腐れ剣客、異世界奇行

アゲインスト

文字の大きさ
上 下
47 / 72
第二章 腐れ剣客、異世界の街に推参

腐れ剣客と再会のナターシャ

しおりを挟む


「昨日はあんがと、お陰で助かったよ。
 お金はあんまし持ってないからお礼とかあげらんないけど、ちゃんと感謝してる。てかこんなとこで会う何てちょっと奇遇だね、一体何やってんの?」

 少女特有の甲高さを良い意味で抑えた心地よい音域。
 親しげな口調は砕けながらも不快ということもなく、どこか愛嬌を感じさせる。
 動きやすい軽装に身を包み、二振りの短剣を腰に備えたその声の主はあろうことか捜索を頼まれていたまさにその人――飴色の髪を頭の後ろで二房に分けツインテールにした少女、ナターシャであった。

「おいおい、こんなところで会うとは……どういう天の采配だ?」

 最近こんな展開が多いのではないだろうか。
 そんな考えがつい口から飛び出た鴎垓の言葉に何を言っているのか分からないというような感じでその小動物に似た顔をキョトンとさせるナターシャ。
 頬の晴れもなく服装に目立つ汚れもない。
 どうやらあれから再びあの三人組と出会うようなことはなかったようだ、それ自体は大変よろしい。
 一安心した鴎垓は体を彼女の方に向け、地面に座り込むとこんなところにいる目的について語り始める。

「え、何? どゆこと?」

「いや何、とりあえず無事なのを確かめられてよかったわい。実を言うとお主のことを探しておったんじゃよ」

「アタシを? どうして?」

 ナターシャからしてみれば当然の疑問。
 ほんの僅かな時間一緒に居ただけの名前も知らないような男が自分を探していたなど、どう考えたっておかしい。
 ちらちらと疑心が浮かびあがってナターシャの表情を見て、さてどう話してみるのがいいかと考える鴎垓。
 このままでは肝心なところを伝えられない。
 なのでまずは自分がクレーリアに頼まれてきたのだということを証明するため、少女がクレーリアの言うナターシャ本人であるかの確認から始めることにした。

「お主、街の外れにある孤児院の尼僧、クレーリアという女のことを知っとるか?」

「え、そりゃアタシそこの出だし知ってるけど……てか何でお兄さんお姉ちゃんのこと知ってんの?」

 よし、当たりだな。

「ふむ、その反応を見るにあの尼僧の言っとったのはどうやらお主で間違いないようじゃな」

 よかった。
 知っていると言ったけど実は似た格好の別人でしたといいことにならなくて。
 食堂での話し合いの最中そんな心配をしていた鴎垓。
 気を取り直して話を進める。

「それならレベッカのことも知っとるか、金髪に蒼い目をした女のことなんじゃが」

「知ってる……っていうかアタシの憧れの人だし。
 え、どういうこと、どうしてお兄さんが二人のこと知ってんの?
 ちょっと怖いんですけど」

 知人の名前が続けて出てきたためか不安げな表情になるナターシャ。昨日あったばかりの男がどうしてそんなにも自分と関わりのある人たちの名前を知っているのかと不信感が募る。
 安心させようとして逆効果になってしまったかと思いつつも、ここまで来て言い訳染みたことを言うのは更に不信感を煽るだけだと

「ふむ、経緯とかは面倒なんで省くんじゃが儂は今そのレベッカと行動を共にしておってな、あやつに連れられて孤児院に赴いた際にあの尼僧に出会でおうたわけよ」

「ええ……特定の仲間を作らずにずっとソロで活動してたあのレベッカさんと?
 自分の理想のためには他人を犠牲に出来ないとか言ってた勧誘とか売り込みとか全部断ってた孤高の人に同行者とか、いや確かにお兄さん結構強そうだったけど……あの人と釣り合ってるかと言えば全然そんな風に見えないし。
 それに話が出来すぎでちょっと信じらんないんだけど……」

「ところがどっこい、全部真実まことのことなんじゃよなぁこれが」

「うう~ん……」

 鴎垓の語る経緯に納得しかねるのかうんうんと呻くナターシャ。
 というかレベッカよ、お前ここではそんな風に見られていたのかと少々呆れる鴎垓。孤高とも言っていたが本人はただの頑固物、真面目を拗らせていただけなのを過大評価されている。
 そのせいか他人には基本対応は丁寧だが、気心の知れた相手にはずけずけと物を言う性格であることはあまり知られていないようだ。
 そして何気に釣り合ってないとか中々辛辣である。
 本人を前に容赦がない。
 これも若さということなのだろうか。

「まあ信じる信じないは兎も角、お主に伝えねばならんことがあるんじゃ小娘よ」

「小娘言うなし、アタシにはナターシャって立派な名前があるんだから」

 鴎垓の小娘という発言に今までにない反応をするナターシャ。
 先程までの疑心もどこへらや、キッと顔を厳めしい形に変え敵愾心を露にした瞳で鴎垓を睨む。
 昨日もそうだったがどうにもこの少女、名前に関して並々ならぬこだわりがあるようだ。

「これは失礼した、ではナターシャよ。
 改めてお主にクレーリア殿の言葉を伝える」

 そういうことのであればとすぐさま訂正し、背筋を伸ばす鴎垓の態度に真剣みを感じたのかナターシャもまた居住まいを正してこれから出てくるだろう言葉に耳を傾ける。
 鴎垓も出来る限りクレーリアの言葉を崩さないように注意しながら、言伝された言葉をナターシャに伝える。






「『昨日は約束の日でしたが帰ってこずとても心配しています、どうか孤児院に顔を出して無事を確かめさせて下さい。
 あなたの大好きなシチューを作って待っています。
 クレーリア・ミルルケットより』

 ――とのことじゃ。
 一言一句違わず、しかとお主に伝えたぞ。
 こう言えばお主は分かるということじゃったがどうであろう、儂があの尼僧の使いであることは信じてもらえただろうか」






「名前どころシチューのことまで……そっかぁ……やっぱ心配させちゃってたかぁ……まずったなぁ」

 鴎垓からの言伝を聞き、思わず手で顔を覆うナターシャ。
 その声には心配させてしまった後悔と、心配してもらった嬉しさで震えている。
 その様子に昨日帰ってこれなかったのは少なくとも、孤児院やクレーリアに対する悪い感情によるものではないと推測する鴎垓。
 それよりも優先しなければならない何かが昨日あったのだろう。

「如何な理由があるかは知らぬが、あのご仁はお主の帰りを待っておる。一度儂らと戻って無事を知らせてはくれぬか」

「……アタシもそうしたいんだけど、そうもいかないんだよねぇ」

 帰還を頼む鴎垓に、しかし否と告げるナターシャ。
 やはり何か理由でもあるのかと思い、ふと昨日の出来事が鴎垓の脳裏によぎる。

「昨日の件か?」

「いやそれもあるっていうか、もっと面倒になったっていうか……」

 歯切れ悪く言葉を濁すナターシャ。
 面倒とは何事だと眉をひそめる鴎垓。
 それに対し、少女は悩んだ末ある提案をしてくるのだった。



「ここじゃ何だしさ、近くのカフェに行かない?
 ちょっと話聞いて欲しいんだよね」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

処理中です...