6 / 109
ダボンナ王国独立編 ~リーズ・ナブルの人理《ひとり》立ち~
リーズ・ナブルは冒険者になりに行く
しおりを挟む
剣と魔法の世界において、切っても切れない存在というやつがある。大抵は空想の存在をあげるだろうが、これもまた人の性が産み出した必然の存在だろう。
喧騒でごった返すそこは、意外にも小綺麗なところであった。
冒険者ギルド。
そこは夢を餌に労働力を得る、実に合理的な夢のない場所である。
まともな学があるなら軍にいく。その選択ができない奴らで腕っぷしに自信のある奴が選ぶのは大体三つ。
山賊。
傭兵。
そして冒険者だ。
山賊は言わずもがな、なるのは簡単だからな。その後は俺たちの飯の種になるのだが。ここでは野暮というやつだろう。
傭兵はだいたい人相手の職業だ。覚悟が決まってないやつには荷が重いだろう。
冒険者はこの三つの中でも比較的簡単になれるし、何より仕事を自分で選べるのがいい。切った張ったが嫌いなら、そうでない依頼を受ければいいしな。
そういったところから、毎年冒険者になる奴らは多く、そして死ぬ奴も多い。素人が魔物と戦闘をして生き残れるのは本当に幸運なことなのだ。
それを理解せずに、死んでいくのを何度か見たことがあるのだが、それでもこの職業に就くのにはメリットがある。
大きくは身分の証明だ。
平民だろうと公平に、ランクを与えられた者の身分をギルドが保証してくれる。何故そんなことができるかというと、ギルドが国に利益をもたらす存在だからだ。
技術のない連中を育てる費用を節約し、例えその二三割しか生き残れなくとも魔物を倒すことができれば、国にとってこれほど嬉しいことはないからな。
あらゆる組織に中立という立場にあるギルドで身分を保証することを条件に、ギルドはその存在を国に認められている。
俺もそれを目当てにして、今からここに突入するのだ。
夜という時間帯のせいか、人の出入りは少ない。
光が照らす室内が見えるような、酒場のような形の扉を押し開けて中に入る。
途端に集まる視線。
ならず者特有の暗い視線だ。値踏みするようなそれを全身に受けながら、受け付けであろうところに向かっていく。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用でしょうか」
この雰囲気に慣れているのだろう。受付嬢は何も感じていないかのような態度でこちらの用件を伺ってくる。
「リーズ・ナブルという。冒険者となりにここにきた、登録をしてもらいたい」
こちらもまあまあ修羅場を潜ってきたのだ。ちょっとやそっとの脅しの視線に動じるような精神はしていない。
「冒険者登録ですね。それではこちらに必要事項を記入していただいてもよろしいでしょうか」
そういって受付嬢が差し出してきた用紙には名前やら年齢やらを書く欄がいくつかあった。
同時に受け取っていたペンを使って次々に欄を埋めていき、五分と掛からずに記入用紙を完成させた。
「頼む」
「はい・・・えーと、リーズ・ナブルさん。あ、お年は二十二なんですね」
「ああ、よく若造に見られるが成人は越えてる」
母の血が濃いのだろう。年はとるのだが老けないというより成長しないのだ。そのくせ身長はそれなりに高い。こちらは親父の血なのだろう。
「それとこれを」
「・・・これは」
軍からの二枚の推薦状を見せてやると、彼女は上司に確認に取りに奥に向かった。そこまで見ることのない書類だから、本物かどうかを確認してもらいにいったのだろう。
少し時間を置いて、彼女は上司だろう男性を連れて戻ってきた。
モノクルを左目に掛けたナイスミドルである。
「申し訳ない、久しぶりに見る書類だったので少し時間がかかってしまった。私は副ギルド長のホスキンスだ」
「リーズと申します」
「うむ。さて、この書類だが確かめたところ本物だった。疑っているわけではないのだが、推薦などここのところなかったものでね」
「いえ、当然のことかと」
仕事のできるいい上司だ。好感を持てる。
「それではギルドの規約のによって、君のランクを最下位の銅から二ランク上の魔鉄ランクに認定する。これは副ギルド長ホスキンスの名において、正式な認定であることをここに宣言するものである。ようこそ冒険者ギルドへ」
「お世話になります」
短い間だろうが、礼節には礼節をもって返すのがマナーというものだ。
「書類を返そう。そしてこれが君のランクプレートだ。大事にしたまえ」
総隊長たちの書類に加えて、ホスキンスから鎖の付いた細長い魔鉄性のプレートを渡される。ちなみに魔鉄とは魔力を含む鉱物の総称で、一番魔力の含有量が少ないものを基本的に魔鉄と呼ぶ。つまりは銅や鉄よりかは使える、ということである。
自分の名前が掘られたそれを首から下げようとしたとき、俺の背後からそいつは怒鳴るような声をあげてきた。
「---なんだよ新人じゃねぇか!!! 先輩に挨拶してもらおうじゃないの!!!」
ギルドの扉を豪快に開いて登場したのは見るからに脳筋に見える、マッシブな巨漢であった。
明らかに面倒事であるとわかるその存在に、折角のいい気分を邪魔された俺は、これからの展開がわかるのもあり、急激にやる気をなくしていくのであった。
喧騒でごった返すそこは、意外にも小綺麗なところであった。
冒険者ギルド。
そこは夢を餌に労働力を得る、実に合理的な夢のない場所である。
まともな学があるなら軍にいく。その選択ができない奴らで腕っぷしに自信のある奴が選ぶのは大体三つ。
山賊。
傭兵。
そして冒険者だ。
山賊は言わずもがな、なるのは簡単だからな。その後は俺たちの飯の種になるのだが。ここでは野暮というやつだろう。
傭兵はだいたい人相手の職業だ。覚悟が決まってないやつには荷が重いだろう。
冒険者はこの三つの中でも比較的簡単になれるし、何より仕事を自分で選べるのがいい。切った張ったが嫌いなら、そうでない依頼を受ければいいしな。
そういったところから、毎年冒険者になる奴らは多く、そして死ぬ奴も多い。素人が魔物と戦闘をして生き残れるのは本当に幸運なことなのだ。
それを理解せずに、死んでいくのを何度か見たことがあるのだが、それでもこの職業に就くのにはメリットがある。
大きくは身分の証明だ。
平民だろうと公平に、ランクを与えられた者の身分をギルドが保証してくれる。何故そんなことができるかというと、ギルドが国に利益をもたらす存在だからだ。
技術のない連中を育てる費用を節約し、例えその二三割しか生き残れなくとも魔物を倒すことができれば、国にとってこれほど嬉しいことはないからな。
あらゆる組織に中立という立場にあるギルドで身分を保証することを条件に、ギルドはその存在を国に認められている。
俺もそれを目当てにして、今からここに突入するのだ。
夜という時間帯のせいか、人の出入りは少ない。
光が照らす室内が見えるような、酒場のような形の扉を押し開けて中に入る。
途端に集まる視線。
ならず者特有の暗い視線だ。値踏みするようなそれを全身に受けながら、受け付けであろうところに向かっていく。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用でしょうか」
この雰囲気に慣れているのだろう。受付嬢は何も感じていないかのような態度でこちらの用件を伺ってくる。
「リーズ・ナブルという。冒険者となりにここにきた、登録をしてもらいたい」
こちらもまあまあ修羅場を潜ってきたのだ。ちょっとやそっとの脅しの視線に動じるような精神はしていない。
「冒険者登録ですね。それではこちらに必要事項を記入していただいてもよろしいでしょうか」
そういって受付嬢が差し出してきた用紙には名前やら年齢やらを書く欄がいくつかあった。
同時に受け取っていたペンを使って次々に欄を埋めていき、五分と掛からずに記入用紙を完成させた。
「頼む」
「はい・・・えーと、リーズ・ナブルさん。あ、お年は二十二なんですね」
「ああ、よく若造に見られるが成人は越えてる」
母の血が濃いのだろう。年はとるのだが老けないというより成長しないのだ。そのくせ身長はそれなりに高い。こちらは親父の血なのだろう。
「それとこれを」
「・・・これは」
軍からの二枚の推薦状を見せてやると、彼女は上司に確認に取りに奥に向かった。そこまで見ることのない書類だから、本物かどうかを確認してもらいにいったのだろう。
少し時間を置いて、彼女は上司だろう男性を連れて戻ってきた。
モノクルを左目に掛けたナイスミドルである。
「申し訳ない、久しぶりに見る書類だったので少し時間がかかってしまった。私は副ギルド長のホスキンスだ」
「リーズと申します」
「うむ。さて、この書類だが確かめたところ本物だった。疑っているわけではないのだが、推薦などここのところなかったものでね」
「いえ、当然のことかと」
仕事のできるいい上司だ。好感を持てる。
「それではギルドの規約のによって、君のランクを最下位の銅から二ランク上の魔鉄ランクに認定する。これは副ギルド長ホスキンスの名において、正式な認定であることをここに宣言するものである。ようこそ冒険者ギルドへ」
「お世話になります」
短い間だろうが、礼節には礼節をもって返すのがマナーというものだ。
「書類を返そう。そしてこれが君のランクプレートだ。大事にしたまえ」
総隊長たちの書類に加えて、ホスキンスから鎖の付いた細長い魔鉄性のプレートを渡される。ちなみに魔鉄とは魔力を含む鉱物の総称で、一番魔力の含有量が少ないものを基本的に魔鉄と呼ぶ。つまりは銅や鉄よりかは使える、ということである。
自分の名前が掘られたそれを首から下げようとしたとき、俺の背後からそいつは怒鳴るような声をあげてきた。
「---なんだよ新人じゃねぇか!!! 先輩に挨拶してもらおうじゃないの!!!」
ギルドの扉を豪快に開いて登場したのは見るからに脳筋に見える、マッシブな巨漢であった。
明らかに面倒事であるとわかるその存在に、折角のいい気分を邪魔された俺は、これからの展開がわかるのもあり、急激にやる気をなくしていくのであった。
0
お気に入りに追加
106
あなたにおすすめの小説
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……
Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。
優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。
そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。
しかしこの時は誰も予想していなかった。
この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを……
アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを……
※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。
【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい
斑目 ごたく
ファンタジー
「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。
さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。
失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。
彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。
そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。
彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。
そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。
やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。
これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。
火・木・土曜日20:10、定期更新中。
この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる