腐れ剣客、異世界奇行

アゲインスト

文字の大きさ
上 下
11 / 72
第一章 腐れ剣客、異世界に推参

腐れ剣客の特技について

しおりを挟む
 
「んー? さっきの一体どうやったのか、じゃと?」
 
 ザグリ。
 話し掛けられた隙を突こうを影から忍びよってきていたゴブリンの胸部を一突きし、顔も向けぬまま処理した鴎垓。
 その背中に張り付くようにして周りを取り巻く敵の集団に剣を構えているレベッカは、どうしてこうもタイミングが悪いんだと胸の中で悪態をつきながらもそれに同意する。
 
「そうだ、あれは私の剣技を参考にしたんだろう?」
  
「ほう、何故そう思う。
 儂が前から知っとったということはないのか?」
 
 鴎垓が最後に残ったホブゴブリン数匹を相手に大立ち回りをしこれをまとめて斬殺、したのは良かったものの獲物を探すために移動していたのが悪かったのか、戦闘音を聞き付けた別の集団による奇襲を受けてしまっていた。
 
 それは鴎垓の剣技についていてもたってもいられなかったレベッカが彼に近寄っていく、戦闘が終わって皆の気が緩んでいたまさにその時のことだった。
 左右から現れた二つの群れに分断された彼らはそのままの状態で戦うことを余儀なくされていたのである。
 
 
 
 しかしその襲撃はいささか考えが甘かった。
 新人たちの方を囲んだ連中は言わずもがな、フィーゴの一喝で立て直した三人が彼の指揮の下拙いながらも纏まって動き、これまで見学だけだったフランネル一行の従者部隊がその護衛能力を遺憾なく発揮して主人の安全を守るために奔走。
 フランネル自身も何やら火球のようなものを放って自ら不埒者を排除していっている。
 
 そっちを攻撃するのは不味いを考えたゴブリンたちは孤立した二人を先に殺そうと標的を鴎垓たちに変えたのだが、やはりというべきか。
 戦闘の余韻が残っていた鴎垓が奇襲がくることを瞬時に悟りレベッカへ警告を放ち、それに彼女も呼応する形で背と背を向け合い互いの死角を補う今の陣形を作っていたのだ。
 それによってゴブリンも攻めるに攻めれず、戦況は膠着状態。
 このままあっちが終わるのを待っていればというところで先の鴎垓の発言である。
 
 正確にはレベッカからの疑問ではあるが、それに対する答えを簡単に言うつもりはないのかはぐらかすような物言いをする鴎垓。
 だがそれを戯れ言をと、レベッカは切って捨てる。
 
「ありえんな、この国どころかこの大陸出身でもないのはお前が自分で言ったことだ。私が扱う『操剣法』はこの大陸で発展した剣法、他の大陸にはまた別の戦い方がある。
 大陸間での交流はあまり盛んとは言えないからな、技術の流出もほぼない。その状況で都合よくお前が知っていたと考えるほど、私は楽天家ではないつもりだ」
 
 それにお前の技には抜けがあった。正当な使い手から学んだものではあるまい――とやけに自信を持って答えるレベッカ。
 その『何がなんでも話してもらうぞ』というような気迫が何となく面白かった鴎垓は彼女が聞きたがっている自分の秘密について喋ることを決めた。
 
「そこまでわかっとるならまあ、ええじゃろ。
 確かに先程使ったのはお主の動きから学んだものじゃ。
 何せこの長剣とやら、儂がこれまで修めた剣技とは少々相性が悪くてなぁ。とはいえ無いものねだりはできんからの、そのためにはこうするのが手っ取り早かったんじゃよ」
 
「……一体、どうやって?
 私ですら何年も掛かってまだこの程度なのに、お前のそれは私の何歩も先を行っている。一体いつの間にそれだけの技量を身に付けた!
 そうできるだけの理由が何かあるはずだ!
 教えろ!」
 
 切羽詰まったようなレベッカの様子にいぶかしみながら、隠すつもりもない鴎垓は攻撃の隙を伺うゴブリンの群れに視線での牽制を入れながら、ゆっくりと話をしだす。
 
 
 
「他の者が何と言っとるかは知らんが、儂はこれのことこう呼んでおる
 戦いにおいてなお揺れぬ心の状態――”禅”とな」
 
 
  
「ゼン?……何だそれは」
 
「まあ要するにってやつじゃよ。
 まあ儂の場合本来のものとは意味合いが違っておるがの」
 
 レベッカが馴染みのない言葉に戸惑うのを分かりつつも、そうとしか言えない鴎垓はあくまで自分なりの解釈で話を進める。
 最初から全てを理解してもらえるとは考えていない。
 それでも彼女の疑問を解消するためには必要なことだった。
 
「禅とは本来悟りを得るためのものではあるが、儂のは言うなれば『精神時間の延長』とでもいうべきものじゃ。
 死に瀕した際に風景がやけにゆっくり見える、何て話を聞いたことはないか?
 儂はそれと同じようなことが自分の意思で起こせるのよ」
 
「……それをするとどうなる?」
 
「まあまずは戦っとる相手の動きが緩慢に見える。
 そいつが何を起点にし、どのような技を繰り出すつもりなのか。
 そういったことを考える余裕が生まれると、その次にどう対応すればよいかを選べるようになる。
 受けるか、避けるか、それとも反撃するか」
 
 ――それだけでも優位になるにはかわりないが、そこで終わらんのが禅の深さじゃ。
 
 そういって鴎垓は襲いかかってくるゴブリンを軽くあしらいながら、レベッカへの説明を続けていく。
 レベッカも周囲を取り巻く敵の動きに目を配りつつ、鴎垓の声に耳を傾ける。
 
「しかしこの集中状態――立禅りつぜんはあくまで戦闘時の利用法。
 肝要なのはその次の段階――座禅ざぜんにこそある。
 これこそがお主の技をこの短時間で身に付けた儂の秘技に他ならん」
 
 ほれ、儂が一人で戦う前に地面に座っておっただろう――と言われて、レベッカははっと思い出す。
 確かにあの時、ゴブリンが現れるまでの間にこの男は目を瞑り、不思議な格好で座り込んでいた。あれが鴎垓のいう座禅とやらだったのか、しかしその時間は十分となかったはず。
 
「座禅とは自我を意識の内に深く沈めることで”精神の世界”へと降り立つ技。
 そして精神の世界は儂のによって作られた空間じゃ。
 現実に酷似した環境、参考にした者の動きそのままの虚像を再現でき、それを相手にいくらでも修行を重ねることができる。
 これによってお主の剣技を身に付けたというわけじゃ」
 
 
 
「――……なるほど、言葉のほとんどは理解できなかったがつまり、お前にはそんなことを可能とするだけの能力があるということか。
 なんだ、そういうことだったのか」
 
「ほう? やけにすんなり納得するのう。
 これでも儂、結構馬鹿馬鹿しい話をしとる自覚があるんじゃが」
 
「ここは神がおわす世界だ。
 その御力を与えられ人智を越えた現象を起こせるようになった灯士というのは枚挙に暇がない。
 私たちが”功徳”と呼ぶ能力――それと同じようなものだと考えればお前のはまだ普通だ」
 
 疑問が解消してスッキリした様子のレベッカ。
 鴎垓の謎の修得速度も自分の理解の及ぶものであったためか、すんなりと納得できたようである。
 しかしそれを聞かされた鴎垓の反応はこれまでとは違う、どこか暗いものが滲んでいた。
 
「……はは、常識的か。
 これのせいで道場の連中には蛇蝎の如く嫌われておったんじゃがのう。ここじゃあそれも人並みなのか、そうか……そうか」
 
「くっ、どうした鴎垓、何かあったか!
 ああもう、どうしてこう数が多いんだ!
 いくら倒しても埒があかないぞ!」
 
 敵の攻撃を弾いたためか、若干苦しそうな声を上げそのあまりの数に文句を叫ぶレベッカ。
 彼女のその姿に毒気を抜かれた鴎垓は吐き出しかけた言葉を飲み込み、目の前の戦いへと意識を集中させる。
 
 
 
「いいや、何でもない。
 ちょいと昔を思い出しておっただけじゃよ。
 それにしても連中、また勢いが増してきおったな。若手らの負担をこれ以上増やせばもしもがある。いい加減話はこれまでにしてあちらの加勢に行くとしようレベッカ殿」
 
「ああそうだな!
 いくぞ鴎垓、」
 
 
 
 そうして二人は協力して囲いを突破。
 押し込められ気味だったフィーゴたちの方へと合流するのだった。
 それによって戦力が纏まった彼らは次々にゴブリンたちを薙ぎ倒していくのだった。
 
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

処理中です...