腐れ剣客、異世界奇行

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第二章 腐れ剣客、異世界の街に推参

腐れ剣客、荷馬車の上の対決

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「そのまま走り続けろ」

「は、はい……!」

 幌の下から鴎垓を攻撃してきた敵の頭――他の連中が顔の全体を覆うような簡素な仮面をつけているのに対し、顔の上半分だけを猿のような仮面で隠していた。
 そいつは御者にそう指示をすると、幌の横を切り裂いて自らも外に出てきては身軽な動きで上に登り、鴎垓へと対峙する。

 下からの攻撃を避けるために大きく御者から離されしまった。
 何なら後ろの入り口の方が近い。
 何とも面倒な――そう思いつつも無視できない圧を発する相手の登場に喜びを隠せない鴎垓。
 それは敵の頭も同じなのか、喜色を表すようにその口角をあげている。

「中々やるな貴様、まさかあそこから追い付くとは思わなかったぞ」

「だったらそれに免じて中のご仁を返してくれるとありがたいんじゃが」

「ふん……それはできん相談だ」

「だろうな」

 そうしてお互いに軽口を叩きあった二人。
 しかしそれもここまで。
 ぴたりと口をつぐみ、それぞれがゆっくりとした動作で戦いの準備を始める。
 鴎垓は深く腰を落とし両手で中段に、敵の頭はすくりと直立し片手で横向きに剣を構えた。

 彼らは暫く無言のまま視線を交わし、荷馬車が石か何かを跳ねた音を期に――戦いは唐突に始まった。



「はっ!」

 先手は敵の頭。
 自由な片手が袖口から抜き放つは細長く黒い棒手裏剣のようなもの。
 視認性が悪く、風上の利を活かした恐るべき速さで鴎垓へと襲いかかる。

「……っ」

 だがその軌道は直線。
 禅法”立禅”――加速した思考を持つこの男にとって見切るは容易い。
 僅かな動作でそれを下に叩き落とし、小さな穴を開け棒手裏剣は幌の中へと消えてく。

「ふっ、はあ!!」

 次は同時に二本、時間差でもう一本。
 目的は牽制か。
 走り出す敵の姿を認識しながら先の日本を一太刀で迎撃し、時間差の一本を巧みな剣捌きで上に弾き、素早く体を回転させ敵に向け空中で蹴り飛ばす。

「そらっ!」

「くっ!?」

 体の中心を狙ったその一撃。
 足場の悪いところでは流石に避けずらかったのか、足を止めて剣の腹でそれを弾く。
 その隙を逃さず接近する鴎垓。
 間合いに入る。

「――たぁ!」

「――はぁ!」

 すぐさまに体勢を立て直し鴎垓へと剣を上から叩きつける敵。
 鴎垓が構えた剣へと自身の剣が触れた瞬間――奇妙な感覚と共に軌道が横に流される。

「何――!?」

「剣法影打――『白狼天狗』」

 それは鴎垓の受け流し技――『毛皮流し』によるもの。
 レベッカたちから見て学んだ”操剣法”というものに自らの技術体系とを混ぜ合わせ、更には禅法”寝禅”の精神世界による日頃の鍛練も伴ったことで今では長剣という、本来の得物とは違う武器でもそこそこの戦いが出来るようになってきた。
 そこにきて久々の実戦。
 まるでその成果を試すように、反撃へと移る鴎垓。


「――『落下一葉』」


 風に揺られ舞い落ちる木の葉――ひらりひらりと翻り、いつしかすとんと地面に落ちる。
 その情景を表すかのように、手の中で自在に動く剣は相手の目を惑わし、本命の刃を悟らせない。
 敵の頭はその術中に嵌まり、どれが本当の攻撃か分からず混乱する。先程あまりにも自然に攻撃をずらされたことも重なり、またあれをされては堪らないと迂闊に手を出すことが出来ない。

 その迷いは動きに現れ、鴎垓の剣を追い動き回る視線とは裏腹に全身は硬直し、戦いにおいて致命的な隙を晒した。

「足払い――『すねこすり』」

「うお――!?」

 剣に集中するあまりそれ以外への注意が散漫になっていた敵の頭は鴎垓の足払いをまんまと食らい、荷馬車の上で大きく体勢を崩す。
 本来であればその程度どうということはないが、場所が幌の上というしっかりとした足場でないことが災いし踏ん張りが利かず空中へと投げ出される。

 このまま落下するか――その思われたが敵もさる者

 瞬時に判断し、腰の辺りから先端に重りのついた縄を取り出したかと思えば僅かな動作によってそれを投げ放ち鴎垓の腕を縛り付ける。

「うおっ!」

「くっ……!」

 腕に加わる人一人の重さは急に支えきれるものではなく、幌の上倒れたで鴎垓は反対の腕で幌に剣を突き刺すことで下に落ちそうになる体をどうにか支える。

 共に引き摺り落としてやろうとしていた敵の頭は予想外に粘った鴎垓のその行動によって荷馬車の車輪へと叩きつけられそうになり危うく回転に巻き込まれるを地面を蹴って何とか脱する。

 更にはその勢いを利用し再び幌の上に舞い戻った敵の頭。
 だがその腕には予定していなかった行動によって自分で出した縄が複雑に巻き付いている。
 その先には同じく縄によって腕を拘束された鴎垓。
 奇しくも互いが右腕の自由を失うというこの展開。
 自然と視線が交差する。

「なあ、どうにかならんかこれ?」

 縄が巻き付く腕を上げふりふりと振ってみせる鴎垓。
 図らずも敵の頭を支えた影響かミミズ腫れのように赤くなっている。腕の痛みからおそらく筋や間接も痛めていることだろう。
 しかし鴎垓は冷や汗を一筋流すだけで弱味を見せない。

「生憎普通の刃物では切れんような素材で出来ている。
 その剣では文字通り歯がたたんだろうな」

 そして敵の頭の方も車輪に巻き込まれかけた際の無茶な動きが原因で拘束された方の腕の間接が悲鳴を上げ、更には地面を蹴った際に足を挫いている。
 だが彼もまたじくじくとする痛みを仮面の奥に隠し、あくまで平静を装っていた。



 互いに負傷を隠しながら戦いはまだ続く――
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