49 / 72
第二章 腐れ剣客、異世界の街に推参
腐れ剣客とこの街のこと
しおりを挟む
「で、まんまと出し抜かれたわけか、お前は」
「全くもって面目ない」
仁王立ちで見下ろすレベッカ。
その視線の先、地面に正座をして座り込む鴎垓。
彼女の据わった目に射られるような感覚を全身で感じながらも、失態を演じた責任をとって甘んじてそれを受け入れている。
そんな鴎垓が十分に反省していることを読み取ったのか、もういいというように頭を振るレベッカ。
「はぁ……まあいい、私もあの子がそんな力を持っているとは知らなかったしクレーリアからも知らされていなかった。
お前ばかりの責任というわけでもない」
だからといって責任がないなんてことはないんだからな――というレベッカの言葉に大きく頷きつつ、尻の下に降り立たんでいた足を解き痺れを感じ始めたところを揉みほぐす。
あの後、目の前から消えてしまったナターシャを探しにカフェから飛び出した鴎垓が街道で右往左往しているところをギルドから出てきたレベッカに丁度目撃され。
その様子にああ何かあったなと冷めた目をして早足で近づいてきた彼女に言い訳の間もなく連行され。
そうしてこの路地の一角へと連れてこられて諸々の経緯を説明させられていた――というのが鴎垓の現状というわけだ。
余計なことはするなよという言いつけも守れないことを叱るべきか、それとも目的の人物と遭遇できたその幸運を誉めるべきか悩むレベッカ。
「せめてギルドの方に来てくれれば……いや、言っても仕方がないか」
「いやすまんな、儂もまさかあそこまで綺麗に出し抜かれるとは思ってもみんかったもんでよ、まんまと逃がしてしもうたわい。
それでこれからどうする、あんなもんやられちゃ街の中から見つけるなんぞ正直無理筋じゃぞ」
悩むレベッカに指示を仰ぐ鴎垓。
彼としてはもう一度会って話し合い、どうにかして孤児院の方まで帰ってきて欲しいというのがあるものの、先程見せられた消失技を使われては探すどころの話ではない。
レベッカもそれは分かっているからか、鴎垓の言葉に頷きつつもまた別の案について思考を巡らせていた。
「確かにな、だが多分この街全てを調べる必要はない。
それは彼女の言っていたことから分かることだ」
そういったレベッカは足を揉む鴎垓を強引に立たせ、彼の手を引っ張りながら路地を歩き始めた。
じんじんとする足の痺れに呻きながらも手を取られているため逆らうこともできずレベッカの先導に従うしかない鴎垓へ、彼女はここまで分かったことを口に出し改めて整理していく。
「お前があの子から聞いたことから察するに、ナターシャの今の目的はハワード商会が隠している裏の理由を明らかにすることだ。奴らが何故孤児院を狙っているか、それを探るためにあの子が行動していることを考えるとそう広い範囲で動いているとは思えんな」
私なら内情を知っていそうな関係者から当たる――そう言いながら無意識に歩みを早めるレベッカ。
表の街道のように人に溢れているというわけでもないため自然と足が早くなっているのだろうが、それは鴎垓にとっては天然の拷問に等しい。
鴎垓はレベッカの容赦のない行動に悶絶しながらもかろうじて歩みを緩めることなくついていき、同時に会話も続ける。
「ま、まさかもう本丸に忍び込んどるとかなかろうな?」
「それは流石にないだろう、ナターシャは責任感は強いが慎重な子だ。責任感が強すぎて時々独断行動をしてしまうこともあるが、大きな無茶をする子ではない。
忍び込むとはいってもそれは内部の情報を調べてからのはずだ」
だからまだ時間はあるとレベッカは言う。
「ひとまずはクレーリアのところに帰って報告だな。
ギルドで聞いたことも報せておかなければならないだろうし、ナターシャを追うのはそれからでも遅くはないだろう」
「ん? ギルドでか?
一体何があったというのだ」
そういえばギルドからナターシャが来たかどうかを聞いてくるだけにしては出てくるのに時間が掛かっていたなと今更のように思い出す鴎垓。
「ああ、最近街外れの辺りでは人拐いが起こっているらしい。
そう何件も起こっていたわけじゃないんだがここ何日かは連続
して人が消えているんだとかで注意をして欲しいんだとか」
「ははぁ……そんなことが。
なんじゃ、ここも意外に物騒なところなんじゃな」
「本来ならそんなことが起こることは絶対にあってはならないんだが、この街の歴史から考えるとどうにもな……」
そこでふっと言葉を途切れさせたレベッカ。
しかし鴎垓には包み隠さず話しておくべきだろうと判断し、その先を、この街に何があったのかを語り出す。
「……十何年か前、当時は領主の力が衰えていた時でな、付近に墜落した【墜界】の対処に兵を割きすぎて治安を守る戦力が激減していたんだ。
その隙を突いて現れた犯罪組織によって、この街は奴らが裏で支配するそれはそれは酷いところだったらしい、色々な犯罪がこの街の影で行われ住民たちは日々恐怖を抱えながら生活をしていたとも聞いたな」
まあ実際に見たわけではないから私も又聞きなんだが、というレベッカ。
前を向いているので見えはしないが、声色からどこか悔しさのようなものを感じる。
「【墜界】を攻略し、ようやく領主が街に目を向けたときにはもう手の施しようもないほどにその組織は街へと根を張っていた。
だが何とかして奴らを排除したい領主はある時、残った戦力を総動員して組織の本部があるところへと強襲を仕掛けた。
その本部があったところというのが丁度孤児院のあるところ近くでな、あそこに行くまでの街並みがボロボロなのもそれが原因というわけなんだ。
戦いは領主の勝利で終わったんだが、その時倒し切れなかった残党が散り散りになった後も根強く残ることになる。
それから領主と残党との長い戦いが始まったんだが……」
「そのせいでクレーリアは教会からの援助を打ち切られてしまうことになるんだ」
「全くもって面目ない」
仁王立ちで見下ろすレベッカ。
その視線の先、地面に正座をして座り込む鴎垓。
彼女の据わった目に射られるような感覚を全身で感じながらも、失態を演じた責任をとって甘んじてそれを受け入れている。
そんな鴎垓が十分に反省していることを読み取ったのか、もういいというように頭を振るレベッカ。
「はぁ……まあいい、私もあの子がそんな力を持っているとは知らなかったしクレーリアからも知らされていなかった。
お前ばかりの責任というわけでもない」
だからといって責任がないなんてことはないんだからな――というレベッカの言葉に大きく頷きつつ、尻の下に降り立たんでいた足を解き痺れを感じ始めたところを揉みほぐす。
あの後、目の前から消えてしまったナターシャを探しにカフェから飛び出した鴎垓が街道で右往左往しているところをギルドから出てきたレベッカに丁度目撃され。
その様子にああ何かあったなと冷めた目をして早足で近づいてきた彼女に言い訳の間もなく連行され。
そうしてこの路地の一角へと連れてこられて諸々の経緯を説明させられていた――というのが鴎垓の現状というわけだ。
余計なことはするなよという言いつけも守れないことを叱るべきか、それとも目的の人物と遭遇できたその幸運を誉めるべきか悩むレベッカ。
「せめてギルドの方に来てくれれば……いや、言っても仕方がないか」
「いやすまんな、儂もまさかあそこまで綺麗に出し抜かれるとは思ってもみんかったもんでよ、まんまと逃がしてしもうたわい。
それでこれからどうする、あんなもんやられちゃ街の中から見つけるなんぞ正直無理筋じゃぞ」
悩むレベッカに指示を仰ぐ鴎垓。
彼としてはもう一度会って話し合い、どうにかして孤児院の方まで帰ってきて欲しいというのがあるものの、先程見せられた消失技を使われては探すどころの話ではない。
レベッカもそれは分かっているからか、鴎垓の言葉に頷きつつもまた別の案について思考を巡らせていた。
「確かにな、だが多分この街全てを調べる必要はない。
それは彼女の言っていたことから分かることだ」
そういったレベッカは足を揉む鴎垓を強引に立たせ、彼の手を引っ張りながら路地を歩き始めた。
じんじんとする足の痺れに呻きながらも手を取られているため逆らうこともできずレベッカの先導に従うしかない鴎垓へ、彼女はここまで分かったことを口に出し改めて整理していく。
「お前があの子から聞いたことから察するに、ナターシャの今の目的はハワード商会が隠している裏の理由を明らかにすることだ。奴らが何故孤児院を狙っているか、それを探るためにあの子が行動していることを考えるとそう広い範囲で動いているとは思えんな」
私なら内情を知っていそうな関係者から当たる――そう言いながら無意識に歩みを早めるレベッカ。
表の街道のように人に溢れているというわけでもないため自然と足が早くなっているのだろうが、それは鴎垓にとっては天然の拷問に等しい。
鴎垓はレベッカの容赦のない行動に悶絶しながらもかろうじて歩みを緩めることなくついていき、同時に会話も続ける。
「ま、まさかもう本丸に忍び込んどるとかなかろうな?」
「それは流石にないだろう、ナターシャは責任感は強いが慎重な子だ。責任感が強すぎて時々独断行動をしてしまうこともあるが、大きな無茶をする子ではない。
忍び込むとはいってもそれは内部の情報を調べてからのはずだ」
だからまだ時間はあるとレベッカは言う。
「ひとまずはクレーリアのところに帰って報告だな。
ギルドで聞いたことも報せておかなければならないだろうし、ナターシャを追うのはそれからでも遅くはないだろう」
「ん? ギルドでか?
一体何があったというのだ」
そういえばギルドからナターシャが来たかどうかを聞いてくるだけにしては出てくるのに時間が掛かっていたなと今更のように思い出す鴎垓。
「ああ、最近街外れの辺りでは人拐いが起こっているらしい。
そう何件も起こっていたわけじゃないんだがここ何日かは連続
して人が消えているんだとかで注意をして欲しいんだとか」
「ははぁ……そんなことが。
なんじゃ、ここも意外に物騒なところなんじゃな」
「本来ならそんなことが起こることは絶対にあってはならないんだが、この街の歴史から考えるとどうにもな……」
そこでふっと言葉を途切れさせたレベッカ。
しかし鴎垓には包み隠さず話しておくべきだろうと判断し、その先を、この街に何があったのかを語り出す。
「……十何年か前、当時は領主の力が衰えていた時でな、付近に墜落した【墜界】の対処に兵を割きすぎて治安を守る戦力が激減していたんだ。
その隙を突いて現れた犯罪組織によって、この街は奴らが裏で支配するそれはそれは酷いところだったらしい、色々な犯罪がこの街の影で行われ住民たちは日々恐怖を抱えながら生活をしていたとも聞いたな」
まあ実際に見たわけではないから私も又聞きなんだが、というレベッカ。
前を向いているので見えはしないが、声色からどこか悔しさのようなものを感じる。
「【墜界】を攻略し、ようやく領主が街に目を向けたときにはもう手の施しようもないほどにその組織は街へと根を張っていた。
だが何とかして奴らを排除したい領主はある時、残った戦力を総動員して組織の本部があるところへと強襲を仕掛けた。
その本部があったところというのが丁度孤児院のあるところ近くでな、あそこに行くまでの街並みがボロボロなのもそれが原因というわけなんだ。
戦いは領主の勝利で終わったんだが、その時倒し切れなかった残党が散り散りになった後も根強く残ることになる。
それから領主と残党との長い戦いが始まったんだが……」
「そのせいでクレーリアは教会からの援助を打ち切られてしまうことになるんだ」
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
まったく知らない世界に転生したようです
吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし?
まったく知らない世界に転生したようです。
何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?!
頼れるのは己のみ、みたいです……?
※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。
私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。
111話までは毎日更新。
それ以降は毎週金曜日20時に更新します。
カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ダンジョン配信 【人と関わるより1人でダンジョン探索してる方が好きなんです】ダンジョン生活10年目にして配信者になることになった男の話
天野 星屑
ファンタジー
突如地上に出現したダンジョン。中では現代兵器が使用できず、ダンジョンに踏み込んだ人々は、ダンジョンに初めて入ることで発現する魔法などのスキルと、剣や弓といった原始的な武器で、ダンジョンの環境とモンスターに立ち向かい、その奥底を目指すことになった。
その出現からはや10年。ダンジョン探索者という職業が出現し、ダンジョンは身近な異世界となり。ダンジョン内の様子を外に配信する配信者達によってダンジョンへの過度なおそれも減った現在。
ダンジョン内で生活し、10年間一度も地上に帰っていなかった男が、とある事件から配信者達と関わり、己もダンジョン内の様子を配信することを決意する。
10年間のダンジョン生活。世界の誰よりも豊富な知識と。世界の誰よりも長けた戦闘技術によってダンジョンの様子を明らかにする男は、配信を通して、やがて、世界に大きな動きを生み出していくのだった。
*本作は、ダンジョン籠もりによって強くなった男が、配信を通して地上の人たちや他の配信者達と関わっていくことと、ダンジョン内での世界の描写を主としています
*配信とは言いますが、序盤はいわゆるキャンプ配信とかブッシュクラフト、旅動画みたいな感じが多いです。のちのち他の配信者と本格的に関わっていくときに、一般的なコラボ配信などをします
*主人公と他の探索者(配信者含む)の差は、後者が1~4まで到達しているのに対して、前者は100を越えていることから推察ください。
*主人公はダンジョン引きこもりガチ勢なので、あまり地上に出たがっていません
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
転生したら王族だった
みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。
レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる