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第二章 腐れ剣客、異世界の街に推参
腐れ剣客、売られた喧嘩を相方に買われる
しおりを挟むレベッカのいう用事とやらのため、手早く食事を終わらせてギルドから出ていこうとした二人。
しかしその背後から掛けられた声によって、彼らは足を止めることを余儀なくされていた。
「ああ……お主は確か」
「忘れたとは言わせねぇからなこの野郎! さっきの落とし前、きちんとつけていってもらおうじゃねぇか!!」
どこか聞き覚えのある声に反応し振り返った鴎垓。
そこには額に青筋を浮かび上がらせて二人を睨み付ける男の姿があった。
レベッカと同じような革の鎧に身を包んだ若い男。
呼吸が荒く酷く興奮した様子である。
誰かと思えば先程騒動を引き起こして警備の連中に連れて行かれた奴ではないか。
どうやら無事解放されたようである。
ただまあその原因が鴎垓にあると誤解したままなのはどうにもならなかったようである。
「いやいや、あれは誤解だったと言われんかったんか?
それにお主が転んだのは事故っちゅうもんじゃて、儂に怒るのはお門違いぞ」
「知るかそんなこと! 俺はお前のせいで赤っ恥かかされたんだ! その埋め合わせをしてやらねぇと腹の虫が収まらねぇんだよ!!」
埋め合わせとは何なのか。
男の様子からして穏やかなものではないだろう。
いきなりの始まった剣呑な展開に周囲にいた者たちは興味をそそられたのか、じっと様子を伺うような視線を三人に向けている。
今にも腰の剣を抜きそうなほど興奮している男に対して制止の声を掛けている警備のことなど眼中になく、その瞳は憎悪をみなぎらせて鴎垓に眼光を飛ばしている。
さて、どうしたものか。
相手してもいいがここで暴れさせるのもどうかと悩む鴎垓。
睨み合う形となった二人。
しかしその視線を切るようにして――
「――悪いが、それはよしてもらおうか」
――二人の間にレベッカが躍り出る。
「ああ?」
鴎垓以外目に入っていなかった男にとって近くにいたレベッカの登場は思いもよらないものだった。
しかし、まるで鴎垓を庇おうとしているような行動に男の怒りが増し、憎悪の対象がレベッカへと移る。
「ギルドの中での争いはご法度だ。
それに灯士同士ならばともかく、こいつは今はただの一般人だぞ」
「はぁ? だからどうしたってんだ!
そいつのせいで大恥かいたんだぞ俺は! 一般人だろうが許しちゃおけねぇ!!!」
「こいつは私の関係者だ。
それを害そうというのなら、こっちも考えがあるぞ」
「だから何だってんだ! そこをどけ! そいつズタボロにしてやる!」
怒りに感情を支配され聞き分けのない男。
こいつは何をどうしようとも絶対に退かないことを悟ったレベッカはため息を吐き、懐を探る。
「あまりこういうのは好きではないが……」
しぶしぶといった感じでそれを目の前に掲げるレベッカ。
後ろからそれを見ていた鴎垓にはそれは一枚の鉄板のようにしか見えなかったが、周囲の人間たちの反応は違った。
三人の動向を静かに見守っていた者たちから、さざ波にように驚愕の声があがっていく。
鴎垓が視線を周囲に配ってみれば、その者たちの視線はレベッカの取り出した鉄板に注がれ、隣の奴とそれについて何かしかを小声で話している。
「これを見ろ」
「――なっ!? そ、それは……!?」
そしてそれは目の前の男にしても同じのようだ。
レベッカが示す通りにそれを目にした瞬間、あれほど怒りを露にして顔を真っ赤にしていたというのに、今は血の気が引いたように真っ青になっている。
「四灯級……《黄》でしかも、二重縁……だと……!?」
驚愕に声を震わせる男。
レベッカが懐から出したのは灯士の証――ギルド証。
その色は上から四番目の階級を示す黄色だった。
この街にいる灯士はその殆どが五等級。
そして一つ上の四灯級はほんの数人しかいない。
新しく昇格したというそれだけでも驚きなのに、二重に盛られた縁の加工は灯士の中でも一握りの戦士しかなることのできない『特別な人間』であるということを示すものだった。
その事実に恐れ戦く男。
「そ、それじゃお前……」
「ああ、この度功徳持ちとしてギルドに認定されたレベッカ・ハウゼンだ。そしてこの男は私の身内だ、鬱憤晴らしに戦いたいというのなら私が代わりをしよう」
――さあどうする?
「……っちぃ! 女の影に隠れるような奴をボコしたところで気が晴れるわけもねぇ! よかったなおい、強いお仲間が居てよう!!!」
冷静になった頭で分が悪いと考えたのか、男はそれだけを言い残し二人を避けてギルドの外へと走り去っていくのだった。
その情けない背中に向けてふっと息を吐くレベッカ。
美少女の活躍によって悪者が撃退されたというような、まるで劇の一幕のような展開に施設の中が拍手と歓声が満ち溢れる。
彼女の活躍を称えようとする人の波に囲まれながら困ったような顔をするレベッカ。
鴎垓は脇へと押しやられ。
二人がようやくギルドから出ることができたのは、それから少し時間が経過してからのことだった。
――そうして押し掛ける人々から解放された二人。
押しくらまんじゅうのような状況にそこそこに時間晒された影響か、酷く疲れたような顔をして街道を歩いている。
「いや済まんかったなレベッカ、だがお陰で助かったわい」
「気にするな、ああいうのはどこにでもいる。
一々対応してやる必要もない」
隣にいるレベッカへと労いの声を掛ける鴎垓。
それに対して気にしなくていいというレベッカだったが思いもよらぬ展開に本人はかなりお疲れの様子。
「しかし何じゃ、最初にギルドの者が驚いとったんはそういうことだったのか」
気を紛らさせようとしてか、鴎垓が何の気なしにギルドであったことを話題に出す。
始めレベッカに連れられてきた時の従業員の反応が気になっていたのだが、それはああいう理由だったのかと思えば納得である。
「ああ――こんな風に瞳が変化するなんていうのは、そうとしか考えられなかったからな」
嬉しそうに髪をかきあげるレベッカ。
隠すように手を翳した左の瞳は――右とは似ても似つかない、灰に近い銀のような色彩の変わっていた。
これはここに来る前、フランネルの従者たちから診察を受けていた時に気付いたものだ。
視力が悪くなるということもなくただ色だけが変貌していたのだが、それが何を原因にしたものかがその場では分からなかったので詳しいことは後に回し、そしてギルドにこれたことでようやくそれが功徳を得たことによるものだと判明したのだ。
「で、それはどういうもんなんじゃ?
商人殿は確か炎であったが、お主はまた別物じゃろうしのう」
「ふふ、それはまあおいおい教えてやろう」
「ほほう、やけに勿体ぶるではないか。」
「若干扱いにくい能力だからな、私もまだ使いこなせているわけでもない。披露するのにはもう少しだけ時間がいるのさ」
その時のことを想像してか機嫌が良くなるレベッカ。
「ふぅむ、そういうことならまあ、気長に待つことにするかのう」
「ああ、楽しみにしておけ。
必ずあっと言わせてやるからな」
「おお、期待しておるわい」
そんなやりとりをしている内、向こうに何やら特徴的な建物が見えてくる。
「お、あれだあれだ。あの店に寄っていこう」
そしてどうやらそこが、レベッカのいう用事の関わるところらしかった。
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