腐れ剣客、異世界奇行

アゲインスト

文字の大きさ
上 下
55 / 72
第二章 腐れ剣客、異世界の街に推参

繋がる点と点、腐れ剣客商会の裏に迫る

しおりを挟む

「――てぇわけだ」

 イワンが机の上に広げた資料を囲む鴎外たち。
 数十枚という紙に記された内容は鴎外たちの思考を読むやり方と比べ若干曖昧なところはあるが、それでもその量は凄まじい。
 いつ、どういう理由で借金をしたか、最近どれくらいの金額を返し、その時どんな会話をしたかなどが人物ごとに細かに記載されている。

 目の見えないクレーリアにはレベッカが傍につき、内容を読み聞かせている。
 鴎外も文字は読めないのでそっちの情報は彼女たちに任せ、代わりにイワンからの話を聞くことにした。
 どうやってここまでの数を集めることができたのか、単純に気になる。

「ふぅむ、やるではないかイワン。
 この短い時間でここまで情報を集めるとはな」

「誰かさんのせいで有名人なんでな、酒飲んでるところに滑り込みゃ何でも喋るってもんだ」

 それを聞いてなるほど、と納得する鴎外。
 失態をそのままにせず活用するところは実に逞しい。
 成り行きで選んだ協力者だったが、存外当たりを引いたのかもしれないと内心でほくそ笑む。

 その間にも高速で資料に目を通していたレベッカから声が掛けられる。ある程度まで読み進めて何か得るものでもあったのかと思った鴎外だったが、しかし彼女の表情はあまり芳しくない。

「だが、それでも核心に迫るものは何もないというのがな……あと三十人ほどに絞れたいえば聞こえはいいんだが」

「まあこの手のやつは大概そういうもんさ。
 ああ、それでなんだけどよ、ちょっとこっちも見て欲しいんだが」

 そういって再び鞄から何かを取りだそうとしたイワン。
 しかしその時、外から来客を告げるベルが鳴り響く。

「あら? お客さんでしょうか、すみません少し行ってまいります」

 クレーリアが立ち上がり玄関へと向かおうとするのにまたふらつき、それを隣にいたレベッカが支え共に立ち上がる。

「私も行こう、まだ体調がよくないんだろ」

「ですが……いえ、ではお願いします」

「ああ」

 すまんが行ってくる――そう言い残して彼女たちは来客を迎えに玄関の方へと歩いていく。
 二人のその背中を見送りながらイワンが鞄に入れていた手を机の上に戻し、そして鴎外へと話しかける。

「あのシスターさん大丈夫かよ、顔色大分悪かったぜ」

「おお、身内が一人帰ってこんでな、それで毎晩待ち続けておるんよ。儂らもはやく休むように言っとるんだが……どうのも固くなでな。それが祟ってあの有り様というわけよ」

「はあ? お前、こんな物騒な時に呑気なもんだな。
 その帰ってこない奴のこと心配じゃねぇのかよ」

「逃げる隠れるは得意そうな奴じゃったから騒動に巻き込まれても平気な顔して抜け出してくるだろうよ」

 鴎外がそういうのに対し、イワンはそうではなくてとかぶりを振る。

「いや、そうじゃなくてよ、ほれ、あれだよあれ」

「あれ?」

「何だ知らねぇのか? ほれ、最近人拐いが頻発してるって話」

「ああ、あれか」

 それを聞いて、そういえばつい先日レベッカからそのようなことを聞いたような覚えがあることを思い出した鴎外。
 その様子にやっぱり知ってんじゃねぇかと呆れた態度のイワンは二人が帰ってくるまでの間、世間話でもするかのように実はと前置きして喋り出す。

「さっき言おうとしてたことなんだけどよ、その人拐いにあってるのって子供とかじゃねぇんだわ」

「ほう、となると……対象は大人か?」

「そ、しかもそいつらには意外な共通点があったのさ」

 勿体ぶるような素振りを見せるイワンは先程出した紙束の中から何枚かを抜き取り、そして新たに鞄の中から取り出したものを机の上に並べ、それぞれの紙にある名前であろうところを左右の指で指し示す。



「――それはな、行方不明になった連中の大半がこの人物表リストに乗ってるってことよ」



 そしてその口から驚くべきことを喋りだした。

「何?」

「言っとくが俺が五十人程度しか調べられなかったってのはな、そもそも調べる対象がいなかったからなんだよ。
 関わりのある奴から最近見なくなったとか聞いたもんだから気になってな、ちょいと捜査の範囲を広げてみたらそこに行き着いたってわけよ」

 もしそうじゃなかったら全員分集めてやってたぜ、と豪語するイワンにこいつ本当に有能だなと改めて感心する鴎垓は、しかしちょっと待てよと頭を働かせる。
 
「もしや……人拐いとハワード商会は、何か関係がある?」

「その可能性は高いと思うぜ? 何たってあいつら、ここ暫くは借金ある奴らからのまるで徴収でもするみたいに金巻き上げてたらしいからよ」



 ――借金のかたに身柄ごと盗られちまってもおかしかねぇ。



 イワンの言うことも一理あるが、そんな危険をわざわざ犯すだろうかという疑問は拭えない。

「あの商会はかなりでかいところときく、どうしてそのようなことを……」

「さあな、金勘定で動くやつらのことはこれっぽっちもわかんねぇよ。男なら心に決めた女のためにだなぁ――」

 それはイワンがその続きを言おうとしたその瞬間の出来事であった。





「――きゃぁあああああぁああ――!!!??」




 ――表から鳴り響く、クレーリアの叫び声。


 はっと言葉をつぐんだイワンとは裏腹に、既に玄関の方へと駆け出した鴎垓。
 数秒も掛からず表に出ると、そこには黒づくめの格好をした連中に荷馬車のようなものに担ぎ込まれようとしているクレーリアと、彼女を助けようとして相手の剣を前に思うように動けないでいるレベッカの姿があった。

「どうした!」

「来たかオウガイ――敵だ!」

 鴎垓の登場に簡潔に状況を伝えるレベッカ。
 すると彼女と対面している三人の敵の後ろに佇む敵の頭と見られる一人が増援が現れたことに対し特に慌てることなく、手下の者たちに指示を出す。

「……邪魔者は殺せ」

「「はっ!」」

 それに短く応えた手下の内、手の空いていた二人が一足飛びで鴎垓へと迫る。
 手には装飾のない長剣、黒装束と相まって個性というのをとことんまで消し去っているところはまるで暗殺者かのよう。

 そんなことを考えている間に刺客は巧みな連携を披露し、無手の鴎垓に対し容赦ない連撃を繰り出してくる。

「っと……!」

「「……」」

 即応する鴎垓は紙一重でそれを避け、一歩距離を取り構えを取る。
 それに迂闊に攻め入るのは危険と判断したのか、二人の刺客は攻撃をやめ、じりじりと隙を伺うように左右に別れる。

「くそっ! また数の暴力か!」

「退くなよ、中に入られたら不味い!」

 三人相手に少し押され気味のレベッカからまたこんなのかというような泣き言があがるが、それを鴎垓は容赦なく叱咤する。
 もしここで退いて中まで追撃にこられでもしたら中にいる子供たちが危ない。

 この入り口から敵を逃すわけにはいかないと考えていると、左右に別れていた方の一人、鴎垓から見て右の相手が均衡を破るように剣を腰だめに構えて突撃してくる。
 どこに逃げても次の奴が対応するか――ならば迎え撃つだけだと立禅りつぜんにて思考を加速させようとしたその時、迫りくる刺客の影から男の声が突如響き渡る。

「おらぁああ!!」

「……っ!?」

 鴎垓に集中するあまり見逃してしまったか、その刺客は横合いからの攻撃を寸前で避けきることができず、咄嗟に防御に差し出した腕を深く切られそのまま地面へと転がる。
 しかしすぐさま起き上がって距離を取れば、目の前には新たな増援。

「イワンか!」

「何素手で戦ってんだ! これ使え!」

 その増援とは勿論――鴎垓に遅れてやってきたイワンに他ならず。
 前に飛び出したイワンから剣を投げ渡され、抜き放ち自分も列に参加する鴎垓。

「助かる!」

「うるせぇさっさと戦え!」



 そして二人はそれぞれの相手へと剣先を向け、襲撃者たちへと躍り掛かるのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...