セフィロト

讃岐うどん

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『黄金卿』編

第五話 だって、キミはさ

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 ──15時。

 こんこん。
「ん?」
 窓が叩かれた。誰だ?
 ベッドから身体を起こし、立ち上がる。
 カーテンを開け、正体を見た。
「アストラル!?」
 前傾姿勢でドンドンと勢いよく窓を叩いていた。
 驚きは束の間、彼女は口パクで何かを伝えている。
「 けて」
「?」
 最初が欠けていたが、取り敢えず窓を開けた。
「ひゃ!?」
「大丈夫か?」
 変な声と共にベッドに着地した彼女は速攻で立ち上がり、俺との距離を詰めた。
「何だよ」
「飢餓だ。それも、かなりヤバい」
「!?」
 飢餓。その単語だけで事の重大さを理解できた。彼女の焦りは尋常では無い。
 イスカトルにも対して動揺していなかった彼女が、死にそうな顔をしていた。
「飢餓は大まかに9ランクのレベルに分けられる。数字が大きくなればなるほど強い」
「う、うん」
 何がいいたいのかサッパリだ。
 でも、碌でも無いのだろう。
「イスカトルは8。9なんて数えるほどしかいないから、実質的な最高ランクだ」
「そんな奴と、闘ったのか!?」
「うん。でも、今回の飢餓は更に上、9」
『危険度最大。国一つ潰せる実力だ』
「はぁ!?」
 補足したエディアは冷静だ。
 いや、冷静では無いのだろう。ただそう見えているだけだ。
「待った。何でそんなのが此処に」
「知るか。私の方が知りたい」
「で、何が言いたいんだ!?」
 本題に入ろう。時間が惜しい。
 そう言われた気がして、耳を澄ます。

「は?」
 衝撃的なことを言われた。
「最低でも隣の県まで行って。それか九州から離れて」
「無理だろ、そんなの……」
「死にたく無いなら逃げろ! それだけ相手が相手なんだ。イスカトル相手じゃない。本気でキミを守りきれない」
「……!」
 歯がゆい。無力だ。仮に残った所で、足手纏いだ。無駄な犠牲にしかならない。
 悔しい。
「奴が動けば、この街の人は皆死ぬ」
「せめて、俺だけでも?」
「うん」
 彼女なりの優しさなのだろう。
 でも、納得いかない。納得したくない。
 嫌だ。嫌だ。嫌だ。
 怖いよ。だって、焔以上なんでしょ?
 死ぬに決まってる。闘いの邪魔にしかならない。
 だったら、従うべき?
 そうだろう。でも、嫌だ。
 逃げたく無い。尻尾巻いて、惨めは嫌だ。
『「骸なる狂気」が発動した。もう、時間は残っていない』
「そういう事だから、じゃあね、秀。これからだってのに、本当に残念だよ」
「待って!」
 言うが早いか、彼女は飛び出して行った。
 1人取り残された。ベッドに座り込む。
 窓の外を見ても、彼女の姿は無かった。
 流石の神速だ。
「クソ」
 自分の無力さを痛感し、壁を打つ。
 ただ、手が痛くなるだけだった。
 影が伸びる。暁が姿を現す。
 うずくまった。
 秀は気づかない。
 1




「神技──『骸なる狂気クルカイ』」
 刹那、槍を地面に突き刺す。
 すると、地面に赤い紋様が浮かび上がり、衝撃波となりて街全体に響いた。


 神技──『骸なる狂気』
 ドーラの神技。発動条件は方陣に槍を突き刺すだけ。
 効果は、
「気分が……」
「眠い」
「気持ち悪い……」
「死にそう」
 範囲内の命力を全て彼女のモノにする。
 問答無用でのデバフ。死神が如き効果だ。
 効果は永遠。中の命力が尽きるまで。
 言い換えれば、使用時点で勝ち確定のインチキだ。


「夜は此処に。終焉は此処に。復讐は此処に。正義は此処に。セルフ・フィーラ」
 槍を振るい、刻を待つ。
 時間内に『骸なる狂気』を破壊しなければ、街は死滅する。
 少しずつ、僅かではあるものの、命力は集まりつつあった。
「来い、調律師。まずは、オマエからだ」
 槍の切先を向け、挑発する。
 神技を発動させた以上、場所は筒抜けだ。
 それで構わない。正面から叩き潰す。
「オマエの使命を狂わせてやる」

 カン!

 神速が彼女に襲いかかる。だが、彼女はそれ以上のスピードで槍を滑り込ませた。
「最悪の飢餓。ここで討つ!」
「漸くお出ましか、調律師」
 弾かれたアストラル。槍を払うドーラ。
 舞台は山。役者は揃った。
「誰かは知らんが、殺す!」
 音は後。
(早い!)
 槍がアストラルを襲ったと同時、先ほどまでドーラがいた地面が抉れた。
 力任せに鉄棒を押し付ける。
 槍の上に乗り、何度も踏みつける。
「こんなものか!」
 地面が抉れ、少しずつ減り込み始めた。
 彼女の筋力は、アストラルの比ではない。
 純粋な肉体戦ならドーラの圧勝だろう。
 その上、命力で筋力を増強させていた。
「ッ! この!」
「お?」
 槍を球体に戻す。同時に足の指先に力を込め、放出した。
 ドーラは勢いそのまま地面を抉り進める。
 10メートル程のクレーターを作り上げ、笑いながら飛び上がり、
「オラ!」
 槍を投げた。
「ッ!」
 腹部に掠り、勢いのまま木々を薙ぎ払う。
 1人でに暴れる槍。肉弾戦を仕掛ける持ち主。
「ははは!」
「……ッ!」
 少女に余裕は無い。
 無限に繰り出される徒手空挺。
 受けは厳禁。いなす以外道は無い。
 一度直撃すれば、連撃を喰らう。
 命力で肉体を強化しているとは言え、ひとたまりも無い。
「……そこ!」
「ブっ」
 針に糸を通す様な神技。僅かな攻撃の隙に渾身の蹴りをお見舞いした。
 ガードせず直撃した。2ぐらいの飢餓ならこれで屠れる。
 それなのに、
「ぺ!」
「ほぼ無傷とか、どうなってるのさ」
「久しぶりに効いたぞ。何百年ぶりだ?」
 彼女は何事もなかったかの様にピンピンしている。
(飢餓特有の再生力。多量の命力の消費を『骸なる狂気』でカバーする。隙が無い)
 そもそも、先ほど蹴りは回復すらされていない。命力切れになるのはこっちだ。
「どうした? 私に一撃入れたのが嬉しいのか?」
「は! お前何かに褒められても、嬉しく無いね!」
 今度はこっちから。
 バチバチと稲妻が迸る。
──クリシュ……が!」
『アストラル!!』
 攻撃より先、腹を抉りは一撃。
 意識が飛ぶ。容赦のない蹴りが胸に入った。
 木々を薙ぎ倒しながら勢いに身を任せる。
(何が、起こった!?)
 意識を取り戻し、現状を確認する。
「左腕が」
 タイミングは気絶した後の一撃だろう。
 無意識でガードしていた。
『まさか、アウトレイジより先に動くか!』
 驚きを隠せないエディアは次手を考えていた。
 だが、
「クリシュナは使わせねぇよ。その前にぶっ殺す」
 それは叶わない。
 ぶっ飛ばしよりも早く、拳を叩き込まれる。
「やり返しだ!」
「ッア!」
 地面に打ち付けられ、巨大なクレーターを掘らされた。
(マズぃ。身体が……)
 命力はまだある。体力もまだある。だけど、戦力差を埋めるには到底届かない。
『旋回!』
 球体はミキサーの刃の様な形となり、回転を始めた。土を抉り、埋める。
 土砂が歪んだ。目隠しには十分だ。
「助かった」
『良い。それよりも早く体力を』
 球体は布団の様な形となり、彼女を覆う。
 これなら、土は被らないし地中だからドーラに見つかるリスクも軽減される。
「させねぇぞ?」
 筈だった。
「『!?」』
(下から!?)
 首を捻り、投擲された槍を躱す。
『がぁ!』
 槍はエディアを貫き、地上に飛び出した。
「休憩は終わりだ!」
 アッパーの形で殴られ、地上に飛び上がる。何とか着地し、敵を睨む。
「思い出したぞ。オマエ、守護者ピルグリムの子だろ」
「……だから、何?」
、こんな雑魚を産みやがったのか。子は強くとも、遺伝子はカスのようだな」
「あ?」
 許さない。父を侮辱した。私を侮辱した。
 許さない。絶対に、何があっても。
 絶対に、殺してやる。
 肉片一つ残さない!
「お、地雷か? は! 言われる方が悪いんだ馬鹿が。雑魚に生きる資格は無い!」
 槍を投げる。
「無駄だ。弱肉強食の世界で、オマエみたいな奴が生き残れるわけない!」
 躱された。ひらりと、当たり前に。
(マズい、マズい。平常心を失っている!)
 球体から伝わる思い。知らない。
『落ち着けアストラル!! ここで行くのは自殺行為だ!』
 エディアが叫んでる。知らない。
「覚悟しろ。何があっても、私はお前を殺す!」
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