。
 先ほど吹き飛ばした男を見るが、同じように吐血している様子はない。


(なんで…どうして私だけが…)


 マルクトの思考が固まり、男とリンクした痣からは黒い紋様が広がり始めていた。
 徐々に広がるその紋様は、範囲を拡大すると同時に体内を蝕み、出血をも拡大させていたのだ。


「何よ、これ…」


 吹き飛ばされた男が瓦礫から出てきて、こう告げる。


「魔槍〝トリシューラ〟」

「この魔槍がつけた傷は、あらゆる治癒を無効にし、敵に癒えぬ傷を与える。さらにその傷は徐々に対象の命を蝕む。つけられた名は〝絶死〟。その力は絶大すぎるあまり、所有者の命をも蝕み続け死に至らしめる。そのせいで俺は普段からこの封呪の包帯を外すことができない」

「お前はギフトの能力で俺とリンクしたせいでトリシューラの呪詛すらも共有化されたという訳だ。呪いに耐性がない状況でこの呪詛を喰らうと、徐々に命を削られ…やがて死ぬ」


「トリシューラ…。お兄様から聞いたことがあるわ…。魔装十二振と呼ばれる強力な武具に数えられる一本で、その武具を使用することは禁忌とされている」


 システィが四人に説明する。


「私が…こんな…ところで…」

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