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第二章 腐れ剣客、異世界の街に推参
資格がないぞ腐れ剣客
しおりを挟む『この決定にご不満のこととは思いますが、こればかりは決められた規則ですので、どうかご了承下さいませ』
鴎垓へもたらされた灯士の資格無しの宣告。
どうにか方法はないかと言い募るレベッカへ取りつく島もないといった様子でそう言いきるミチルダ、ギルド側の人間にそう言われてしまっては引き下がるしかなく、気落ちしたレベッカを連れて部屋から退室した鴎垓は彼女の機嫌を取り持つために施設に併設された食堂へと足を運んでいたのだった。
「いやー、困ったのう」
「いやいや困ったじゃないからなお前! どうするんだよこれから!」
そうして席に座った二人だったが真っ先に飛び出た鴎垓の呑気すぎる発言にレベッカの怒りが沸点を迎える。
こいつ何も分かってない、私のこの気持ちを全然全く分かってない!
そんな憤りを目の前で飯を食べ始めている男へとこれでもかとぶつける。というかいつの間にその軽食持ってきた、パンに葉物とハムを挟んだものとか、似合わないものを食べてるんじゃない。
「これから二人でやって行こうって話してたところなのに、これじゃあ出来ないじゃないか!」
「そうはいうてもなぁ、成れんもんは成れんのだから儂に言っても仕方がないではないか」
「それが! おかしいだろ! 何で! 【墜界】を! 攻略して! 灯気が! 少しも! 増えてないんだよ!!」
机をバシバシと叩きながら憤りを露にするレベッカ。
彼女が言っているのはこの世界における基本的な法則とでもいうべきもので、その内容は鴎垓にとって何とも理解しがたい事柄の話なのであった。
何せ――”敵を倒せば倒すほど強くなる”……などと。
そんな都合のいい話があっていいのかと疑問の思う彼にここまでの移動の中説明を続けたレベッカの根気は褒められるべきである。
ただ、それでも鴎垓が全てを理解できたとは言いがたい。
「ふむ、そう言われて移動の最中色々やってはみたものの、体からそういうのを特に感じることは全くなかったからのう」
これからどうするんだと目を回すレベッカを他所に「居らんくなる前にもっと詳しいことを聞いとくべきじゃったな」としみじみ言う鴎垓。
その言葉の通り。
ある理由によって今このレシロムの街に居るのは鴎垓とレベッカ。
この二人だけなのである。
――数日前、ゴブリン蠢く洞窟の最奥から生還し、それぞれの目的のため組むことを誓いあった鴎垓とレベッカ。
その後フランネルの治療を終えようやくやってきた従者たちのお陰でどうにか動けるようになるまで回復し、小さな商人フランネル、先輩灯士フィーゴと新人灯士たちと共に用意していた馬車へと揺られ、つい先日この街への帰還したのだった。
この街はレベッカが活動の拠点を置くところであり、今回の依頼もここのギルドから受けたためその報告にこなければならなかったからである。
しかし彼らが一緒だったのはここまで。
フランネルは一旦実家の方に顔出しのため、フィーゴは教育の結果を報告するため新人を連れそれぞれ別の街へと旅立っていってしまったのである。
心機一転頑張るぞと、意気揚々とギルドへ報告に行くレベッカに言われるまま受付へと辿り着いた鴎垓。
やけにビクつく受付嬢を相手にどうにか代筆での用紙への記入は終わらせたものの、その後の適正調査で見事引っ掛かってしまったわけである。
そのあとのことは言うに及ばず、改めての調査でも水晶を光らせることはできず。
それはつまり、鴎垓は灯士にはなれないということで。
そしてそれは今後二人で活動していくという当初の目標が早くも頓挫したことを意味しているのであった。
「どうするんだよお前ぇ……」
突きつけられたその事実を前に、テーブルの上で意気消沈するレベッカ。
【墜界】の攻略を許されているのは基本的に灯士だけだ。そして一般人が灯士になるにはギルドに登録するのが一番手っ取り早い。
灯士は命懸けの職業。
そのため人手はいつでも不足している。
それ故最低限の資格だけで登録が出来るというのにも関わらず、相方はその条件すら達成できなかったのだから項垂れるなというのが無理な話だ。
「まあ何とか方法を考えんとならんが、とりあえず今は腹ごなしだ。
ほれ、こいつでも食って元気だせ」
「……それの代金、私が渡しといたやつなんだけどな」
「うむ、馳走になっておる」
夢の実現が絶たれたというのに全く堪えた様子のない鴎垓。
その姿に毒気を抜かれるレベッカは差し出された皿の上に置かれた鶏肉のサンドをしぶしぶ手に取り、もそもそと口に入れる。
消耗したエネルギーを補給するために落ち着いた彼女を見ながら、自分に状態について考察する鴎垓。
レベッカは何故と言ってはいたものの、鴎垓自身にはその理由がある程度推測出来ている。
(もしかしてと思っておったが、やはりこれが原因じゃろうなぁ……)
自分に灯気がない理由――それはやはり、この世界の人間ではないことが原因なのだろう。
(話を聞く限り、その力というのはこの世界に生まれた者に宿るもんじゃ。そして儂はここで生まれたわけでもなく、死んだと思ったら気づけばここにおった。その時点で世界の括りから外れた存在とも言えるじゃろう)
これまでのことと馬車の中で改めて聞かされたことから考えれば、それが一番ありえる説となりえるのではないだろうか。
しかしそれなら尚更、自分が異世界にいるのかが分からない。
この世界の存在ではなくあえて異物としてここに呼んだ――その何者のかの真意。
今はまだ分かるはずもないそれを頭の片隅に置き、現状解決せねばならない職の問題について意識を向ける鴎垓。
その時、対面で鶏肉のサンドを頬張っていたレベッカが不意にあっ、というような表情をして顔を上げた。
「そうだ、もう一つ報告に行かなきゃいけないところがあるんだった」
たった今思い出したかのように言うレベッカに何のことだと顔を向ける鴎垓。ギルド以外にそんなところがあったのかと目で訴える彼にレベッカは言い繕うようにパタパタと手を動かしながら事情を話し出す。
「あ、いや、これは私の個人的なやつでな。
ああでも……そうだな、どうせならあいつらにお前のことを紹介するべきか」
「ほう、何が何やら分からんが面白そうだ。
ここで屯していても何もならんし連れていけ」
「ふむ、そうだな。
ちょっと手土産でも持っていってやれば喜ぶだろうし、少し寄り道してからになるがいいか?」
「構わん。
街のことなどよう分からんし、置いていかれても困るからの。
それに比べりゃ多少の寄り道に文句など言うわけがあるまい」
「それもそうだな。よし、そうと決まれば行動だ!
これからのことはお前の言う通り、何かいい案が浮かぶのを待とう」
そう言って立ち上がったレベッカ。
先程までの気の沈みようも最早ない。
残りのサンドを平らげ追従するようにして立ち上がった鴎垓は二人分の皿を回収して近くにいた店員に渡し、柵の向こうで待っているレベッカに合流にする。
そうしてギルドから出ようとする二人であったが――
「――おいお前待てよ! なにしれっと出て行こうとしてんだ!」
――その背中に向けて、突如怒声が響き渡った。
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