5 / 54
第一章『最も天国に近い地獄編』
第5話「毒草ソムリエ」
しおりを挟む疑似的車酔いにより三半規管に甚大なダメージを負った俺は、その回復にしばらくの時間を要した。
まぁステータスを確認してみたところ実際にダメージを受けていたわけだが、このダメージも俺の吐き気が収まる頃には回復していた。
どうやら多少のダメージならば自然回復するようだ。
そして、体力が戻ったからにはやるべきことがある。むろん食料の選別だ。
状況を整理しよう。
俺が今立っている場所はかつてどこかの馬鹿どもが雲の上に作り上げた町の廃墟だ。
町全体に立ち込めた深い霧のせいで羽の生えた虫は生息しない。鳥だってこんな雲の上まではやってこないのだ。
しかし足元に広がる雲海の中には“巨大な翼を持った恐ろしい声で鳴く何か”の影がいくつか確認できる。
触らぬ神にたたりなし。
そして、特筆すべきは町全体を定期的に吹き抜ける“突風”。
これによりこの地には背の高い植物が一切生えない。木々なんてもってのほかだ。
他の生物もこれによって淘汰されたのだろう。
現状この廃墟にあるのは、背の低い植物と、虫とカエルとトカゲくらいなものである。
「これいけそうじゃねえか?」
俺が初めに目をつけたのは、花弁のような葉を四方へ広げた黄色い植物だった。
なんかたんぽぽとか菊とかハンカチとか、黄色には優しいイメージがつきものだろうという安直な考えだ。
善は急げ。
俺は葉っぱを一枚もぎ取り、おそるおそるかじってみた。
しゃくしゃくと小気味のいい音を立て、俺はこれを咀嚼する。
……あれ? 意外といけるな。
少し酸っぱくて青臭いのが気になるが、後味が爽やかだし葉が厚いから食いでもある。
よしよし、幸先がいいな。
これを仮に「黄色い花」と呼ぶことにして、ひととおり採集しよう。
そう考えて「黄色い花」に手を伸ばした時だった。何かが「黄色い花」の中でうごめいているのが見えた。
「……?」
なんだろう?
俺は直上から「黄色い花」を覗き込んでみる。
すると、そこには身動きがとれなくなり、惨めにもがく小さな虫の姿があった。
……よく見ると少し溶けている。
「食虫植物じゃねえか!!」
悲しいことに、俺の思考レベルは虫と同じだった。
あれ? そういえば心なしか舌がしびれるような……
----------------------------------------------------------------
クワガワ・キョウスケ Lv1
農民
HP 15/15
MP 4/4
こうげき 6
ぼうぎょ 8
すばやさ 9
めいちゅう 11
かしこさ 15
麻痺(微弱)
----------------------------------------------------------------
ああっ!? 状態異常かかってんじゃねえか!!
口の中に残った欠片を急いで吐き出す。驚きのあまり動悸がおかしくなってしまった。
転生早々に食中毒で死ぬなんざ、それこそ惨めポイントが溜まっちまうぞ。
……しかし、麻痺か。
推測するに、この植物は集まってきた虫たちを、こう麻痺毒的な何かで動けなくしてから捕食しているのだろう。
逆に考えれば、虫が動けなくなる程度の毒である。
しかも純粋な毒でなく舌が少し痺れる程度の麻痺毒、まさかこれで人が死ぬということもあるまい。
だったら
「食えるじゃん」
時として切り替えの早さも重要である。
よくよく考えたら現世では虫の食った野菜も普通に食べてたしな。虫を食った野菜は食ったことないが。
ともあれ食えるものを見つけただけで収穫だ。よし、この調子でどんどん味見していこう。
なんだか楽しくなってきて、俺は色んな植物を一口ずつかじりまくっていった。
見るからにヤバそうなものは避けて、絶妙にいけそうなものを次々に味見していく。
青いの黄色いの尖ったの丸いの。
ほとんどがとても食用にできないものばかりで、あまりのまずさに口に入れた瞬間吐き出してしまうものもあったが、アタリもいくつかあった。結果は上々である。
そしてこれで最後にしようと思って、俺は足元に生えたある植物を見下ろしていた。
……なんて形容したらいいんだろうなあ、これ。
例えるなら、そうだなぁ、真っ赤なゼリービーンズの実った植物?
いかにも「危険です」と主張しているような色合いだが、いかんせんこの時の俺は気が大きくなっていたのだ。
「食っちゃえ」
たわわに実ったゼリービーンズを一粒もぎとり、それはもうおやつくらいの感覚で口の中に放り込んだ。
奥歯で感じるぷちりとした食感、はちきれんばかりのゼリービーンズからみずみずしいエキスがほとばしり、それと同時に口の中に広がる濃厚な――辛味。
「ヴぉえええええええええええっ!!」
----------------------------------------------------------------
クワガワ・キョウスケ Lv1
農民
HP 7/15
MP 4/4
こうげき 6
ぼうぎょ 8
すばやさ 9
めいちゅう 11
かしこさ 15
麻痺(中)
毒(中)
幻覚(微弱)
混乱(微弱)
----------------------------------------------------------------
俺は地べたに膝をつき、口の中のものと胃の中の残った僅かなものをまとめてぶちまけた。
し、死ぬ!! HP半分以上持ってかれたし、ありえないくらい状態異常ついてる!!
手足がしびれて自由に動けない! こんな状態でさっきの強風が起こったら……いや! その前に毒で死ぬ! HPが現在進行形でゴリゴリ減っている!
チクショウ! 食わなきゃよかった! ファンタジー世界だからって油断した! こんなの現世でも散々学んだことなのに、このままだと本当に死ぬ! ドジっこ女神様助けて!!
「……なにをやっておるんじゃ、おぬしは」
様々な状態異常と、なにより口の中を刺すような辛味にのたうち回っていると、背後から何者かに声をかけられた。
苦しみながらも振り返ってみれば、そこにあるのは巨大な岩と、単なる瓦礫の山ばかりで声の主は一向に見つからない。
なんだこのゼリービーンズ幻聴作用でもあるのか!? どんだけ危険な植物だよ!
「ぬしの足元に生えている種を食え、それで解毒できる」
また聞こえた!
しかしこの危機的状況から抜け出せるなら幻聴でもドジっこ女神の啓示でもなんでも構わない!
俺は声の言う通り眼下に茶色い種を発見し、震える手でこれをいくつかもぎ取ると、力任せに口へと押し込んだ。
顎まで痺れているのでぎこちない咀嚼になるが、時間をかけて、なんとかそれを嚥下することに成功する。
――するとどうだ。
----------------------------------------------------------------
クワガワ・キョウスケ Lv1
農民
HP 5/15
MP 4/4
こうげき 6
ぼうぎょ 8
すばやさ 9
めいちゅう 11
かしこさ 15
----------------------------------------------------------------
飲み込んでからしばらくの時間が経つと、先ほどまでの苦しみが嘘のように消え、あれほどの状態異常が一気に解除されてしまったではないか。
「た、助かった……! ありがとうドジっこ女神様!」
俺は歓喜に打ち震え、天にまします我らがドジっこ女神様へと祈りをささげた。
捨てる神あれば拾う神あり、ああ、こんな辺境の地まで救いの手を差し伸べてくれるなんて女神も捨てたもんじゃないな……
「誰に礼を言っておるんじゃ」
声は再び俺の背後から聞こえてきた。
振り返ってみれば、そこには変わらずごつごつとした大きな岩しか見えないが……
「ここじゃ、ぬしの目の前じゃ」
よく見ると、目の前の岩が謎の声に合わせてかたかたと震えているではないか。
「岩が喋ってる……」
「誰が岩じゃド阿呆」
驚愕のあまり思わず声に出すと、岩は先ほどまでより少し激しく、がたがたと震えた。
「――ワシはゴーレム、そして同時にこの理想郷の管理役でもある」
0
お気に入りに追加
1,800
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
最弱職テイマーに転生したけど、規格外なのはお約束だよね?
ノデミチ
ファンタジー
ゲームをしていたと思われる者達が数十名変死を遂げ、そのゲームは運営諸共消滅する。
彼等は、そのゲーム世界に召喚或いは転生していた。
ゲームの中でもトップ級の実力を持つ騎団『地上の星』。
勇者マーズ。
盾騎士プルート。
魔法戦士ジュピター。
義賊マーキュリー。
大賢者サターン。
精霊使いガイア。
聖女ビーナス。
何者かに勇者召喚の形で、パーティ毎ベルン王国に転送される筈だった。
だが、何か違和感を感じたジュピターは召喚を拒み転生を選択する。
ゲーム内で最弱となっていたテイマー。
魔物が戦う事もあって自身のステータスは転職後軒並みダウンする不遇の存在。
ジュピターはロディと名乗り敢えてテイマーに転職して転生する。最弱職となったロディが連れていたのは、愛玩用と言っても良い魔物=ピクシー。
冒険者ギルドでも嘲笑され、パーティも組めないロディ。その彼がクエストをこなしていく事をギルドは訝しむ。
ロディには秘密がある。
転生者というだけでは無く…。
テイマー物第2弾。
ファンタジーカップ参加の為の新作。
応募に間に合いませんでしたが…。
今迄の作品と似た様な名前や同じ名前がありますが、根本的に違う世界の物語です。
カクヨムでも公開しました。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
砂漠に花を咲かせましょう(仮)
mizumori
ファンタジー
女神が聖女になって欲しいと呼んだところ、現れたのはOLと女子高生の2人。一人余る?そのうえ、後から来た神に現地の王子は聖女なんていらないと拒否していることを伝えられる。
いらないもの扱いの2人は魔法の力と土地、生活用品を与えられ、現地へGOそこは日本の5倍の広さを持つ獣人がいて海に面した砂漠だった・・・砂漠の真っ只中の家の中で目覚めた2人の明日はどっちだ?
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~
飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。
彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。
独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。
この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。
※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる