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ダボンナ王国独立編 ~リーズ・ナブルの人理《ひとり》立ち~
リーズ・ナブルとお決まりのこと
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ジョナサン=ダボンナ=モリアーテナ。
この国の王族に一人にして次世代の指導者候補。三人いるという兄弟の長男、レティアの姉であるプリシアの婚約者でもある。
この式典にも当然参加することになっていたのだが、何があったのか到着が遅れていたようでこんな場面でのご登場となってしまったわけだが。
「面白そうなことをしてるじゃない」
当のご本人は、何とも楽しそうな顔でこちらを睥睨している。
瞳に浮かぶ感情は、この事態がどんな展開を見せるのかを待ち望んでいるように見える。
どうやらなかなか癖のあるご仁のようだが、俺としてはこのいやーな予感をどうにか覆して欲しいところなんだが。
まあ、そんなことにはならないんだろうな。
彼がこの場に現れて、俺がまずしたことは体を屈ませて身を伏せることだった。リティアも俺の動きに合わせて少し屈んでくれたので彼女を引っ張ることにはならずに済んでいる。
この場で主張したように、今の俺は軍人でもなければここに集う人たちのように貴族でもない。そんな人間が王族の尊顔を直視することは不敬でしかない。
だからというわけではないが、俺たちの行動を皮切りに周りも一斉に礼を正していく。あのダールトンですら例外ではない。
「・・・う~ん、そういうことじゃあないんだけれど」
俺たちの行動はどうにもこの方が望んでいたものではないようで、不満そうなことを口にする王子。
「ダメよジョナサン! 王族のあなたが出てきてしまったら、彼らはこうしなければならないじゃない!」
「だけど、僕は本当にどうなっているのか聞きたいだけなんだよプリシア。この素晴らしい催しに、どうして不穏なことが起きているか。この国の王子として見逃せないね」
一応嗜めているのだろうか、プリシアは組んでいる腕を引き寄せるようにしているが、王子は原因の解明についてまず知りたいようだ。
「ダールトン君。君が口にしていたことについて詳しく聞きたいな」
紅い瞳が騒ぎの原因となっていたダールトンを射抜く。
それに対しダールトンは少し吃りながらも釈明するように言葉を発する。
「お、恐れながら殿下。此度の報償の件について、ラインホード家次女、レティア=ラインホード殿に対するある疑念がございまして」
「ほう? それはなんだい?」
「この者が迅速に行動を起こすことができた理由として、騎士にあるまじき行いをしていたのではないかと」
「ふむ、それは如何様なことだい?」
「はっ。この者、家の権力を傘に着て独断で部隊を動かしております。さらには上位の騎士にのみ伝達されていた情報を盗み聞きしての行動である、と」
先ほどの嘲りとはまた違った理由、おそらくはあらかじめ用意していたであろう台詞を滔々と方っていくダールトン。
それは自分の感情よりも納得されるであろうことを計算に入れた、事実を悪く取られるような言い方での告発であった。
「なるほど。しかしその点については父からすでに通達があるはずだ。功績と相殺してなお、残るような罪ではない、とね」
「陛下のお言葉を考慮しておらぬわけではございません。しかし、結果を出したからこそよかったものの、一歩間違っていれば多くの死者を出していたことは無視してよい問題ではありません」
ダールトンの意図はわかる。
リティアの独断での行動をきちんと罰しなければ、今後のそういったことをする輩が出てくるかもしれない、ということを理由に彼女の功績を無くし、あるいはまた別の要求をする、といったところか。
「・・・確かに、一理ある」
「ジョナサン!」
「プリシア、君の妹だからといって軍規に違反しているのならそれは処罰されてしかるべきだ。そうでなければ今後もそんな蛮勇を奮おうとする者が現れかねない。父の信賞必罰の考えは、僕のものとは少し違う。ルールを守ってこその騎士であるべきだ」
王子殿下はどうやらお厳しい人のようだ。
女性騎士であっても、いやだからこそ規律を求めるのか。
「・・・どうだ、リティア=ラインホード。騎士として己の行いをどう考えている?」
「・・・殿下のお言葉に従うのであれば、確かに私の行いは誉められたものではないでしょう」
「では、認めると?」
「国を思う騎士としての行動が罪であるのなら、謹んでこの身は罰を受けましょう。・・・・・・しかし」
以前の彼女であればこうはいかなかっただろう、毅然とした態度で王子の言葉を受け止め自分の過ちを認める。
そのことにダールトンが薄く笑みを浮かべた気配を感じたが、その後の台詞に疑問気な雰囲気を匂わせる。
そして彼女は顔をあげて、その強い意思を持った瞳を向けて決意を込めて言い放つ。
「---国の危機に何もしなかった者に、言われる筋合いはございません」
それは、たった一言であらゆる方面へ喧嘩を売る所業。
騎士に、軍に、貴族に、軍人に、そして王族に。
ありとあらゆる、あの戦場に関わることの出来なかった者たちへ、彼女は全くの躊躇なく喧嘩を売ったのだ。
(やっっっっっっってくれるぜお嬢様ぁああああ!!!)
この展開は。
この、周囲が息を飲む展開は。
一歩間違えばあの賢王すら敵に回しかねない、この展開、状況は・・・!
「・・・貴様」
「不敬は承知のこと。しかし、命を賭けた戦いに水を差すような無粋は果たして、なんと言えばいいのでしょうか」
そういうことなんだろう。
ここに来たときに言ったことなんだろう?
「私の行いを不純と談じるのなら、私の覚悟についてきた、あの者たちの覚悟もまた不純。そう仰るのであれば、あまりにも狭い考え」
「・・・騎士が規律を守る、その何がおかしい!!」
「その規律で守れないものから、私たちは命懸けで国を守ったのです」
「・・・ならば、示してもらおう」
そういって、王子は引き留めようとするプリシアに構わずこう告げた。
「レティア=ラインホードよ、貴様にダールトン=スペルチナとの決闘を命じる。これから、今すぐにだ!!」
この国の王族に一人にして次世代の指導者候補。三人いるという兄弟の長男、レティアの姉であるプリシアの婚約者でもある。
この式典にも当然参加することになっていたのだが、何があったのか到着が遅れていたようでこんな場面でのご登場となってしまったわけだが。
「面白そうなことをしてるじゃない」
当のご本人は、何とも楽しそうな顔でこちらを睥睨している。
瞳に浮かぶ感情は、この事態がどんな展開を見せるのかを待ち望んでいるように見える。
どうやらなかなか癖のあるご仁のようだが、俺としてはこのいやーな予感をどうにか覆して欲しいところなんだが。
まあ、そんなことにはならないんだろうな。
彼がこの場に現れて、俺がまずしたことは体を屈ませて身を伏せることだった。リティアも俺の動きに合わせて少し屈んでくれたので彼女を引っ張ることにはならずに済んでいる。
この場で主張したように、今の俺は軍人でもなければここに集う人たちのように貴族でもない。そんな人間が王族の尊顔を直視することは不敬でしかない。
だからというわけではないが、俺たちの行動を皮切りに周りも一斉に礼を正していく。あのダールトンですら例外ではない。
「・・・う~ん、そういうことじゃあないんだけれど」
俺たちの行動はどうにもこの方が望んでいたものではないようで、不満そうなことを口にする王子。
「ダメよジョナサン! 王族のあなたが出てきてしまったら、彼らはこうしなければならないじゃない!」
「だけど、僕は本当にどうなっているのか聞きたいだけなんだよプリシア。この素晴らしい催しに、どうして不穏なことが起きているか。この国の王子として見逃せないね」
一応嗜めているのだろうか、プリシアは組んでいる腕を引き寄せるようにしているが、王子は原因の解明についてまず知りたいようだ。
「ダールトン君。君が口にしていたことについて詳しく聞きたいな」
紅い瞳が騒ぎの原因となっていたダールトンを射抜く。
それに対しダールトンは少し吃りながらも釈明するように言葉を発する。
「お、恐れながら殿下。此度の報償の件について、ラインホード家次女、レティア=ラインホード殿に対するある疑念がございまして」
「ほう? それはなんだい?」
「この者が迅速に行動を起こすことができた理由として、騎士にあるまじき行いをしていたのではないかと」
「ふむ、それは如何様なことだい?」
「はっ。この者、家の権力を傘に着て独断で部隊を動かしております。さらには上位の騎士にのみ伝達されていた情報を盗み聞きしての行動である、と」
先ほどの嘲りとはまた違った理由、おそらくはあらかじめ用意していたであろう台詞を滔々と方っていくダールトン。
それは自分の感情よりも納得されるであろうことを計算に入れた、事実を悪く取られるような言い方での告発であった。
「なるほど。しかしその点については父からすでに通達があるはずだ。功績と相殺してなお、残るような罪ではない、とね」
「陛下のお言葉を考慮しておらぬわけではございません。しかし、結果を出したからこそよかったものの、一歩間違っていれば多くの死者を出していたことは無視してよい問題ではありません」
ダールトンの意図はわかる。
リティアの独断での行動をきちんと罰しなければ、今後のそういったことをする輩が出てくるかもしれない、ということを理由に彼女の功績を無くし、あるいはまた別の要求をする、といったところか。
「・・・確かに、一理ある」
「ジョナサン!」
「プリシア、君の妹だからといって軍規に違反しているのならそれは処罰されてしかるべきだ。そうでなければ今後もそんな蛮勇を奮おうとする者が現れかねない。父の信賞必罰の考えは、僕のものとは少し違う。ルールを守ってこその騎士であるべきだ」
王子殿下はどうやらお厳しい人のようだ。
女性騎士であっても、いやだからこそ規律を求めるのか。
「・・・どうだ、リティア=ラインホード。騎士として己の行いをどう考えている?」
「・・・殿下のお言葉に従うのであれば、確かに私の行いは誉められたものではないでしょう」
「では、認めると?」
「国を思う騎士としての行動が罪であるのなら、謹んでこの身は罰を受けましょう。・・・・・・しかし」
以前の彼女であればこうはいかなかっただろう、毅然とした態度で王子の言葉を受け止め自分の過ちを認める。
そのことにダールトンが薄く笑みを浮かべた気配を感じたが、その後の台詞に疑問気な雰囲気を匂わせる。
そして彼女は顔をあげて、その強い意思を持った瞳を向けて決意を込めて言い放つ。
「---国の危機に何もしなかった者に、言われる筋合いはございません」
それは、たった一言であらゆる方面へ喧嘩を売る所業。
騎士に、軍に、貴族に、軍人に、そして王族に。
ありとあらゆる、あの戦場に関わることの出来なかった者たちへ、彼女は全くの躊躇なく喧嘩を売ったのだ。
(やっっっっっっってくれるぜお嬢様ぁああああ!!!)
この展開は。
この、周囲が息を飲む展開は。
一歩間違えばあの賢王すら敵に回しかねない、この展開、状況は・・・!
「・・・貴様」
「不敬は承知のこと。しかし、命を賭けた戦いに水を差すような無粋は果たして、なんと言えばいいのでしょうか」
そういうことなんだろう。
ここに来たときに言ったことなんだろう?
「私の行いを不純と談じるのなら、私の覚悟についてきた、あの者たちの覚悟もまた不純。そう仰るのであれば、あまりにも狭い考え」
「・・・騎士が規律を守る、その何がおかしい!!」
「その規律で守れないものから、私たちは命懸けで国を守ったのです」
「・・・ならば、示してもらおう」
そういって、王子は引き留めようとするプリシアに構わずこう告げた。
「レティア=ラインホードよ、貴様にダールトン=スペルチナとの決闘を命じる。これから、今すぐにだ!!」
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