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第二章 腐れ剣客、異世界の街に推参

たかが茶番と侮るなかれ、乗せた人波流れはどこに

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 店の入り口を破り現れたレベッカ。
 背後から続々と入ってくるのは各々個性的な装備に身を包んだ灯士たち。炎上によって危険地帯となった店の様子を皆一様に厳めしい顔をして見ている。

「三班に分かれて二班は消火と取り残された者の救出に!
 残りの一班は私と共に下手人を取り押さえる!
 いくぞ!」

『『『おお!!!』』』

 レベッカが飛ばす指示に従い散らばる灯士たち。
 それの声を上の階で聞いていた鴎垓たちは彼らの出現によって自分達の計画を次に段階に移す時がきたのだと察し、顔を向かい合わせ頷き合う。

「遂に来ちゃったか……頼むから上手くやってよね」

「任せろ、こう見えて演技は剣術の次に得意なものじゃ」

 そうして鴎垓は両手の火炎瓶をナターシャに手渡すと、気絶した猿面の男を抱え上げる。そして二人はある場所を目指し走り始める。
 今まで適当に投げているように見えていた火炎瓶なのだが、実のところ店員などが逃げられるように考えて炎上させていた。
 そのため階段のような逃走経路になるようなものの近くには火の手がそこまで迫っているわけではないのだ。

 言うなれば炎を使った目印。
 通れる場所を辿っていけば自然と目的の場所に行けるように出来ている。
 しかしそうすると当然、行きやすい道行きやすい道を選んでやってくる連中がいる。
 二人が角を曲がろうとした――まさにその時。
 周りを警戒しながら救助者を探す素振りの三人組の灯士がすぐ先に現れたのだ。

「――っいたぞ! あいつらだ!!」

 その内の一人が声をあげ、すぐさま戦闘体勢に入る。

「一人は手負いだぞ! やるか!!」

「いや、相手は凶悪犯だ! ここは万全を期す、レベッカさんたちの本隊を呼んでくるぞ!!」

「それなら時間稼ぎは任せろ!」

「俺もやってやるぜ!!」

 標的発見の報せに走る仲間をフォローしようと前に出てくる二人。
 腰の剣に手を掛け引き抜こうとするがしかし、その判断は僅かに遅い。

「背に乗れ、跳ぶぞ」

「了解!」

 鴎垓に言葉に応答し素早く背中に乗り込むナターシャ。
 そして発動するは軽身功『一反木綿』。
 重心移動の妙技によって三人分の重さを消した彼は斜めに跳躍壁を蹴り、二人の頭上をジグザグに進んでいく。
 驚きを露に動きを鈍らす三人組。
 その間に報せに走ろうとした男も越え、一足先に一階への階段へと辿り着く。

 そして勢いそのまま、まるで鞠かボールかというように階段の壁を蹴って下へと降りていく鴎垓。
 階段を使わずに階段を降りる。
 これが一番速い。

「ふむ、意外に動きが早いな。
 これは急がねば先を越されてしまうやもしれん」

「……いや、もう何も言えないわ」

 ギルド勢力の進行速度が予想の上を行っている。
 このままだと想定していた展開から外れてしまう恐れが出てきてしまったが、はてさてどうするか。
 鴎垓がそんなことを考えている裏で、ナターシャはもう色々とついて行けていない。

 今の動き、何でもないことのようにやってのけたが大分おかしいということは彼女にだって分かる。
 やけに自然に言うものだからつい言われた通りに背中に乗ってしまったが、まさかこんな曲芸じみたことをしてみせるなど思ってもみなかった。
 今だってそう。
 いくらナターシャが子供だとはいえそこそこの重さ。
 それにもう一人を抱えてあまつさえ飛び回る。
 道具などを使う動作もなかった。
 つまりはこの男はその身一つで――あそこまでの芸当をやらかしたのだ。



 その考えに至ったとき――では何故牢屋などにいたのかという疑問が頭に浮かんでくる。
 ここまで行動を共にしてきて簡単に負けるような奴とは到底思えない。それなら敵がそれほどまでに強かったということなのだろうか。
 じわりと胸中に広がる不安。
 このままで本当に、クレーリアを助けることができるのか。
 何故ならこの先に立ちふさがる敵は……一度負けた相手だ。
 不安も手伝ってか、どうやって勝つつもりなのか無性に知りたくなる。 

 しかし彼女がその疑問を口にする前に、軽快に移動していたはずの鴎垓の動きがピタリと止まった。
 思わず思考が途切れるナターシャ。
 一体何がと前を見れば、そこにはある意味では待っていたとも言える人物の姿、目的の場所へ続くその前の立ち塞がったのは――


「待て……その姿、あいつらと同じ……そうか、お前たちが放火犯か!」


 ――そう、レベッカとその取り巻きである。

「テメェらが……っ!!!
 孤児院にカチコミ掛けるだけに飽きたらずこんなことまでやりやがって! 許しちゃおけねぇ!!!」

「逃げられると思うなよ! この建物は完全に包囲されている!!」

「無関係な連中まで巻き込みやがって! これからどんな目に会うかわかってるんだろな!!」

 出てくるのなら一階だと山でも張っていたのだろう。
 思惑通りに出てきた不審者たちに対し好き勝手にやいのやいのと声を浴びせる取り巻きたち。
 レベッカは冷静に手を剣の柄に置き、いつでも抜き放てるように身構えている。
 ようやく再開できた二人。
 しかしそれに対し、鴎垓が取った行動は――




「――うるせぇぞクソが!!!」



 ――まさかの小悪党演技チンピラロール
 まるでそれらを消し飛ばすかのような大声が、鴎垓の口から放たれる。
 あまりの怒声に思わず黙り込む取り巻きの男たち。
 口調を荒くし、別人かのように振る舞うのはわざと。
 だがしかし、これもまた計画の一部に他ならない。
 何ならその服装もこのためといってもいい。

「うだうだと無駄口叩いてんじゃねぇお前ぶっ飛ばすぞおい!
 こっちはそこの女とその連れに仲間やられて胸糞悪ぃんだよ!
 簡単な仕事のはずだったのにちくしょう……しかも雇い主の野郎、やられたあいつらのことを見捨てやがったんだぞ!
 確かに俺たちゃ裏の人間だが、それでも苦楽を共にしてきた仲間だ! それをまるで使い捨ての雑兵みたいに扱いやがって……ふざけんじゃねぇ……!!!
 だからこうして盛大に燃やしてやったんだ、俺の怒りを思い知らせてやりたかったんだよ!
 これで全っ部台無しだ、あの野郎ざまぁみやがれってんだ!!!」

 大仰な身ぶり手振り。
 怒濤と溢れ出す言葉。
 最早この男の一人舞台。
 誰も口を開けずただ聞かされるままに、鴎垓の演技に飲まれていく。

「直にここは燃え尽きる!
 生き残りを救いたきゃ精々頑張るこった!
 その隙に俺たちはおさらばさせてもらうぜ!」

「待て! 拐った人たちはどこにいる!
 彼女は、クレーリアは無事なのか!」

 言うだけいって。
 やるだけやった。
 後は知らんという態度を見せつける鴎垓。
 こんなところにいられるか!と背中を向ける彼に対し、レベッカが言い縋るようにクレーリアの居場所を問いかける。

「そんなこと俺が知るか!
 あの女のためにいくら犠牲を払ったと思っていやがる!
 あんなのに関わったばっかりに皆が、隊長だってこの有り様だ……っ! ちくしょうなんだってこんなことに……!」

 それに後悔するかのような演技で項垂れてみせる鴎垓。

「とにかく俺はもう、どうだっていいんだ全部!
 他のことなんて知らねぇ、やってらんねぇんだよ!
 あとはお前らが好きにすりゃいい、何をやろうがそっちの勝手だ!
 だからもう――俺達に構うんじゃねぇ!!!」

 鴎垓がそう言いきった、それを期に背中にいたナターシャが再び着火させた火炎瓶を投げ放つ。
 勢いよく燃え上がる炎。
 それはタイミングよく上からやってきたさっきの三人組の合流を阻み、レベッカたちが追い縋ろうとするのを足止めする。

「くっ、小癪な! 追うぞお前たち!!」

「「「おお!!!」」」

 少し怯んだもののそこは灯士と言うべきか。
 道を阻む炎の壁も何のその。
 一足飛びで乗り越え先を行く鴎垓たちを追いかける。



 ――そしてレベッカたちは不審者たちが地下へと続く隠し扉へと消えていくのを追いかけ。
 そしてそこで驚くべき光景を目にするのだった。
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