セフィロト

讃岐うどん

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『黄金卿』編

第六話 許す 許さない

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「威勢が良いな」
 だが、それだけの事。
 所詮、私の敵ではない。
 経験の差、命力の差。この二つはあまりにも致命的なほどかけ離れている。
 守護者の子が何をしようが、潰せる。
「殺しきってやる、か。良いだろう、守護者の子。本気でやってやる」
 槍を握る。一撃必殺の構えを取る。
 私は負けない。『骸なる狂気』を発動させた時点で勝ちは揺るがなくなった。
 敗北なぞ存在しない。
「来い!」
 槍を突き出す。空気よりも速く。
 摩擦すらを味方につけ、敵を穿つ。
「アウトレイジ!」
 来る。名だけの正体不明神技。
 ──クリシュナ。
 かつて破壊の化身として畏れられていた神の名前。
 そんなモノを宿しているのだ。
「だから言ってるだろ! 使わせるか!」
「ッ! アア!」
 靡く長髪。一撃と共に抜け落ちる黄金。
 彼女の宣言の瞬間、明らかに空気が変わった。
 だが。
(それだけだ)
 結末は変わらない。
 気迫だけではどうにもならない差。
 歴戦が、直感が、背中を押す。
 至近距離。体術に切り替えろ。
「ふん!」
 左手は使えない。奴の右手に注視しろ。
 一度だ。一度だけ、奴に打たせろ。
(良い)
 隙は作った。必ず右手を打ち込む。
「──そこだ!」
 そこを狩る!
「な!?」
 両手で右手を掴んだ。
 勢いそのまま、くるりと後ろ向きに回転し、肩に手を乗せる。
「はぁ!」
「が!」
 ズドン!
『背負い投げか!』
 彼女を倒し、馬乗りになる。
「覚悟しろよ?」
 殴る。殴る。殴る。殴る。
「ぐ、あぁ」
 反撃はさせない。
 殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る。
「あ、ぐ」
 血反吐を吐きやがった。
 80度の殴り。
 既に腹は凹んでいる。既に肉は青く染まっている。血管を切った。骨を折った。神経を砕いた。
 なのに、
「何故、まだ立つ!?」
 殺意の瞳はまだ、諦めを持っていなかった。
「アァ!!」
「!?」
 何処からか槍が飛んだ。
 槍は私の頬を裂き、空高く飛び上がる。
 起動を最後まで見た。それが隙だった。
「惜しかったなぁ、だけど、それだ」
「ダァ!!」
 潰れたはずの腕から、反撃の一撃を受ける。血に塗れた細い一撃。
 閃光は私を吹き飛ばし、立ち上がる。
「何だ、まだ立てるのか」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ!」
 体力は無い。荒い息で猫背だ。
 今にも倒れそうな死に損ない。
 簡単に屠ることができる。
「来い、ゼスティリア」
 槍を握り直し、敵を睨み、苦笑いをする。
『拒む者』。その異名は誰につけられた。
 知るか。誰でもいい。
 終わりを否定した。死を受け入れなかった。
「それが、私だ」
「……?」
 もっと速く、神速を超えろ。
 もっと。もっと。さらに速く、全てを超えていけ。
「ッグ、ァァア!」
 槍を突き立てる。
 対抗するかの様にエディアが庇っている。
 だが、無意味。
 単純火力なら勝っている。
「無駄、だ!」
『ッ! バカ火力が!』
 マスターの代わりに槍は動く。
 斬られぬために。穿たれぬために。
「メフィストが残した新造兵器は、伊達ではないな!」
『そりゃあどうも! いい加減、少しぐらい弱れよ』
「6割でやって、体力が減るわけないだ、ろ!」
 ガン!
 命力が尽きたのか、エディアは弾かれた。
 彼?は戻ることなく、球体へと回帰する。
「いい加減、諦めろ」
 エディアは間に合わない。
 突き刺せ。それで終わらせろ。
「ァ、」
「ヂ!」
 槍をいなされた。
 木に突き刺さり、木片が飛び散る。
 ビチビチと繊維が断たれた。
 狂気が冷静をくれる。
 ゆらりと振り向いた。
 背後に立つ少女は、
「まるでケモノだな」
 息を荒く、四足になりかけのケモノになりかけていた。
「ドォ、ラァ!」
 黒い球体が爪に変わる。
 正面から襲いかかる。
(だったら……)
 やることは一つ。
「正面から叩き潰してやるよ!」
 笑え。嗤え。
 槍をぶん投げた。
 その先は、
「!?」
 地面。
 標的は元から違う。調律師など狙っていない。どうせ避けられるのなら、時間をかけたくないのなら。
 これで良い。
『崩落を狙ったか!』
 この山は二つのクレーターのせいでボロボロだ。いつ崩れ去ってもおかしくはない。
『命力を流し込み、暴走を図るとは』
 自分ごと穴の中に落ちていく。
 高さは20メートル程。
 単体なら余裕で登り切れる。
 直径は3メートル。
「ああ。よく理解している様だな。武器の方が冷静とは、とんだ調律師だな」
 軽口はそこまで。
 拳を握る。
 と、そこで、彼女が口を開いた。
「一つ、聞かせろ」
「何だ」
 警戒は解かず、一挙手一投足に注視しつつ耳を傾ける。
「何故、ここに来た」
 目を見開いた。思わず笑みが溢れた。
 死戦の中、そんなことを聞いてきたのは初めてだ。
「誰が馬鹿正直に答えると思う? どうしても聞きたいのなら、殺してでも問いただせ」
「あっそ。なら、どうでもいい」
 彼女はどうでも良さそうに手を動かす。
 癪に障る。聞いておいてその態度とは。
「聞きたいのはそれだけか?」
「メフィストは何処にいる?」
 意外性のかけらもない質問。
 守護者の事を聞かれても答えられん。
「知らん。そも、奴とは五千年前に縁を切っている」
「そう。後一つ、一応聞くけど」
「あ?」
「この街を諦める気は?」
「無えよ。力尽くで止めるんだな」
 問答は終わり。
 後はぶっ殺すだけ。



 ちょうど同じ時間、俺は直面していた。
 玄関を出た、近くの公園。
 そこに、奴はいた。
「……イスカトルじゃない、誰だ!」
 仮面を被った陽炎が、歴史に焼きついた影が、そこに。
「成程、オマエが」
 男は宙に浮き、山の方を見やった。
 山は崩落を繰り返しており、戦いの余波かあちこちで木が揺れている。
「お前も……飢餓、なのか?」
 恐る恐る問いただす。
 イスカトルよりも禍々しい。
 まるでブラックホールの様だ。
 飲み込まれそうになる。
「揺れる均衡、歪む虚空」
「?」
 意味のわからない言葉の羅列。
 意図を掴むまでもなく、彼は身に纏ったローブを靡かせ、地面に降り立った。
「答えろ、よ」
 恐怖で声が震えてる。
 気づけば一歩下がっていた。
「……」
 男は答えない。
 答えず、ただ距離を詰める。
 怖い、逃げ出したい。
「!」
 その時だった。
「ははは! やはりその程度か!」
 豪速で人が飛んできた。
 背中から引きずる様に着地したのは、ボロボロのアストラル。
「なっ」
 数分前の姿とは似ても似つかないほど傷を負っていた。
「アストラル!」
「……ッ」
 胸に手を当て、脈を図る。
(まだ、死んでない)
 だが、彼女は目を瞑ったままだ。
 意識が無い。
「気絶? まさか……」
 やな予感がして、山を見る。
 その瞬間、気づく。
「槍!?」
 鋼色の槍が、神速で飛んできていることに。
 狙いは無論、アストラル。
 だが、どうする?
 俺に力は無い、防ぎようも無い。
 その上、目の前には正体不明の男。
(くそ!)
 諦め切れない、死を受け入れるか!
 受け入れられない。受け入れてたまるか。
!」
 叫んだ。知らない名前を、何者かの思いを。
「──」
 その瞬間、彼は正面に立った。
 俺たちを護るかのように構え、拳を握る。
 無数の傷を宿す剛腕は、
──『ぜつ』」
 呟きと同時に、繰り出された。
 その刹那、



「がぁ!」
 繰り出したはずの私が、ダメージを負った。命力を纏った一撃だ。遠距離攻撃をどうやってカウンターする?
「チッ、まさか!」
 そのまさかだろう。
「この命力、このは!」
 だとすると、タイミングが悪すぎる。
 目的とは言え、よりにもよって今、奴とは。
(だが、何故奴が調律師共の肩を持つ?)
 それが疑問だ。
 奴が態々人を助ける?
 そんな事、一度も聞いた事ない。
 裏切り者は、素顔を見せずただ、立つ。
 敵として。奴は、奴は。
「『永久機関』の一件ぶりだな」
 笑え、笑え。
「三万年探したぞ!」
 手元に回帰した槍を握りしめろ。

「へファイストス!」



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