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ダボンナ王国独立編 ~リーズ・ナブルの人理《ひとり》立ち~

リーズ・ナブルは冒険者になりに行く

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 剣と魔法の世界において、切っても切れない存在というやつがある。大抵は空想の存在をあげるだろうが、これもまた人の性が産み出した必然の存在だろう。
 
 喧騒でごった返すそこは、意外にも小綺麗なところであった。
 冒険者ギルド。
 そこは夢を餌に労働力を得る、実に合理的な夢のない場所である。
 
 まともな学があるなら軍にいく。その選択ができない奴らで腕っぷしに自信のある奴が選ぶのは大体三つ。
 山賊。
 傭兵。
 そして冒険者だ。
 
 山賊は言わずもがな、なるのは簡単だからな。その後は俺たちの飯の種になるのだが。ここでは野暮というやつだろう。
 傭兵はだいたい人相手の職業だ。覚悟が決まってないやつには荷が重いだろう。
 冒険者はこの三つの中でも比較的簡単になれるし、何より仕事を自分で選べるのがいい。切った張ったが嫌いなら、そうでない依頼を受ければいいしな。
 
 そういったところから、毎年冒険者になる奴らは多く、そして死ぬ奴も多い。素人が魔物と戦闘をして生き残れるのは本当に幸運なことなのだ。
 それを理解せずに、死んでいくのを何度か見たことがあるのだが、それでもこの職業に就くのにはメリットがある。
 
 大きくは身分の証明だ。
 平民だろうと公平に、ランクを与えられた者の身分をギルドが保証してくれる。何故そんなことができるかというと、ギルドが国に利益をもたらす存在だからだ。
 技術のない連中を育てる費用を節約し、例えその二三割しか生き残れなくとも魔物を倒すことができれば、国にとってこれほど嬉しいことはないからな。
 あらゆる組織に中立という立場にあるギルドで身分を保証することを条件に、ギルドはその存在を国に認められている。
 俺もそれを目当てにして、今からここに突入するのだ。
 
 夜という時間帯のせいか、人の出入りは少ない。
 光が照らす室内が見えるような、酒場のような形の扉を押し開けて中に入る。
 途端に集まる視線。
 ならず者特有の暗い視線だ。値踏みするようなそれを全身に受けながら、受け付けであろうところに向かっていく。
 
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用でしょうか」
 
 この雰囲気に慣れているのだろう。受付嬢は何も感じていないかのような態度でこちらの用件を伺ってくる。
 
「リーズ・ナブルという。冒険者となりにここにきた、登録をしてもらいたい」
 
 こちらもまあまあ修羅場を潜ってきたのだ。ちょっとやそっとの脅しの視線に動じるような精神はしていない。
 
「冒険者登録ですね。それではこちらに必要事項を記入していただいてもよろしいでしょうか」
 
 そういって受付嬢が差し出してきた用紙には名前やら年齢やらを書く欄がいくつかあった。
 同時に受け取っていたペンを使って次々に欄を埋めていき、五分と掛からずに記入用紙を完成させた。
 
「頼む」
「はい・・・えーと、リーズ・ナブルさん。あ、お年は二十二なんですね」
「ああ、よく若造に見られるが成人は越えてる」
 
 母の血が濃いのだろう。年はとるのだが老けないというより成長しないのだ。そのくせ身長はそれなりに高い。こちらは親父の血なのだろう。
 
「それとこれを」
「・・・これは」
 
 軍からの二枚の推薦状を見せてやると、彼女は上司に確認に取りに奥に向かった。そこまで見ることのない書類だから、本物かどうかを確認してもらいにいったのだろう。
 少し時間を置いて、彼女は上司だろう男性を連れて戻ってきた。
 モノクルを左目に掛けたナイスミドルである。
 
「申し訳ない、久しぶりに見る書類だったので少し時間がかかってしまった。私は副ギルド長のホスキンスだ」
「リーズと申します」
「うむ。さて、この書類だが確かめたところ本物だった。疑っているわけではないのだが、推薦などここのところなかったものでね」
「いえ、当然のことかと」
 
 仕事のできるいい上司だ。好感を持てる。
 
「それではギルドの規約のによって、君のランクを最下位の銅から二ランク上の魔鉄ランクに認定する。これは副ギルド長ホスキンスの名において、正式な認定であることをここに宣言するものである。ようこそ冒険者ギルドへ」
「お世話になります」
 
 短い間だろうが、礼節には礼節をもって返すのがマナーというものだ。
 
「書類を返そう。そしてこれが君のランクプレートだ。大事にしたまえ」
 
 総隊長たちの書類に加えて、ホスキンスから鎖の付いた細長い魔鉄性のプレートを渡される。ちなみに魔鉄とは魔力を含む鉱物の総称で、一番魔力の含有量が少ないものを基本的に魔鉄と呼ぶ。つまりは銅や鉄よりかは使える、ということである。
 自分の名前が掘られたそれを首から下げようとしたとき、俺の背後からそいつは怒鳴るような声をあげてきた。
 
 
 
「---なんだよ新人じゃねぇか!!! 先輩に挨拶してもらおうじゃないの!!!」
 
 
 ギルドの扉を豪快に開いて登場したのは見るからに脳筋に見える、マッシブな巨漢であった。
 明らかに面倒事であるとわかるその存在に、折角のいい気分を邪魔された俺は、これからの展開がわかるのもあり、急激にやる気をなくしていくのであった。
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