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第二章 腐れ剣客、異世界の街に推参
腐れ剣客と再会のナターシャ
しおりを挟む「昨日はあんがと、お陰で助かったよ。
お金はあんまし持ってないからお礼とかあげらんないけど、ちゃんと感謝してる。てかこんなとこで会う何てちょっと奇遇だね、一体何やってんの?」
少女特有の甲高さを良い意味で抑えた心地よい音域。
親しげな口調は砕けながらも不快ということもなく、どこか愛嬌を感じさせる。
動きやすい軽装に身を包み、二振りの短剣を腰に備えたその声の主はあろうことか捜索を頼まれていたまさにその人――飴色の髪を頭の後ろで二房に分けた少女、ナターシャであった。
「おいおい、こんなところで会うとは……どういう天の采配だ?」
最近こんな展開が多いのではないだろうか。
そんな考えがつい口から飛び出た鴎垓の言葉に何を言っているのか分からないというような感じでその小動物に似た顔をキョトンとさせるナターシャ。
頬の晴れもなく服装に目立つ汚れもない。
どうやらあれから再びあの三人組と出会うようなことはなかったようだ、それ自体は大変よろしい。
一安心した鴎垓は体を彼女の方に向け、地面に座り込むとこんなところにいる目的について語り始める。
「え、何? どゆこと?」
「いや何、とりあえず無事なのを確かめられてよかったわい。実を言うとお主のことを探しておったんじゃよ」
「アタシを? どうして?」
ナターシャからしてみれば当然の疑問。
ほんの僅かな時間一緒に居ただけの名前も知らないような男が自分を探していたなど、どう考えたっておかしい。
ちらちらと疑心が浮かびあがってナターシャの表情を見て、さてどう話してみるのがいいかと考える鴎垓。
このままでは肝心なところを伝えられない。
なのでまずは自分がクレーリアに頼まれてきたのだということを証明するため、少女がクレーリアの言うナターシャ本人であるかの確認から始めることにした。
「お主、街の外れにある孤児院の尼僧、クレーリアという女のことを知っとるか?」
「え、そりゃアタシそこの出だし知ってるけど……てか何でお兄さんお姉ちゃんのこと知ってんの?」
よし、当たりだな。
「ふむ、その反応を見るにあの尼僧の言っとったのはどうやらお主で間違いないようじゃな」
よかった。
知っていると言ったけど実は似た格好の別人でしたといいことにならなくて。
食堂での話し合いの最中そんな心配をしていた鴎垓。
気を取り直して話を進める。
「それならレベッカのことも知っとるか、金髪に蒼い目をした女のことなんじゃが」
「知ってる……っていうかアタシの憧れの人だし。
え、どういうこと、どうしてお兄さんが二人のこと知ってんの?
ちょっと怖いんですけど」
知人の名前が続けて出てきたためか不安げな表情になるナターシャ。昨日あったばかりの男がどうしてそんなにも自分と関わりのある人たちの名前を知っているのかと不信感が募る。
安心させようとして逆効果になってしまったかと思いつつも、ここまで来て言い訳染みたことを言うのは更に不信感を煽るだけだと
「ふむ、経緯とかは面倒なんで省くんじゃが儂は今そのレベッカと行動を共にしておってな、あやつに連れられて孤児院に赴いた際にあの尼僧に出会うたわけよ」
「ええ……特定の仲間を作らずにずっとソロで活動してたあのレベッカさんと?
自分の理想のためには他人を犠牲に出来ないとか言ってた勧誘とか売り込みとか全部断ってた孤高の人に同行者とか、いや確かにお兄さん結構強そうだったけど……あの人と釣り合ってるかと言えば全然そんな風に見えないし。
それに話が出来すぎでちょっと信じらんないんだけど……」
「ところがどっこい、全部真実のことなんじゃよなぁこれが」
「うう~ん……」
鴎垓の語る経緯に納得しかねるのかうんうんと呻くナターシャ。
というかレベッカよ、お前ここではそんな風に見られていたのかと少々呆れる鴎垓。孤高とも言っていたが本人はただの頑固物、真面目を拗らせていただけなのを過大評価されている。
そのせいか他人には基本対応は丁寧だが、気心の知れた相手にはずけずけと物を言う性格であることはあまり知られていないようだ。
そして何気に釣り合ってないとか中々辛辣である。
本人を前に容赦がない。
これも若さということなのだろうか。
「まあ信じる信じないは兎も角、お主に伝えねばならんことがあるんじゃ小娘よ」
「小娘言うなし、アタシにはナターシャって立派な名前があるんだから」
鴎垓の小娘という発言に今までにない反応をするナターシャ。
先程までの疑心もどこへらや、キッと顔を厳めしい形に変え敵愾心を露にした瞳で鴎垓を睨む。
昨日もそうだったがどうにもこの少女、名前に関して並々ならぬこだわりがあるようだ。
「これは失礼した、ではナターシャよ。
改めてお主にクレーリア殿の言葉を伝える」
そういうことのであればとすぐさま訂正し、背筋を伸ばす鴎垓の態度に真剣みを感じたのかナターシャもまた居住まいを正してこれから出てくるだろう言葉に耳を傾ける。
鴎垓も出来る限りクレーリアの言葉を崩さないように注意しながら、言伝された言葉をナターシャに伝える。
「『昨日は約束の日でしたが帰ってこずとても心配しています、どうか孤児院に顔を出して無事を確かめさせて下さい。
あなたの大好きなシチューを作って待っています。
クレーリア・ミルルケットより』
――とのことじゃ。
一言一句違わず、しかとお主に伝えたぞ。
こう言えばお主は分かるということじゃったがどうであろう、儂があの尼僧の使いであることは信じてもらえただろうか」
「名前どころシチューのことまで……そっかぁ……やっぱ心配させちゃってたかぁ……まずったなぁ」
鴎垓からの言伝を聞き、思わず手で顔を覆うナターシャ。
その声には心配させてしまった後悔と、心配してもらった嬉しさで震えている。
その様子に昨日帰ってこれなかったのは少なくとも、孤児院やクレーリアに対する悪い感情によるものではないと推測する鴎垓。
それよりも優先しなければならない何かが昨日あったのだろう。
「如何な理由があるかは知らぬが、あのご仁はお主の帰りを待っておる。一度儂らと戻って無事を知らせてはくれぬか」
「……アタシもそうしたいんだけど、そうもいかないんだよねぇ」
帰還を頼む鴎垓に、しかし否と告げるナターシャ。
やはり何か理由でもあるのかと思い、ふと昨日の出来事が鴎垓の脳裏によぎる。
「昨日の件か?」
「いやそれもあるっていうか、もっと面倒になったっていうか……」
歯切れ悪く言葉を濁すナターシャ。
面倒とは何事だと眉を顰める鴎垓。
それに対し、少女は悩んだ末ある提案をしてくるのだった。
「ここじゃ何だしさ、近くのカフェに行かない?
ちょっと話聞いて欲しいんだよね」
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