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プロローグ
しおりを挟む「ったく、損な役回りばかり会うなぁ。」
俺の名は刻覇時穹。
早速だが俺は今、死地の目の前にいる。
何故って?
それは、数ヶ月前に遡る。
俺を含めた7人の勇者と7人の誰かに付いてきたお供ら総勢三十数人で魔王の住まう最南の島暗黒大陸に攻め込み、魔王軍は無論、魔王を無事に討伐したのだ。
魔王を討伐したのなら勇者はお役御免。しかし、勇者とは無辜なる民達にとっては地球で言う芸能人と何ら変わらない存在。あちこちで未だに活躍している。
そんな中、勇者最強の男結城誠が、自分のお供達と結婚する事にしたそうだ。
あぁ、ついでに言えば俺のお供5人も結城誠と結婚するんだとか。
まぁ一夫多妻制の世界故に出来る所業だがな。
それで、結婚するに当たって、結城誠以外の勇者達には招待状が届いた。
……………………俺以外に。
そう、俺だけには招待状が来なかったのだ。
無理も無い。今頃、俺は行方不明扱いだろう。それでいい。役目を終えたから表舞台を去ったと思わせれば。
あ、別れと結婚祝辞の手紙を一緒にしたが大丈夫だろうか。
閑話休題
他の勇者達はこの世界において最も危険な存在に気づいてないのだ。
それならその存在を無かったことにすればいい。
だから俺は再び暗黒大陸に足を踏み入れたのだ。
暗黒大陸に足を踏み入れて気付いた。数ヶ月前に絶滅させたはずの魔族が倍の数で密集していた。
「はぁ、やっぱり損だ。でも、俺の命1つで救えるのなら、喜んで捧げてやる。」
先に言っておこう。俺は勇者の中で最弱をキープしていた。
それは必要があったからだ。
別に開示しても良かったが、体のいい実験動物にされたくなかった。
俺がこの世界に来る前から地道に得ていた力は正真正銘それとと何ら変わりはないのだ。
──────オールリミット解除
見た目で圧することが出来ない可愛らしい姿から想像を絶する程の威圧……神威が荒れる。
そこで、魔族の大群は俺に気付き、暗黒大陸の再奥にいる魔王以上の災厄に至っては同じ気配に関心を持つ。
──────絶器展開
俺の手には1本の黄金に輝く槍と俺の身長並にある無骨な剣が現れる。
黄金に輝く槍は地球のインド神話の主神たるインドラが一応担うインドラの槍もといヴァサヴィシャクティ。
これは俺が世界に絶望していた時にインドラと出くわし、弟子となった。
いろんな面で強くなろうと邁進しいつの間にか真の担い手となっていた。
もう1つの身長並にある無骨な剣はどう扱おうと、決して折れたり刃こぼれをしたことが無い。
「行くぞ、魔性共。ここから先は神話の戦、疾く消し去る!」
俺は雷光を纏い、密集していた魔族共のど真ん中に光速で突っ込んでいった。
突貫すれば、後方は溶けて爆発前方はヴァサヴィの突貫によって挽肉と化する。
無骨な剣は未だに使用してない。多対一という状況下、態々間合いを削ったらその分命の危機に陥ってしまう。
それは嫌なので使ってないのだ。
数時間後
大地には死屍累々な惨状に呆れていた。
まさか20兆もの魔族を殺ることになろうとは。
「はぁ…………はぁ…………あとは、お前だけだ…………魔神ドルヴァナ。確か、文明の破壊者だったか?」
──カッカッカッカッカッカッ!今までの勇者共は魔王を倒したからと粋がってお祭り騒ぎ…………隙だらけったらありゃしねぇ。ほんと、この世界に飽き飽きしていた。そんな中にこの日、この時、貴様は1人で文明崩壊を阻止した!その上貴様のそれは神と同じ、血の気沸き立つ殺り合いの始まりよ!!!!
今まで見に徹していたドルヴァナが動き出した。
そこからは語るに語れない熾烈を極めた殺り合いが始まった。
─────────────────
魔神の邪なる波動と勇者としての聖なる波動が世界中に響き渡る。
このふたつのぶつかり合いは誰もが認識した。
無論勇者達もだ。
勇者達は恥じた。魔神という存在については召喚される時に接触してきた神に言われていたはず、なのに何故自分たちは呑気に飲み食いしているのだろう。
文明崩壊の阻止?一体誰が?
召喚された勇者は7人、ここで呑気に飲み食いしているの勇者は6人。
1人足りない。行方不明となった最弱の勇者だ。
まさか、魔王を討伐したから好きに生きろというのか?
魔神という脅威を1人で討つ気か?
憤りを感じた。己に。そして、何も相談せずに去った1人の勇者に。
勇者達は立ち上がり、剣を手に取り、歩み出す。
結城誠は本当の最終決戦を終わらせてくる。そう、婚約者達に告げて帰りを待って貰うよう説得し、暗黒大陸を目指した。
不知火華憐は、知らぬ間に無意識で恋していた相手のことを知れるのでは?と謎の淡い期待を乗せて誠に続く。
御国凜々は、彼が不遇だと昔から知っていた。助けたくとも周りの圧で出来なかった。しかし、今は違う。今なら彼を支えることが出来る。いや、私にしか出来ない。瞳の灯りを無くしたまま決意して、誠に続く。
極黒真人は、今までの借りを返すべくして立ち上がり、誠に続く。
煤啜鈴雪は自分の地位をもっと上げようと画策して薄ら笑いを浮かべながら立ち上がり、誠に続く。
竜馬健人は、魔神が如何程なのか。力量を知りたくなり、重い腰を上げ、誠に続く。
各々が様々な思惑を持ちながら数日を掛けて再び暗黒大陸へと足を踏み入れた。
勇者達は辿り着いた。しかし、間に合わなかった。
既に戦いは終えていたのだ。
勇者達の目に移るのは、下半身まで消えかかっている魔神ドルヴァナと、すぐそこの岩盤を背に尻餅をついて縋る最弱の勇者。
ドルヴァナが消えかかっているということは、魔神という脅威が去った。その事を物語っているが、問題は時穹だ。
時穹は両脚を失っており、脚の代用品なのか、無骨な剣の柄を左脚の断面にぶっ刺しており、無骨な剣と同じくらいの大きさを持つ魔剣を右脚の断面にぶっ刺している。
そして、右腕も無くなっていた。
唯一残った左腕の方は黄金に輝く槍を大事そうに抱いていた。
勇者達は思わず目を逸らした。あまりにも痛々しい最後だと感じたからだ。
「ッッッ…………おい、背ける背けんはどうでもいいが、何故ここにお前らがいる?お前らは結婚式中のはずだ。」
この後は誰もが思う通り、時穹は説教を受けた。
魔神ドルヴァナという脅威が完全に消失すると、己らを召喚した神から各自褒賞を受けた。
結城誠は地球とこの世界の定住権。
不知火華憐はこの世界で得た従者ら(有志)と共に地球へと帰還すること。
御国凜々は地球へと帰還した後の生活の安定。
極黒真人は結城と同じ地球とこの世界の定住権。
煤啜鈴雪はこの世界の自宅丸々ひとつを地球に持っていくこと。
竜馬健人は帰還後に親子関係の復活。
最後に刻覇時穹は自分の身体に合致する義手義足(魔力循環と圧倒的強度)を頼んだ。
暗黒大陸で願い事を済ませた一行は帰還。
誠の結婚式後に各自褒賞を手に帰還するなりした。
結婚、帰還後から約1ヶ月
誠と真人はスローライフを謳歌し、
華憐は恋心に気付いて日々悶々と過ごし、
凜々は周りの圧を跳ね除けてあるものの外堀を埋めに奔走、
鈴雪は自分の研究が抜擢されて、ちやほや、
健人は親子関係が元に戻り、幸せを噛み締めていた。
そして、刻覇時穹は現在魔王討伐で懇意にしてくれたオーランド王国の軍部特別顧問として、騎士団の士気と結束力並びに個人個人の力を最大限に引き伸ばしたり、魔導師団の魔力操作の練度や詠唱の省略方を師事したり、聖堂教会の悪事を暴き罰したりした。
しかし、誰もが咎めることをしなかった。信頼の証である。
何より二つ名が響いているのだろう。
神殺しの勇者
と。
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