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第二章 腐れ剣客、異世界の街に推参
腐れ剣客と食堂での一幕
しおりを挟む年端もいかない女子たちの仁義なき一騎討ち騒ぎ。
少年球技地区大会最終試合を思わせる熱い激闘。
顔を赤らめ体をくねらす白装束の修道女。
孤児院の裏庭、そこはもはや異空間。
予想することすら出来ないことの数々に囲まれ考えるのを止めた鴎垓。ただ時間が解決してくれることを願い精神の内へと引きこもることを選び――それからどれぐらいの時が経っただろうか。
どこからか香る臭いに鼻孔をくすぐられ、遠くへ行っていた魂が体へと舞い戻る。
再び光を宿した時、瞳に映るは外の裏庭の光景ではなく、一度に何人も使えるような長机が中央に置かれた部屋の中であった。
「ここは……」
「あ、起きられましたか」
施設の中か?
鴎垓がそう思っていたところに後ろから声が掛けられる。
「すみません、日が陰ってきておりましたので勝手に食堂へと移動させてしまいました」
振り返ると、そこに居たのはクレーリア。
女の子たち後ろからそれぞれ鍋や皿を持っていて、手慣れた様子で次々に机の上の配置していく。
鍋から香る乳を煮たような香り。
鼻をくすぐったのはこれの匂いだったか。
途端、腹が空腹を訴え始める。
そんなにも時間が経っていたかと、今更ながらに思う鴎垓。
「これから皆と食事にしますの、どうぞご一緒にしませんこと」
「おや、運んでくれたばかりか夕食まで。
邪魔でないというなら遠慮なく、ご相伴にあずかろう」
何せ腹の虫がな~、などという鴎垓の様子の笑いながら配膳を進めていくクレーリア。
「それでは是非、当院自慢のシチューをご賞味下さいな」
そう言いながら深皿に鍋から掬ったシチューを移し、女の子たちへ渡し机の上に並べていく。
次第に溢れる良い香り。
よく嗅いでみると乳の他に野菜や肉などの匂いもする。
その匂いに釣られてか、奥の方からドタバタと五月蝿い足音が聞こえてくる。
「おっしゃ一番乗り! クレ姉今日はなに!」
そして最初に食堂へと現れたのは先程裏庭でレベッカに向けボールを投げたあの少年。
床を滑りながらの登場。
その視線は机の鍋に向けられ、無限の食欲にらんらんと輝いている。
「うわ、ちょっ!」
「あだっ!?」
しかしそういう突飛な行動には大体落ちがつくもので。
競争でもしていたのだろう、後ろから来たもう一人が食堂に駆け込んできて、立ち止まった最初の少年に後ろから追突し、そのままの勢いで二人揃ってドンドンと音を立て床に転倒する。
「まあ! 二人とも大丈夫!?」
キャッ!と悲鳴をあげる少女たち。
突然起こってしまった事故にクレーリアが彼らの側まで走り寄る。
少年たちは音の割にそこまで酷い事態にはなっていないからか、重なって倒れた姿勢から立ち直ろうと体を宇動かしている。
「わ、悪い……」
「いってぇ……え?」
しかし、それは上に乗っていた、後から来た少年だけだ。
下で押し潰されていた方の少年は顔面を殴打したのか、鼻から血を流している。
ポタポタと床に落ちる血の雫に少し理解できないような顔をし、その後襲ってくる痛みに涙を流し呻き声をあげた。
「あ、あぁあ――!! いってぇええ……!!!?」
打ち付けられた鼻の辺りを押さえ、床に踞る少年。
近寄ったクレーリアはおろおろとするもう一人の少年の頭を撫でて落ち着かせ、すぐさま怪我をした少年の体を抱き起こす。
「大丈夫、大丈夫だからね。
だから少しだけ我慢して、こっちを向いて」
「う、うぅ……」
呻く少年を床に座らせ、その顔を手で包み込むクレーリア。
目を閉じた彼女が口元で何かを唱えると、その掌に仄かに光が灯る。
「”我が手に、癒しの力を――”」
そしてその光が手から広がり、少年の顔全体を包み込む。
するとどうだ。
赤く腫れた鼻から徐々に腫れが引いていき、両方の穴から流れていた血がスッと止まる。
そして痛みに歪んでいた表情もゆっくりと落ち着いたものへとなっていく。
「これは……」
その異様な光景に目を見開く鴎垓。
手を翳すだけで人を治すなど、一体どういう技であろうことか。
そんなことを思っている間に少年を包んでいた光が消えると、その顔はすっかり元通りとなっていたのだった。
「さあ、お顔はもう大丈夫。
他に痛いところはないかしら」
「う、うん。大丈夫だよクレ姉」
「そう、よかった。
あなたはどう? 痛いところはある?」
床に座る少年の体を擦りながら隣に立つもう一人へ怪我はないか確認するクレーリア。
怪我が治ったことで先程までおろおろとしていた少年も安心したのか、申し訳なさそうな表情で押し倒してしまった少年に向けて手を差し伸べ、謝罪を口にする。
「俺は大丈夫、ごめんな怪我させて」
「こっちこそごめん、急に止まったりなんかして」
その手を取って立ち上がっては謝り合う少年たちの頭に手を添え、クレーリアが念押しするように彼らへと言葉を向ける。
「そう、大事になる怪我がなくて本当に良かったわ。
前から狭いところでは走っては駄目と注意していたのはこういうことが起きるかもしれないってことなんだから、十分に反省すること。
二人とも、分かってくれるかしら?」
「うん、ごめんなさい」
「お、俺も……ごめんなさい」
自分達のしたことで心配を掛けてしまったことを悔い、素直に頭を下げる二人。
その頭を撫でながら優しい顔を向けるクレーリア。
「はい、よく謝れましたね、偉いわ二人とも。
だったらワタシもこれ以上は何も言いません。
さあ、席に着きなさい、食事にしましょう」
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