1 / 5
告白は愛の籠ったミネストローネで
しおりを挟む
「アリス、俺はお前のことが好きだ。
だからどうかこの手料理を食べてはくれないだろうか」
目の前の男性が背の低い私に合わせて地面に膝を着き、手元のトレーと共に深皿を差し出してくる。
そこにあるのはミネストローネ――具だくさんの野菜スープ。
トマトの香りが鼻へと届き、思わずさっと手で覆う。
「申し訳ございませんバウザー様、私はそれをいただくわけにはいきません」
「そんな、どうしても駄目なのかい」
悲しそうな表情をする彼には悪いが、本当に悪いとは思うが、それでも私はそれを受けとるわけには、受け入れて食べるわけにはいかない。
「申し訳ありません」
「どうしてだ、俺は君をこんなにも、愛しているのに……どうして……」
わけが分からないというようにどうしてと、うわ言のように繰り返すバウザー様。確かこの方は伯爵家の長男、精強な肉体と芸術品のような顔のお陰でこれまでさぞちやほやされてきたことだろう。
だからこそ、こうして拒絶されるとは微塵も思っていなかったらしい。
「失礼致します」
「そんな、待ってくれアリス!」
そう言って退室しようとする私に追い縋ろうとするバウザー様には悪いですが、これ以上の問答は無駄なだけ。
私は背を向けて、彼から離れていく。
その様子を彼はただ、涙を流しながら見送る。
これは儀式。
建国王と妃の馴れ初めから始まったがゆえに、自分勝手な行動は許されない。
自らの好物を自ら手料理し、それを愛の告白と共に相手に差し出す。
それが相手が口にしてくれたなら、晴れて二人は結ばれる。
しかし相手に拒否をされたなら、大人しく引き下がらなければならないのだ。
「知っていましてよ、あなたが私の容姿に引かれただけの方だというのは」
そして私はこれまで、およそ二十を越える数の告白を受け、その全てを断っている。
それはこれからも変わらないだろう。
「誰かの身勝手な愛はもう懲り懲りよ」
私に愛しい人は――いらない。
その愛も、その料理も、どうせ吐いてしまうのだから。
だからどうかこの手料理を食べてはくれないだろうか」
目の前の男性が背の低い私に合わせて地面に膝を着き、手元のトレーと共に深皿を差し出してくる。
そこにあるのはミネストローネ――具だくさんの野菜スープ。
トマトの香りが鼻へと届き、思わずさっと手で覆う。
「申し訳ございませんバウザー様、私はそれをいただくわけにはいきません」
「そんな、どうしても駄目なのかい」
悲しそうな表情をする彼には悪いが、本当に悪いとは思うが、それでも私はそれを受けとるわけには、受け入れて食べるわけにはいかない。
「申し訳ありません」
「どうしてだ、俺は君をこんなにも、愛しているのに……どうして……」
わけが分からないというようにどうしてと、うわ言のように繰り返すバウザー様。確かこの方は伯爵家の長男、精強な肉体と芸術品のような顔のお陰でこれまでさぞちやほやされてきたことだろう。
だからこそ、こうして拒絶されるとは微塵も思っていなかったらしい。
「失礼致します」
「そんな、待ってくれアリス!」
そう言って退室しようとする私に追い縋ろうとするバウザー様には悪いですが、これ以上の問答は無駄なだけ。
私は背を向けて、彼から離れていく。
その様子を彼はただ、涙を流しながら見送る。
これは儀式。
建国王と妃の馴れ初めから始まったがゆえに、自分勝手な行動は許されない。
自らの好物を自ら手料理し、それを愛の告白と共に相手に差し出す。
それが相手が口にしてくれたなら、晴れて二人は結ばれる。
しかし相手に拒否をされたなら、大人しく引き下がらなければならないのだ。
「知っていましてよ、あなたが私の容姿に引かれただけの方だというのは」
そして私はこれまで、およそ二十を越える数の告白を受け、その全てを断っている。
それはこれからも変わらないだろう。
「誰かの身勝手な愛はもう懲り懲りよ」
私に愛しい人は――いらない。
その愛も、その料理も、どうせ吐いてしまうのだから。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが


だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでのこと。
……やっぱり、ダメだったんだ。
周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中
※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。

【完結】誠意を見せることのなかった彼
野村にれ
恋愛
婚約者を愛していた侯爵令嬢。しかし、結婚できないと婚約を白紙にされてしまう。
無気力になってしまった彼女は消えた。
婚約者だった伯爵令息は、新たな愛を見付けたとされるが、それは新たな愛なのか?

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる