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呼び出しは危険な薄荷の香り
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「それで、すっぱりお断りしてきたわけか」
豪勢な作りの装飾で溢れた一室に、そのお方は居た。
顔が映るほどに磨きあげられた机の上に下品に足を乗せ、制服を着崩して胸元を盛大に開いている。しかしその姿が様になっているのだからイケメンというのは実に得な生き物だと思いながら、先ほどの教室での出来事を報告する私。
「はい、その通りでございます――殿下」
教室でロベルタ様からクッキーはいかがかと言われ、それをきっぱりいらないと答えたのに対し固まる周囲の方々。
事態を理解できないのかえーと……などと言っているロベルタ様の周りに居る方たちが慌てた様子であたふたと説明しようとしていたところ、教室の入り口からまた訪問者がやってきた。
それはこの生徒会室の扉の横、私の後ろで腕を組みむっつりと黙り込んでいる黒髪の青年、ホルスト様。
この国の王子である目の前の破廉恥なお方――フェルナンド様の第一の側近にして剣の天才。
護衛として今まで数々の活躍をされてこられた方の登場に教室は色めき立ち、ロベルタ様も私の対応など忘れ彼に挨拶をしようとしたところあっさりと無視をされ。
私に近寄ってきては短く来いと言うだけいってさっさと行ってしまうのだから、いつものこととはいえ教室まで来ることはしてほしくなかったと思いつつ、読んでいた本を置いてその後ろについていくと案の定、殿下が待つ生徒会室へと連れてこられたというわけだ。
そして入ったときにはもうこの体勢になっていた殿下はどこから情報を得たのか知らないが、さっき教室であった出来事について聞いてきた。
別にどうでもよかったのでそのままのことを答えた結果、返ってきたのは先ほどの台詞というわけである。
「ふうん、いつものこととはいえ相手が悪かったな。
わざわざ留学生相手にそこまで強堅な態度をとらんでも」
「食べられないものを食べることはできないと、そうはっきりと言っただけにございます」
「はん、それとこれとは話が別だぞアリス・キャンベル。
貴族として周囲との関係に罅を入れるようなことは避けるべきだ」
あなただけには言われたくない――とは思いつつも外面だけはいいこの方はその交渉術によって様々な人脈を独自に築いていると聞く。今回のこともおそらくそこからの情報であろう。
どこに耳や目があるか分からないところが実に恐ろしい、だから私はこの方に逆らうようなことはしないのだ。
ただ、譲れないところがあるだけで。
「殿下のお言葉はもっともでございますが、できぬことはできません。
私は他人を受け入れられないのです、何故なら――」
「――吐いてしまうから、であろう?
もうそれも聞き飽きたわ」
言おうとしたことを先に言われ、若干むっとする私。
やれやれとでも言いたげな殿下の顔に氷のような視線を向けつつ、あくまで表情は冷静に。
「でしたら殿下もあまり無理を仰らないで下さいませ」
「やれやれ、チビの癖に頑固なのが玉に傷というか、なんというか……」
「無駄話はよしにしましょう。
それで、本日は一体どんなご用件でござますか?」
殿下の言葉を遮り、私はさっさと本題に入るように言う。
そもそもどうしてここに連れてこられたのか全く分からない――ということでもない。
「ああそうだったな、今日お前を呼んだのは他でもない。
アリス・キャンベルよ、そなたに至急調べて貰いたいものがある」
そして案の定、殿下が今思い出したかのように机に取り出したのは――一つの木製の箱。
机の上を滑らせこちらへと渡した殿下はそれを開けるように言い、私はそれに従って木箱の蓋を開ける。
途端に薫る匂い――これは……。
「これは……薄荷ですか?」
「匂いだけならな、だがこれはそんなものとは比べ物にならんほどに高価なものだ」
その言葉にいぶかしむ私に対し、殿下は面白そうなものものでも見るような顔をしてこう言う。
「何故ならこれは――特殊な製法で作られた麻薬なのだからな」
豪勢な作りの装飾で溢れた一室に、そのお方は居た。
顔が映るほどに磨きあげられた机の上に下品に足を乗せ、制服を着崩して胸元を盛大に開いている。しかしその姿が様になっているのだからイケメンというのは実に得な生き物だと思いながら、先ほどの教室での出来事を報告する私。
「はい、その通りでございます――殿下」
教室でロベルタ様からクッキーはいかがかと言われ、それをきっぱりいらないと答えたのに対し固まる周囲の方々。
事態を理解できないのかえーと……などと言っているロベルタ様の周りに居る方たちが慌てた様子であたふたと説明しようとしていたところ、教室の入り口からまた訪問者がやってきた。
それはこの生徒会室の扉の横、私の後ろで腕を組みむっつりと黙り込んでいる黒髪の青年、ホルスト様。
この国の王子である目の前の破廉恥なお方――フェルナンド様の第一の側近にして剣の天才。
護衛として今まで数々の活躍をされてこられた方の登場に教室は色めき立ち、ロベルタ様も私の対応など忘れ彼に挨拶をしようとしたところあっさりと無視をされ。
私に近寄ってきては短く来いと言うだけいってさっさと行ってしまうのだから、いつものこととはいえ教室まで来ることはしてほしくなかったと思いつつ、読んでいた本を置いてその後ろについていくと案の定、殿下が待つ生徒会室へと連れてこられたというわけだ。
そして入ったときにはもうこの体勢になっていた殿下はどこから情報を得たのか知らないが、さっき教室であった出来事について聞いてきた。
別にどうでもよかったのでそのままのことを答えた結果、返ってきたのは先ほどの台詞というわけである。
「ふうん、いつものこととはいえ相手が悪かったな。
わざわざ留学生相手にそこまで強堅な態度をとらんでも」
「食べられないものを食べることはできないと、そうはっきりと言っただけにございます」
「はん、それとこれとは話が別だぞアリス・キャンベル。
貴族として周囲との関係に罅を入れるようなことは避けるべきだ」
あなただけには言われたくない――とは思いつつも外面だけはいいこの方はその交渉術によって様々な人脈を独自に築いていると聞く。今回のこともおそらくそこからの情報であろう。
どこに耳や目があるか分からないところが実に恐ろしい、だから私はこの方に逆らうようなことはしないのだ。
ただ、譲れないところがあるだけで。
「殿下のお言葉はもっともでございますが、できぬことはできません。
私は他人を受け入れられないのです、何故なら――」
「――吐いてしまうから、であろう?
もうそれも聞き飽きたわ」
言おうとしたことを先に言われ、若干むっとする私。
やれやれとでも言いたげな殿下の顔に氷のような視線を向けつつ、あくまで表情は冷静に。
「でしたら殿下もあまり無理を仰らないで下さいませ」
「やれやれ、チビの癖に頑固なのが玉に傷というか、なんというか……」
「無駄話はよしにしましょう。
それで、本日は一体どんなご用件でござますか?」
殿下の言葉を遮り、私はさっさと本題に入るように言う。
そもそもどうしてここに連れてこられたのか全く分からない――ということでもない。
「ああそうだったな、今日お前を呼んだのは他でもない。
アリス・キャンベルよ、そなたに至急調べて貰いたいものがある」
そして案の定、殿下が今思い出したかのように机に取り出したのは――一つの木製の箱。
机の上を滑らせこちらへと渡した殿下はそれを開けるように言い、私はそれに従って木箱の蓋を開ける。
途端に薫る匂い――これは……。
「これは……薄荷ですか?」
「匂いだけならな、だがこれはそんなものとは比べ物にならんほどに高価なものだ」
その言葉にいぶかしむ私に対し、殿下は面白そうなものものでも見るような顔をしてこう言う。
「何故ならこれは――特殊な製法で作られた麻薬なのだからな」
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