いりません、どうせ吐くので

アゲインスト

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夕食は薄めた麦粥

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「と、いうことがありました」

「そうか」


 バウザー様と別れた私は馬車に乗り、学園から帰ってきた家で父との夕食を行っていた。
 私の報告を聞いた父、ダウボラン・キャンベルはその顔に皺を寄せることも、ましてや目を見開いてみせることもない。
 同僚の武官たちの間で鉄仮面と呼ばれるのも当然の不動さだ。
 そんな父の特徴をそのまま受け継いだ私はとやかく言う資格はないだろうが。


「明日の学園では上手く立ち回るように」

「承知しております」


 父が皿の上のステーキにナイフを通し、音もなく切り裂いていく。
 長いテーブルの端の方に座る私には先程のようにその匂いが届くことがないため、安心して食事が出来ていた。
 まあ、食事と言っても――水で薄くした麦粥なのだが。


 だがこれが私にとって唯一口にできるもの。
 冷たいそれをスプーンで掬い、味を認識する前に飲み込む。
 喉の奥からせり上がる衝動をひたすらに我慢し、胃の中へ粥が落ちるのを待ち、無事たどり着いたことに一息つく。


「ごちそうさまです」

「もういいのか」

「はい、今日は少々おりますので」


 だがやはり、少しだけ吐き気がする。
 あのミネストローネの匂いを嗅いだからだろう。
 そのせいで折角の食べ物を残してしまった。
 わざわざ作ってくれたに……料理人に申し訳なく思い胸の内で謝罪しながら席を立つ。


「アリスよ……」

「大丈夫ですわお父様、いつものことですので」


 何か言おうとした父に対し先んじるように声を出し。
 そして軽く頭を下げて、それから食卓を立ち去る。
 背後で父が無意識に母の名を呟くのが聞こえた。
 それにズキリと、胸が痛む。


 死んでしまった今もまだ私たちを縛り付ける母の幻影。
 私がこんな風になったのも、父が再び鉄仮面を被るようになったのも、全ては母の深い愛が発端であり。




 だからこそ私は、誰からの愛も受け入れることができないでいる。
 
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