21 / 72
第一章 腐れ剣客、異世界に推参
腐れ剣客御一行、洞窟高速弾丸ツアー
しおりを挟む鴎垓、フィーゴ、フランネル。
三人の即席パーティーはレベッカ奪還のため、大鬼がいると思われる洞窟の最奥を目指しひた走っていた。
パーティーの前線を盾持ちのフィーゴが受け持ち、その後ろに鴎垓、最後尾にフランネルという順番で通路を下へ下へと駆け降りていく。
道中の敵はフィーゴが盾で撥ね飛ばし、フランネルの炎によって焼き炭にされ跡形もなく消滅している。
二人の活躍によってどんどんと進む一行。
その間鴎垓は手を出さず、全ての戦闘を任せている。
移動中の鴎垓の負担を減らして少しでも体力を回復させようという苦肉の策、当然二人の消耗は増えるが鴎垓には最終決戦で大いに活躍してもらう予定なので問題はない。
しかし拐われたレベッカがいつまで、そしてどれだけ猶予があるかというのは常に思考の片隅にあり、特にこういうきわっきわの経験が少なくて焦るフランネルからは一番前を走るフィーゴに向けて声が飛ぶ。
「ちょっと、まだ着きませんの!
もうだいぶ走り続けていると思うのですけど!」
「腕輪の反応がだんだんと強くなってきている!
それの通りならもうすぐそこまで近づいているはずだ!」
そういってフィーゴは手首の腕輪へと視線を落とした。
これは始めレベッカが鴎垓と地上に戻る時に使っていたものであり、同期する二つの腕輪は互いの位置を方向と光の強さで確認できる優れものであった。
元は無茶をするレベッカのため、もしもの時を考えて渡していたものだがまさか二度も活躍するとは、何がどう転ぶか分からないものだ。
「そのすぐってのはどのくらいかって聞いていますの!
それにさっきから敵の数が増えていましてよ!
このまま行って大丈夫ですの!」
「任せてくれたまえ!
自分の功徳、盾の神”シルディア”の『突撃盾』は小物相手に微塵も揺るぎもしない!
全て蹴散らしてやるから大丈夫だ!」
「不安しか感じないんですがぁああ!!!」
フランネルの絶叫が洞窟に木霊して消えていく。
「オウガイさんも何か言って下さいまし!
私たちこのままだとレベッカさんを助ける前に数の暴力で一網打尽にされてしまいますわよ!」
ここまで黙りっぱなしの男に向けて何か言ってくれと叫ぶフランネル。
その声が若干苛立ち混じりなのはフィーゴのどこから来るのかよく分からない自信満々の発言と、何より目の前を塞ぐ障害物に理由があった。
現在鴎垓が背中に担いでいるのは大鬼が逃亡したさいに置いてきぼりになったあの大剣である。
あの凄まじい豪腕はいくら受け流したとしても普通の剣では耐えきれるものではなく、水球を迎撃したのと脇腹への一撃によって二本とも使い物にならなくなっていたのだ。
使える得物がなくなってしまった鴎垓はその代わりとしてこの、身の丈に迫ろうかという大剣を背中にくくりつけて無理くり持ってきていたのだった。
そんな邪魔過ぎる鴎垓の背中に向けてもう説得でも何でもいいから何か喋れよいう彼女の思惑を知ってか知らずか、反応した彼の口からは――
「なぁフランネル殿」
「何ですの! 何かこの状況を打開できるいいアイディアが浮かんだりしましたの!」
「あの大鬼なんじゃが、名前とかあるのかのう?」
「いやそれは今じゃなくてよろしくてよ!?」
――場の空気を考えない、あまりに呑気な質問だった。
これにはフランネルもキャラに似合わぬ突っ込み役に徹するしかなく、この裏切り者の非常識人の頭はどうなっているのかと思わずにいられない。
「今はそんなこと考えてる場合ですか!
こうして走っている間にも敵はどんどん増えていっているのですよ!」
「いや、少しでかめのを”ほぶ”とかいうとったじゃろ?
あいつにもそういうのがあるのではないかと思うてな、で何ぞあるのか?」
「知りませんわそんなこと!」
フランネルの絶叫が飛ぶ。
その話題はこれ以上いいからと。
しかし鴎垓の質問に何故だかフィーゴが反応した。
「いや、いい提案だ!
敵の名前があった方が戦いやすい!」
「フィーゴさんあなたまで!?」
二人目の裏切り者の登場に頭がどうにかなりそうなフランネル。
そんな彼女を他所に道行くゴブリンを吹き飛ばしながら更に言葉を重ねるフィーゴ。
「守護者はその【墜神】の中で頂点を意味する”ボス”をつけて呼ぶのが通例なんだが、さっき思い出した!
今回なら”ボスゴブリン”というのが一般的だが、ああいった変種だと話が変わるんだ!」
横合いから現れた連中をフランネルが迎撃し、その間に先へと進む三人。
「種族外の能力を持つ強力なボスにはそれに相応しい名前をつけて呼ぶんだ!
そしてその権利は最初に遭遇した者にある!
どうするオウガイ君、君なら奴に何と名付けるかね!」
「そうじゃのう、それならば儂は……」
フィーゴから水を向けられ暫し考え込む鴎垓。
そして――
「――と、名付けるかのう」
「え、何ですのそれは?」
「ははは、君らしくていいのではないかね!
自分はそれを気に入ったぞ!」
それは他の二人には馴染みがなく、しかしだからこそこの男が付ける名前としては相応しい。
フランネルは渋々と、フィーゴは嬉々としてそれを認め。
「――二人とも、どうやら目的地のようだ」
そうこうしている内に、ようやくそこへとやってきた。
一旦足を止めた一行、その光景に顔を歪めるフランネル。
彼女をそうさせるだけのものがこの空間にはあった。
「目的地……ではありませんでしたか?」
そこは大小無数のゴブリンで溢れる空間。
侵入者の出現に色めき立ち。
各々雄叫びをあげ、雪崩を打って迫り来る。
「あの群れの先に見える鏡のようなものがそうだ。
【墜界】の最奥に鎮座する核、それを外敵から最終防衛戦力――『守護者』の戦闘領域はあれを越えたところにある」
「そしてそこにレベッカも、か」
「ああそうだ」
フィーゴが示す先。
ツルリとした質感を思わせる大人三人分になろうかという円形のものが、まるで境界のようにあっちとこっちを隔てている。
中は見えないが、確かにレベッカはそこにいる。
まだ生きている。
そう信じて。
「各自準備は出来ているな、後戻りは出来ないぞ」
「はっ! 誰に物を言っていますの!」
物怖じせぬのは彼女の性分。
それゆえの強気の返答。
「私はフランネル・テイラーハンズ!
テイラーハンズ家の名において、我が前を邪魔をする不埒者には滅却の業火を食らわしてやりますことよ!」
「はっはっは、益々頼もしいではないか! では自分も名乗ろう!
『堅牢』フィーゴ・プロッターク!
我が盾に阻めぬものはなし!
あらゆる攻撃は無意味と知るがいい!」
「なんじゃそういう流れか?
ならば乗らんわけにはいかんな。
腐れ剣客の鴎垓、剣の腕しか自慢はできんがそれで十分事足りる。それを今から見せてやろう」
辺り一面に蠢く異形の群れに。
進む三人、勇ましく。
前哨戦。
開幕。
* * * * *
円形の闘技場のような空間。
そこは本来であれば、そいつだけが居ることを許された場所であった。
そいつ――鴎垓により大鬼と呼ばれたこの【墜界】のボス。
ホブなど比べ物にならぬ巨体を誇り、更には水を操る能力。
それによって築き上げたプライドはしかし、一人の男によって打ち砕かれた。
『――ゥウウウウ……』
それは生まれた時から強者であったこの大鬼の自尊心に深く傷を付け、肉体の痛みはその事実を嫌でも認識させる。
『――ウウウウウゥ……!』
だがしかし。
打ち砕かれ、粉々になって残った最後のプライド。
それがこのままで終わってなるものかといる執念を産み出していた。
大鬼が見据える先。
そこに鎮座する青黒い結晶――【墜界】の核と呼ばれる物には本来ありはしないはずのものが組み込まれていた。
それは――
「――はぁ……はぁ……オウガイ、来るな」
――それは、この大鬼によって拐われたレベッカの姿だった。
服の前面が剥ぎ取られ、隠すものがなくなった胸の真ん中には核と同じような結晶がある。
上半身だけが外に出ていて腕や下半身は核に飲み込まれてしまっていた。
そして突如、核が光出す。
「うぁあ、ああああ……!!!」
体を蝕む痛みに呻き声をあげるレベッカ。
だが核は容赦なく、少女から力を奪っていく。
その力が向かうのは――
『――オ、オオオオオオォォォォ!!!!!』
――守護者たる存在へと。
核よりもたらされる力によって体に刻まれた負傷が瞬く間に治っていく。切り離された足の指も再生し、元の姿へ。
しかしそこで止まらず。
並々と注ぎこまれた力は大鬼を更なる強者へと成長させていく。
筋肉が膨れ上がり、骨は強靭に。
それによって腕や足に巻かれていた縄が音を立てて引きちぎれていく。
『――オオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!』
――そして咆哮を鳴り響かせるその姿は、元の倍はあろかという筋肉に覆われた体となっていた。
『――フゥウ……フゥウ……!!』
まるで小さな山のようになった大鬼は呼気を吐きながら、体に満ちる力に今度こそあいつを殺してやると鼻息を荒くして息巻く。
早くこの力を思う存分に使いたい。
破壊の愉悦を得たい。
大鬼が願うその機会、それは思ったよりも早くやってきた。
時間稼ぎのために用意していた手下の反応が消え、代わりにあの忌々しい存在の気配が近づいてくるのを感じる。
それは核に飲み込まれたレベッカも同様に。
そうなってほしくはなかったのにと、引き裂かれそうになる心。
だが時間は残酷に進む。
彼女の視線の先。
領域の入り口。
そこから現れる二人の後ろより――
「ああ、やっぱり……きてしまったのか――オウガイ」
「――おう、助けに来たぞ、レベッカ。
すぐにそこから解放してやる、だからちょっとだけ待っとれよ」
最後の一人――鴎垓が血に染まる大剣を携さえて、最終決戦の場に足を踏み入れたのだった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
まったく知らない世界に転生したようです
吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし?
まったく知らない世界に転生したようです。
何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?!
頼れるのは己のみ、みたいです……?
※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。
私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。
111話までは毎日更新。
それ以降は毎週金曜日20時に更新します。
カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。

ダンジョン配信 【人と関わるより1人でダンジョン探索してる方が好きなんです】ダンジョン生活10年目にして配信者になることになった男の話
天野 星屑
ファンタジー
突如地上に出現したダンジョン。中では現代兵器が使用できず、ダンジョンに踏み込んだ人々は、ダンジョンに初めて入ることで発現する魔法などのスキルと、剣や弓といった原始的な武器で、ダンジョンの環境とモンスターに立ち向かい、その奥底を目指すことになった。
その出現からはや10年。ダンジョン探索者という職業が出現し、ダンジョンは身近な異世界となり。ダンジョン内の様子を外に配信する配信者達によってダンジョンへの過度なおそれも減った現在。
ダンジョン内で生活し、10年間一度も地上に帰っていなかった男が、とある事件から配信者達と関わり、己もダンジョン内の様子を配信することを決意する。
10年間のダンジョン生活。世界の誰よりも豊富な知識と。世界の誰よりも長けた戦闘技術によってダンジョンの様子を明らかにする男は、配信を通して、やがて、世界に大きな動きを生み出していくのだった。
*本作は、ダンジョン籠もりによって強くなった男が、配信を通して地上の人たちや他の配信者達と関わっていくことと、ダンジョン内での世界の描写を主としています
*配信とは言いますが、序盤はいわゆるキャンプ配信とかブッシュクラフト、旅動画みたいな感じが多いです。のちのち他の配信者と本格的に関わっていくときに、一般的なコラボ配信などをします
*主人公と他の探索者(配信者含む)の差は、後者が1~4まで到達しているのに対して、前者は100を越えていることから推察ください。
*主人公はダンジョン引きこもりガチ勢なので、あまり地上に出たがっていません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる