いりません、どうせ吐くので

アゲインスト

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告白は愛の籠ったミネストローネで

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「アリス、俺はお前のことが好きだ。
 だからどうかこの手料理を食べてはくれないだろうか」


 目の前の男性が背の低い私に合わせて地面に膝を着き、手元のトレーと共に深皿を差し出してくる。
 そこにあるのはミネストローネ――具だくさんの野菜スープ。
 トマトの香りが鼻へと届き、思わずさっと手で覆う。


「申し訳ございませんバウザー様、私はそれをいただくわけにはいきません」

「そんな、どうしても駄目なのかい」


 悲しそうな表情をする彼には悪いが、本当に悪いとは思うが、それでも私はそれを受けとるわけには、受け入れて食べるわけにはいかない。


「申し訳ありません」

「どうしてだ、俺は君をこんなにも、愛しているのに……どうして……」


 わけが分からないというようにどうしてと、うわ言のように繰り返すバウザー様。確かこの方は伯爵家の長男、精強な肉体と芸術品のような顔のお陰でこれまでさぞちやほやされてきたことだろう。
 だからこそ、こうして拒絶されるとは微塵も思っていなかったらしい。

「失礼致します」

「そんな、待ってくれアリス!」


 そう言って退室しようとする私に追い縋ろうとするバウザー様には悪いですが、これ以上の問答は無駄なだけ。
 私は背を向けて、彼から離れていく。
 その様子を彼はただ、涙を流しながら見送る。


 
 これは儀式。
 建国王と妃の馴れ初めから始まったがゆえに、自分勝手な行動は許されない。
 自らの好物を自ら手料理し、それを愛の告白と共に相手に差し出す。
 それが相手が口にしてくれたなら、晴れて二人は結ばれる。
 しかし相手に拒否をされたなら、大人しく引き下がらなければならないのだ。


「知っていましてよ、あなたが私の容姿に引かれただけの方だというのは」


 そして私はこれまで、およそ二十を越える数の告白を受け、その全てを断っている。
 それはこれからも変わらないだろう。



「誰かの身勝手な愛はもう懲り懲りよ」



 私に愛しい人は――いらない。
 その愛も、その料理も、どうせ吐いてしまうのだから。

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