セフィロト

讃岐うどん

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『黄金卿』編

第十七話 ピルグリム

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 かつて、『永久機関』による反乱が起きた。
 世界全体を巻き込み、『神』と戦った愚か者。勇敢だと謳う者もいる。
 結果だけで言えば、彼ら『永久機関』の敗北だった。
 は、強かった。『神』を除けば、一番か二番に入る。
 絶対的な『神』はその大戦で、ある飢餓を作り出した。『守護者ピルグリム』である。
 6
 知る者は、彼らを呼ぶ。








 内、『繁栄』と『清廉』は先の戦いで戦死している。
 最初に産み出されたピルグリム『虚影』は、問題児だった。
 大戦で、『王』が『永久機関』に付いた焦りから、自身と同じ力の『飢餓』を産み出してしまった。それが『虚影』。
 彼からすれば、『王』が自身を裏切るのは想定外だったからだ。
 だが、その判断が、更に自身の首を絞めることになった。『虚影』は、裏切ったのだ。
『神』と袂を分かち、『永久機関』と共に戦った。理由はわからない。
 最終的に、彼は封印された。2度と解けない封印の中で、今も眠っている。

 他の三体『紅蓮』『巡礼』『証明』は、『神』の最高傑作だった。
 高い忠誠心を持ち、誰にも負けない強さを持つ。
 結果的に、『神』はこの6体を用いて勝利した。
 戦いが終わり、3体はそれぞれの道を歩んだ。

『巡礼』は、どこかで細々と暮らした。
『証明』は隠居し、
『紅蓮』は───────────。



「アレが……守護者ピルグリム!?」
『そうなるな……』
 ファウスト。
 そう呼ばれた男は前髪を上げ、笑いを止めた。冷たい視線の先には、アストラル。
「惜しい。流石はメフィストだ。だが、少し情報が足りていないな!」
『何?』
 回復しきったアストラルは、槍を握り直す。彼の話が事実なら、今の彼女は勝てない。
(アレが……パパの?)
。ファウストじゃない。だが、この肉体はファウストのだ」
 覇者の封レジステンド
 その異名は、まさしく彼を示していた。
 ジャケットを開く。丸見えの上半身。
 その胸元の円。リボルバーのシリンダーのような紋様。6。その一つはゆらゆらと燃える炎の様に光っていた。
『アストラル、やるぞ』
「うん」
 槍を振るう。翼が迎え撃つ。
 ベリアルは笑い、更に高く飛翔する。迎撃の為に、足に命力を込める。
「圧縮/爆発」
 呟き、飛ぶ。
 槍の間合いに入った。ベリアルは両手を広げている。刹那の攻防。
「挑むか! 『守護者ピルグリム』に!」
 迫り来る槍を平然と躱す。
 命力の爆発による加速も入った槍をだ。
 その槍の速度は、音速を超えている。
 直撃は躱せても、ソニックブームは躱せない。だが、彼は平然としていた。
「どうした、オマエの力はこんなものか!」
 僅かな間合い。槍を振るった後の、隙とも呼べぬ隙。次撃へと繋ぐ刹那に、
「はぁ!」
 ベリアルの拳が、ガラ空きの胴体へと押し進む。
(マズ……!)
 速い。その拳も、同じく音速を超えていた。ただ、アストラルとは仕組みが若干違った。
「ッ。止めるか!」
 ベリアルは単純に、そのフィジカルだけで成し遂げていた。命力によるブーストなどは用いていない。
 いや、正確に言えばできなかった。
「ァァ!」
 槍を滑り込ませた。先端を手で持ち、持ち手で受ける。ただでさえ木の枝の様に細かった槍は削られ、ケーブルのように細くなった。
「フ、フ、フ」
 これではもう、槍として発揮しない。
 そう考えた彼は、左手に命力を込める。
 そして、
「オラァ!」
 彼女に触れる、その瞬間、止まった。その光景を、予想していたのか、彼女は笑う。
「へ、長かったぁ」
 この槍はそもそもが特殊だ。
 槍でやって槍じゃない。
 粘土のようなものだ。
 捏ねて、砕いて、割って、くっ付けて、研いで、必要な形を作り出す。
 一定の質量を超えない限り、無限に生み出すことのできる兵器。
 それが、『エディア』。
「ご、がぁ!」
 その瞬間、
 翼は機能を停止し、無常に重力が働く。
 その姿は、まるでイカロス。
「き……サマァ……!!」
 砕かれた破片が、小さな刃物になった。
 そのサイズは髪の毛よりも小さい。
 脆く、簡単に砕け散るだろう。
 だが、それでよかった。
「……『禊孔道』を……!」
 彼女は眉ひとつ動かさない。
『まさか……本当にやるとは』
 エディアの思いは、口には出さない。
 簡単な話だった。
 砕かれた『エディア』は空気に混じり、吸引によってベリアルの肉体に入り込んだ。
 肉体に侵略した『エディア』は、体内で再結成され、内側から
 神経、内臓、筋肉、骨。そして、『禊孔道』も。
 命力版の血管であるそれを斬られるということは、
「グ……動けん……!」
 それ即ち、
 特に、命力を糧にしている『飢餓』によく効く。
 肉体の制御を失なった彼は、肉体を取り戻そうと『禊孔道』の再生を始めている。
「今のオマエが何だろうと、どうでも良い。だけど、これだけは覚えておけ」
 地面に打ち付けられ、立ちあがろうとする彼に、切先を向けた。
 その声は、自信に満ち溢れていた。
「クソがァァァァァァァァァァァァ!!」
 唯我独尊を征く、最強。
「……私が、守護者の娘アストラルだ」


 首を掻っ切り、心臓を潰す。
 ここに、『覇者の封レジステンド』は消滅した。
 ジャケットを脱がし、命力の塊である『宝石玉クリーリア』を探そうと、手術の様にメスを入れる。


 ──その瞬間だった。
『避けろ!』
 エディアの叫び声。一瞬後に鳴り響いた轟音。
(間に合わない!)
 音のした方を向けば、がこちらに急接近していた。
「───────────!!」
 声にならない声。その一撃は、必中。
 例え音速を越えようが、世界に絶対的速度が存在する限り、これは避けられない。
『グォォォォォォォ!!』
 その一撃は、雷。しかも、、赤い雷だ。
 人間は、時期にもよるが01
 雷のアンペア数は、平均して15万アンペア。時に50万も行くという。
(赤雷の直撃は……不味い!)
 赤い雷は、通常のそれとは大きく違った。
 10
 約100万アンペア。100億ボルトである。
「ァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
 オーバーキルもいいとこだ。
 人間の致死量の1000万倍の電撃を、その身に受けた。
「ググググググググググググ─────グググググググググググググググググ!!」
 人間と調律師、電撃についての耐性は、大して変わらない。何せ、『飢餓』ですら10アンペアもあれば殺せる。
 それ程までに、電気は危険なのだ。
『グォォォォォォォォォォォォォォ!!』
 赤雷せきらいのダメージをエディアも受けた。二次被害ではない。これは、彼の意思だった。
(このままでは……アストラルが死ぬ!)
 そう考えた彼は、アストラルから有りったけの電気を受け取る。いや、奪い取ったというべきか。
 ともかく、彼はそのまま自身を川に放り投げた。
「……っ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ!」
 辛うじて、身体の機能は生きている。エディアのお陰だ。後数秒、彼が行動を起こすのが遅かったら、死んでいた。
「ッ、っくあ」
 ただ、死んではいないだけ。
 そのまま、意識を失った。



 その日、彼岸市全体で大規模停電が発生した。
 原因は、言うまでも無い。
 赤雷の電気を受け、近くのダムがショートしたのだ。配線が焼き切れ、電線が部千切れる。
 それだけで済んだのが、奇跡だった。
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