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第一章 腐れ剣客、異世界に推参
腐れ剣客の特技について
しおりを挟む「んー? さっきの一体どうやったのか、じゃと?」
ザグリ。
話し掛けられた隙を突こうを影から忍びよってきていたゴブリンの胸部を一突きし、顔も向けぬまま処理した鴎垓。
その背中に張り付くようにして周りを取り巻く敵の集団に剣を構えているレベッカは、どうしてこうもタイミングが悪いんだと胸の中で悪態をつきながらもそれに同意する。
「そうだ、あれは私の剣技を参考にしたんだろう?」
「ほう、何故そう思う。
儂が前から知っとったということはないのか?」
鴎垓が最後に残ったホブゴブリン数匹を相手に大立ち回りをしこれをまとめて斬殺、したのは良かったものの獲物を探すために移動していたのが悪かったのか、戦闘音を聞き付けた別の集団による奇襲を受けてしまっていた。
それは鴎垓の剣技についていてもたってもいられなかったレベッカが彼に近寄っていく、戦闘が終わって皆の気が緩んでいたまさにその時のことだった。
左右から現れた二つの群れに分断された彼らはそのままの状態で戦うことを余儀なくされていたのである。
しかしその襲撃はいささか考えが甘かった。
新人たちの方を囲んだ連中は言わずもがな、フィーゴの一喝で立て直した三人が彼の指揮の下拙いながらも纏まって動き、これまで見学だけだったフランネル一行の従者部隊がその護衛能力を遺憾なく発揮して主人の安全を守るために奔走。
フランネル自身も何やら火球のようなものを放って自ら不埒者を排除していっている。
そっちを攻撃するのは不味いを考えたゴブリンたちは孤立した二人を先に殺そうと標的を鴎垓たちに変えたのだが、やはりというべきか。
戦闘の余韻が残っていた鴎垓が奇襲がくることを瞬時に悟りレベッカへ警告を放ち、それに彼女も呼応する形で背と背を向け合い互いの死角を補う今の陣形を作っていたのだ。
それによってゴブリンも攻めるに攻めれず、戦況は膠着状態。
このままあっちが終わるのを待っていればというところで先の鴎垓の発言である。
正確にはレベッカからの疑問ではあるが、それに対する答えを簡単に言うつもりはないのかはぐらかすような物言いをする鴎垓。
だがそれを戯れ言をと、レベッカは切って捨てる。
「ありえんな、この国どころかこの大陸出身でもないのはお前が自分で言ったことだ。私が扱う『操剣法』はこの大陸で発展した剣法、他の大陸にはまた別の戦い方がある。
大陸間での交流はあまり盛んとは言えないからな、技術の流出もほぼない。その状況で都合よくお前が知っていたと考えるほど、私は楽天家ではないつもりだ」
それにお前の技には抜けがあった。正当な使い手から学んだものではあるまい――とやけに自信を持って答えるレベッカ。
その『何がなんでも話してもらうぞ』というような気迫が何となく面白かった鴎垓は彼女が聞きたがっている自分の秘密について喋ることを決めた。
「そこまでわかっとるならまあ、ええじゃろ。
確かに先程使ったのはお主の動きから学んだものじゃ。
何せこの長剣とやら、儂がこれまで修めた剣技とは少々相性が悪くてなぁ。とはいえ無いものねだりはできんからの、そのためにはこうするのが手っ取り早かったんじゃよ」
「……一体、どうやって?
私ですら何年も掛かってまだこの程度なのに、お前のそれは私の何歩も先を行っている。一体いつの間にそれだけの技量を身に付けた!
そうできるだけの理由が何かあるはずだ!
教えろ!」
切羽詰まったようなレベッカの様子にいぶかしみながら、隠すつもりもない鴎垓は攻撃の隙を伺うゴブリンの群れに視線での牽制を入れながら、ゆっくりと話をしだす。
「他の者が何と言っとるかは知らんが、儂はこれのことこう呼んでおる
戦いにおいてなお揺れぬ心の状態――”禅”とな」
「ゼン?……何だそれは」
「まあ要するに無我の境地ってやつじゃよ。
まあ儂の場合本来のものとは意味合いが違っておるがの」
レベッカが馴染みのない言葉に戸惑うのを分かりつつも、そうとしか言えない鴎垓はあくまで自分なりの解釈で話を進める。
最初から全てを理解してもらえるとは考えていない。
それでも彼女の疑問を解消するためには必要なことだった。
「禅とは本来悟りを得るためのものではあるが、儂のは言うなれば『精神時間の延長』とでもいうべきものじゃ。
死に瀕した際に風景がやけにゆっくり見える、何て話を聞いたことはないか?
儂はそれと同じようなことが自分の意思で起こせるのよ」
「……それをするとどうなる?」
「まあまずは戦っとる相手の動きが緩慢に見える。
そいつが何を起点にし、どのような技を繰り出すつもりなのか。
そういったことを考える余裕が生まれると、その次にどう対応すればよいかを選べるようになる。
受けるか、避けるか、それとも反撃するか」
――それだけでも優位になるにはかわりないが、そこで終わらんのが禅の深さじゃ。
そういって鴎垓は襲いかかってくるゴブリンを軽くあしらいながら、レベッカへの説明を続けていく。
レベッカも周囲を取り巻く敵の動きに目を配りつつ、鴎垓の声に耳を傾ける。
「しかしこの集中状態――立禅はあくまで戦闘時の利用法。
肝要なのはその次の段階――座禅にこそある。
これこそがお主の技をこの短時間で身に付けた儂の秘技に他ならん」
ほれ、儂が一人で戦う前に地面に座っておっただろう――と言われて、レベッカははっと思い出す。
確かにあの時、ゴブリンが現れるまでの間にこの男は目を瞑り、不思議な格好で座り込んでいた。あれが鴎垓のいう座禅とやらだったのか、しかしその時間は十分となかったはず。
「座禅とは自我を意識の内に深く沈めることで”精神の世界”へと降り立つ技。
そして精神の世界は儂の想像によって作られた空間じゃ。
現実に酷似した環境、参考にした者の動きそのままの虚像を再現でき、それを相手にいくらでも修行を重ねることができる。
これによってお主の剣技を身に付けたというわけじゃ」
「――……なるほど、言葉のほとんどは理解できなかったがつまり、お前にはそんなことを可能とするだけの能力があるということか。
なんだ、そういうことだったのか」
「ほう? やけにすんなり納得するのう。
これでも儂、結構馬鹿馬鹿しい話をしとる自覚があるんじゃが」
「ここは神がおわす世界だ。
その御力を与えられ人智を越えた現象を起こせるようになった灯士というのは枚挙に暇がない。
私たちが”功徳”と呼ぶ能力――それと同じようなものだと考えればお前のはまだ普通だ」
疑問が解消してスッキリした様子のレベッカ。
鴎垓の謎の修得速度も自分の理解の及ぶものであったためか、すんなりと納得できたようである。
しかしそれを聞かされた鴎垓の反応はこれまでとは違う、どこか暗いものが滲んでいた。
「……はは、常識的か。
これのせいで道場の連中には蛇蝎の如く嫌われておったんじゃがのう。ここじゃあそれも人並みなのか、そうか……そうか」
「くっ、どうした鴎垓、何かあったか!
ああもう、どうしてこう数が多いんだ!
いくら倒しても埒があかないぞ!」
敵の攻撃を弾いたためか、若干苦しそうな声を上げそのあまりの数に文句を叫ぶレベッカ。
彼女のその姿に毒気を抜かれた鴎垓は吐き出しかけた言葉を飲み込み、目の前の戦いへと意識を集中させる。
「いいや、何でもない。
ちょいと昔を思い出しておっただけじゃよ。
それにしても連中、また勢いが増してきおったな。若手らの負担をこれ以上増やせばもしもがある。いい加減話はこれまでにしてあちらの加勢に行くとしようレベッカ殿」
「ああそうだな!
いくぞ鴎垓、」
そうして二人は協力して囲いを突破。
押し込められ気味だったフィーゴたちの方へと合流するのだった。
それによって戦力が纏まった彼らは次々にゴブリンたちを薙ぎ倒していくのだった。
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