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第一章 腐れ剣客、異世界に推参
VS暴水鬼その1 腐れ剣客たちの大いなる苦戦
しおりを挟む「ぬおっ――!?」
戦闘開始。
真っ先に飛び出した鴎垓。
暴水鬼もまた真っ直ぐに鴎垓へと突撃してきた――かと思いきや。
それは跳躍のための加速。
高所より飛び掛かるためのもの。
頭上より襲いかかる巨体の圧に思わず足が止まる鴎垓。
その後ろから。
「――『殴盾』!!!」
盾を前に構えたフィーゴが躍り出て、敵が繰り出した拳をその盾の一撃によって何とか吹き飛ばす。
地面にたたらを踏み忌々しげな表情でフィーゴを睨む暴水鬼。
奇襲をすげなく防がれた苛立ちがその瞳に浮かんでいる。
どうやら厄介なのは一人だけではないと考えていたところで――
「『炎撃弾』――!!」
『――ッグォオオ……!?』
――顔に灼熱が直撃する。
その衝撃と熱ぶよって大きく後退する暴水鬼。
得意気な顔でその様子を見つめるフランネル、自分の攻撃がきちんと効いていることほっと一安心しているのは内緒だ。
「あら、こちらもお忘れなく」
後方で手を前に掲げるフランネルの周囲には球形の炎の塊が三つ浮かんでいる、次弾の準備も万全だ。
しかし暴水鬼は自身の負ったダメージから何発食らおうがさしたる脅威ではない、少し痛いが耐えられないほどでもないと判断を下す。
しかし意識がそちらに向いたその間に、音もなく近づいてくる最も警戒しなければならない存在のことを見逃してしまっていた。
「大剣術――」
それは低い姿勢から肩に担いだ大きな刃を体ごとぐるりと回転させ、
「――『大入道』」
――巨体を支える足の内の一本へと叩きつけた!
『――グァアア……!?』
「――くそ、やはり硬いな……!」
それは傷を負った方の足。
だが肉の鎧はこの攻撃を前にしても健在で。
痛みに怯むもすぐさま反撃。
暴水鬼の凪ぎ払い
その一撃を避け、距離をとる。
「どうだね、いけそうか?」
「奴さん前より硬くなっとるな、あれを斬るのはちいと骨が折れそうじゃ」
援護できるように近寄ってきたフィーゴに感触から一筋縄ではいかないことを告げる鴎垓。
元は敵の武器だとしても今まで扱ってきたなかでかなりの業物であり、大物相手にぴったりな重量をしているにも関わらずほんの僅かな傷しか与えられていない。この調子ではだめだ。
「ではどうしますの!? あいつを倒す手段は何かないんですの!」
二人の話を遠くから聞きつつ、炎球を連射して少しでも敵にダメージを与えようとしている。
それによって押し込められる暴水鬼。
僅かな膠着時間、この間に何か策を考えなければならない。
そのためには何かもう少し、切っ掛けが欲しい。
「ええい! これでどうですの!!」
腕を交差して顔を守りつつフランネルの攻撃を耐える暴水鬼。
これでは決定打にならないことに焦れた彼女が炎球を集結させ一際巨大な炎球を頭上に出現させると、それを暴水鬼目掛け発射。
迫りくる特大の攻撃に暴水鬼は――
『――ガアアアアアッ!!』
――地面より自身を越える高波を発生させ、炎を飲み込み消滅させた。それだけにとどまらず、波は鴎垓たちまでおも巻き込む勢いで彼らの方へと向かってくる。
まるで鉄砲水のような速度。
前衛二人はともかく後衛のフランネルが咄嗟に避けるには速すぎる。
「きゃぁああ!!?」
思わず身を固めるフランネル、このままではというところへ――
「フィーゴ殿!」
「おお! ここに守護の壁を――『盾壁』!!!」
――前衛二人が辛くも駆けつけ、フィーゴの功徳が大きな光の壁を作り出し高波から全員を隔離する。壁に沿って流れていく水の圧力に押されながらもこれを凌ぎきった。
波が引くも防壁を維持して次の攻撃に備えるフィーゴの背中に庇われながら、フランネルは自分を抱き抱える鴎垓へと顔を向ける。
「あの、ありがとうございますわ……」
「気にするな、もしあの防壁で防げんかったら抱えて逃げるつもりだっただけじゃからな」
「はっはっは、どんな攻撃でも防げると言いたいところだったが……今のはギリギリだった。もっと強い攻撃が来たらこれでは防げんかもしれないな」
再び集合した三人。
抱えたフランネルを地面に下ろし、改めて敵を見据えこの難敵をどう攻略したものかと意見を交わす。
壁を支えるフィーゴはこんなのが連続でくるようなら防ぎきれないぞと内心冷や汗をかいていた。
「聞いてはいましたが思っていた以上ですわね。
あの水、私の炎では相性が悪すぎますわ」
「本体にも何か耐性があるのかもしれないな。
あれほど炎を食らったにも関わらずそこまで堪えている様子がない」
「だが目眩ましなら十分に使える、意識をそちらに向けさせてその隙を突くことができればあるいは」
「ですが簡単には斬れないのでしょう?
足を折らせるのは困難と言わざる得ないですわ」
鴎垓の提案にそれはどうかと反論するフランネル。
確かにその問題は解決してはいない以上、いくら隙を作ったところで意味はない。
しかし。
「ならば直接首を獲る。
フィーゴ殿、あれで行けるか?」
それなら最初から首を狙うまでだと。
話を向けられたフィーゴは鴎垓の求めるものにすぐにピンときて、そうなった場合の試算を頭で弾き出し可能であることに思い至る。
「ふむ、十分行けるな」
「ちょっと、こっちに分かるように話して下さる!?
何が何だか分からないのですけど!」
二人だけが分かったような雰囲気に蚊帳の外のフランネルがどういうことなのか説明するよう催促する。
それを手で制して待てと言う鴎垓。
「まあ落ち着け、策というほどのものではないがどうにか奴の首まで剣を届かせる術を思い付いた、だがそれには儂ら二人は少しの間準備をせねばならなくなる。
その間お主に奴の目がこちらに向かぬようにしてもらいたのだが――できるか、フランネル殿」
それはつまり、策が成立するまでの間フランネル一人で暴水鬼と戦ってもらうということであった。
あまりに危険な提案。
炎は効きにくいと先程話したばかりである。
そんな相手をたった一人で足止めしてくれなどと、本来なら受け入れられることはない。
「あんまり説明にはなっていませんけど……私にそんな役回りをさせる以上、それは成功するのでしょうね」
「成すべきことを成せばな」
「……ふん、ここは断言してもらいたかったところですけど。
よろしいですわ、いい女の条件とは頼みを断らぬこと、それが難しいことならば尚更のことでしてよ」
しかしそれは、この場において彼女にしかできないことだ。
それをフランネルも分かっているからこそ、その困難な頼みを引き受けた。
何よりそうすることでレベッカが救えるのなら。
そうであるなら――受けて立ってやろうではないか。
「いいでしょう、例え不利な相性だろうと圧倒的な火力で乗り越えればいだけのこと。この私が力があれだけとお思いならば見せてあげます、炎神”ファイズ”より授かりし功徳はあらゆるものを焼き付くすのだということを」
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