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しどろもどろからの、おやすみ

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「う~~」
 どうしよう。別の世界から来ましたって言っても良いかな。信じてくれる? 
 頭のおかしいやつだと思われて家から追い出されたら困る。
 答えられないまま黙っていると、ロルガは俺から手を引っ込めた。離れていく爪の鋭さを見てしまい、首筋がゾワゾワする。
「なんだ、隠す必要があるのか? 命をかけて守らなければいけない秘密があるなら、無理には聞き出さないが……」
 ロルガは真剣な顔をして、考え込んだ。
 現実離れした言葉に、俺は他人事に思えてくる。どうしたものか。
「えぇと」
 俺が声を漏らすと、ロルガが覗き込んでくる。眉をひそめ、寂しげな眼差しで息をついた。
「私はただお前のことが知りたいだけだ」
「あぁ~………………ッ」
 なんか良い。イケメンに口説かれてる気分。
 生まれてこの方恋愛なんてしてこなかった。女の人を見ると、ごめんなさいと謝りたくなるし、男の人には従いたくなるから仕方ない。
 これがホストクラブだったらやばかった。シャンパンタワーのために腎臓を差し出していたかもしれない。
 再び伸びてきた手が俺のあごをすくう。今度はふわりと柔らかな毛皮の感触だった。
「もしも、困っていることがあるなら、助けられるかもしれない。な?」
「おぉ……」
 優しい声が心にしみる。そんなこと言われたら全力で頼りたくなってしまう。もう難しいことは考えずに、人生丸ごと全部お任せしちゃおう。いやいや、だめか。
 何をどこまでどのくらい言うべきか。
 考えなきゃいけないのに、ちっとも集中できない。
 だって、俺は考えるのが苦手だし! ロルガはかっこいいし! 毛皮は気持ち良いし!
 脳内で堂々巡りを繰り返していると、チッと音がした。
 え、舌打ち?
「おい、俺が質問することに答えろ」
 急にロルガの声がチンピラ風になり、勝手に俺の背筋が伸びる。
 異世界もイエスマンで乗り切るしかない。
「はい! わかりました!」
「よしよし」
 ロルガはソファに横たわった。膝の上にずっしりと乗る脚の重さに身動きが取れなくなる。
 この拷問、時代劇で見たことある……!
 しかし、俺に乗せられたのは石ではない。そっと手を乗せふわふわの毛皮の感触を楽しむ。緊張のせいか、いつの間にか冷えていた指先が温まる。
「じゃあ、名前と年齢」
「成瀬翔太郎、二十八歳です!」
「なぁせしょ……?」
「あ、成瀬でいいです。な・る・せ」
「ナルセ」
 ちょっと巻き舌気味なせいで、自分の名前じゃないみたいだ。かっこいい。
「その見た目で俺より年上か。十代かと思ったが……」
「え? 年下なの?!」
「俺は二十二だ」
 六個も年下なのに、この貫禄。
 俺が同じ歳の頃には何をしていただろう。大学四年生で……と考え始めたら、頭がカクンと揺れた。
「おい、ここで寝るのか」
「あ、あ、ごめんなさい、起きる。起きてる……」
「ナルセはどこからきた人間だ?」
「日本の……ふわぁ」
 特大のあくびを一つした途端、グラグラ揺れだす頭を止められない。
「あ、むり……」
 前に倒れる頭がロルガの毛皮に埋まる。
 ぬくぬくもふもふの感触が嬉しい。
 あぁ、最高。おやすみ。
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