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5、僕と授業と理想の街
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ジューと一緒の通学路は楽しい時間、のち、苦しい時間。
師匠に見送られ、二人で歩く。
「今日の朝ごはんは肉が出て最高だったんだよ」
「えーいいな。うちは薄パンだけだった」
「どうせジューが夕飯食べすぎたんでしょ」
「あたり!」
「いつも通りだもん、簡単すぎる!でさ……」
昨日も会ったし、今日も会える。
学校に通う良いところはそれだな。
どんどん話したいことが溢れてきて、言葉が追いつかない。
ジューの茶々に僕が慌てて言い返して、二人で大笑いする。
これがジューと僕。
ずっとずっと一緒に過ごしてきた時間はいつもこうだった。
あっという間に街が見えてきてしまう。
ジューだって僕の話を最後まで聞かずに話し出すから、きっと同じように楽しいんだって思ってる。
だけど、コォが、他の子がやってきてジューと話し始めたら、だめだ。
ついさっきまで楽しかった気持ちは消え去って、胸の奥がどんどん重くなっていく。
隣のジューが遠くて、手を握りたくなる。
そのまま二人で元来た道を走って、森に帰れたらどんなに良いだろう。
お日様が一番高くなるまで木に登って、師匠の作った昼ごはんを受け取って川に行く。
足を水につけて、ピクニックするのが最高の季節だから。
朝ごはんと同じメニューがいいな。
しょっぱくて、引き締まった肉は噛めば噛むほど味が出るから、きっと食べるのに時間がかかる。食後に川から足を出せば、きっと芯まで冷え切っているだろう。お互いに相手の温かいところを狙って足を押し付ける遊びがしたい。
「キセイ?」
自分を呼ぶ声に顔をあげれば、ジューがこちらを見ていた。
いつの間にか教室に着いていて、みんな自分の席に着こうと散っていったのに僕だけがジューの横にいる。
「何でもない」
「もう腹減ったのか?」
からかうジューの手が僕のお腹を突いた。
「ふふふっ、くすぐったい」
「やっと笑った。キセイはまだ緊張してるの? いつもみたいに笑ってればいいのに」
そう言ってジューは僕の髪をくしゃくしゃにした。
独りぼっちに震える心が少しだけ暖かくなる。
「もう、髪がぐしゃぐしゃだよ……」
口を尖らせながらジューの席から離れた。
今日はもう少し楽しく1日を過ごせるんじゃないか、そう思ったのにあっという間に僕は壁に突き当たる。
「今日は、街の地図をみんなで作りましょう」
先生の呼びかけにクラスのみんなは歓声をあげたが、僕は青くなる。
だって街のことなんか知らない。
いつも買い物するお店と学校までの道。
他の場所は行ったことはあっても地図を作るほど覚えていない。
森の地図ならいくらでも描けるのに。
窓の外は良い天気だった。早く帰りたい。
「先生、本物の地図は売ってるから、描いてもつまらないと思います」
ジューの声にみんなのおしゃべりがぴたりと止まった。
喜んでいたみんなはあっという間にジューの意見にそうだそうだと賛同し、文句を言う。
予想外の反応だったのだろう。
先生は困った顔になり、みんなを宥めようとするが上手くいかない。
「だから、こうだったら良いなっていう街の地図を書きたいです」
あぁ、これがジュー。
誰かを困らせるわけがない。
いつだって楽しいことを思いつく天才だから、みんなジューが好きになる。
先生も、みんなもジューの思いつきに賛成して笑顔になった。
もちろん僕だってホッとする。
みんなで外に出て、それぞれ木の棒を持って地面に絵を描く。
僕は少し離れた場所で、みんなに背を向ける。
師匠と僕の暮らす家、すぐ隣にジューの家を描きたい。
街の中だけど、裏庭のドアを開ければいつもの森に行ける。
学校はいらないなぁ。
「キセイ、俺も隣に描いていい?」
びっくりして振り返ればジューがいた。
みんなと一緒に向こうにいると思ったのに。
「俺の家、めちゃくちゃデカくする」
そう言ったジューが地面に線を引き始めたのは、僕が描き始めた家のすぐ隣。
良かった。
ジューのこうだったらいいなの街に、僕の居場所はちゃんとある。
「では、自分が何を描いたのか順番に発表してください」
先生の呼びかけで、順番に発表していくみんなの声は弾んでいる。
僕は気が重くて仕方ないのに。だってどうせ誰も僕のことなんて興味ない。
それでも順番は回ってきてしまう。
「僕が描いたのは自分の家です。本当の家は一階しかないので、これは五階建てにしました。一番上にはベッドを置いて、星を見ながら寝ます」
そこまで言ったら、もう限界。
僕の心臓はドキドキしすぎて壊れてしまいそうだった。
みんなの視線を浴びながら、一人で話すなんてわかっていたら今日は休んだのに。
発表を終わりにして座ろうと思った時だった。
「いいなぁ」
誰かがつぶやいた。
声がした方に顔を向けたが誰かなんてわからない。
それでも確かに聞こえた。
「外で寝たことない」
「星座知ってる。わたし星が好きなの」
「俺ももっと高い家にすれば良かった」
他にも誰かが話す声が聞こえた。
僕の発表をちゃんとみんなが聞いてくれた?
「星を見ながら寝るなんて、素敵ですね。座っていいですよ」
先生の言葉に僕はやっと立ったままであることに気がついた。
急いで座れば、代わりに隣のジューが立ち上がった。
「キセイ、すごいじゃん」
こっそり僕にだけ聞こえるように囁いたジューの声で僕の胸はいっぱいになる。
あぁ、今日の学校はとっても楽しい。
師匠に見送られ、二人で歩く。
「今日の朝ごはんは肉が出て最高だったんだよ」
「えーいいな。うちは薄パンだけだった」
「どうせジューが夕飯食べすぎたんでしょ」
「あたり!」
「いつも通りだもん、簡単すぎる!でさ……」
昨日も会ったし、今日も会える。
学校に通う良いところはそれだな。
どんどん話したいことが溢れてきて、言葉が追いつかない。
ジューの茶々に僕が慌てて言い返して、二人で大笑いする。
これがジューと僕。
ずっとずっと一緒に過ごしてきた時間はいつもこうだった。
あっという間に街が見えてきてしまう。
ジューだって僕の話を最後まで聞かずに話し出すから、きっと同じように楽しいんだって思ってる。
だけど、コォが、他の子がやってきてジューと話し始めたら、だめだ。
ついさっきまで楽しかった気持ちは消え去って、胸の奥がどんどん重くなっていく。
隣のジューが遠くて、手を握りたくなる。
そのまま二人で元来た道を走って、森に帰れたらどんなに良いだろう。
お日様が一番高くなるまで木に登って、師匠の作った昼ごはんを受け取って川に行く。
足を水につけて、ピクニックするのが最高の季節だから。
朝ごはんと同じメニューがいいな。
しょっぱくて、引き締まった肉は噛めば噛むほど味が出るから、きっと食べるのに時間がかかる。食後に川から足を出せば、きっと芯まで冷え切っているだろう。お互いに相手の温かいところを狙って足を押し付ける遊びがしたい。
「キセイ?」
自分を呼ぶ声に顔をあげれば、ジューがこちらを見ていた。
いつの間にか教室に着いていて、みんな自分の席に着こうと散っていったのに僕だけがジューの横にいる。
「何でもない」
「もう腹減ったのか?」
からかうジューの手が僕のお腹を突いた。
「ふふふっ、くすぐったい」
「やっと笑った。キセイはまだ緊張してるの? いつもみたいに笑ってればいいのに」
そう言ってジューは僕の髪をくしゃくしゃにした。
独りぼっちに震える心が少しだけ暖かくなる。
「もう、髪がぐしゃぐしゃだよ……」
口を尖らせながらジューの席から離れた。
今日はもう少し楽しく1日を過ごせるんじゃないか、そう思ったのにあっという間に僕は壁に突き当たる。
「今日は、街の地図をみんなで作りましょう」
先生の呼びかけにクラスのみんなは歓声をあげたが、僕は青くなる。
だって街のことなんか知らない。
いつも買い物するお店と学校までの道。
他の場所は行ったことはあっても地図を作るほど覚えていない。
森の地図ならいくらでも描けるのに。
窓の外は良い天気だった。早く帰りたい。
「先生、本物の地図は売ってるから、描いてもつまらないと思います」
ジューの声にみんなのおしゃべりがぴたりと止まった。
喜んでいたみんなはあっという間にジューの意見にそうだそうだと賛同し、文句を言う。
予想外の反応だったのだろう。
先生は困った顔になり、みんなを宥めようとするが上手くいかない。
「だから、こうだったら良いなっていう街の地図を書きたいです」
あぁ、これがジュー。
誰かを困らせるわけがない。
いつだって楽しいことを思いつく天才だから、みんなジューが好きになる。
先生も、みんなもジューの思いつきに賛成して笑顔になった。
もちろん僕だってホッとする。
みんなで外に出て、それぞれ木の棒を持って地面に絵を描く。
僕は少し離れた場所で、みんなに背を向ける。
師匠と僕の暮らす家、すぐ隣にジューの家を描きたい。
街の中だけど、裏庭のドアを開ければいつもの森に行ける。
学校はいらないなぁ。
「キセイ、俺も隣に描いていい?」
びっくりして振り返ればジューがいた。
みんなと一緒に向こうにいると思ったのに。
「俺の家、めちゃくちゃデカくする」
そう言ったジューが地面に線を引き始めたのは、僕が描き始めた家のすぐ隣。
良かった。
ジューのこうだったらいいなの街に、僕の居場所はちゃんとある。
「では、自分が何を描いたのか順番に発表してください」
先生の呼びかけで、順番に発表していくみんなの声は弾んでいる。
僕は気が重くて仕方ないのに。だってどうせ誰も僕のことなんて興味ない。
それでも順番は回ってきてしまう。
「僕が描いたのは自分の家です。本当の家は一階しかないので、これは五階建てにしました。一番上にはベッドを置いて、星を見ながら寝ます」
そこまで言ったら、もう限界。
僕の心臓はドキドキしすぎて壊れてしまいそうだった。
みんなの視線を浴びながら、一人で話すなんてわかっていたら今日は休んだのに。
発表を終わりにして座ろうと思った時だった。
「いいなぁ」
誰かがつぶやいた。
声がした方に顔を向けたが誰かなんてわからない。
それでも確かに聞こえた。
「外で寝たことない」
「星座知ってる。わたし星が好きなの」
「俺ももっと高い家にすれば良かった」
他にも誰かが話す声が聞こえた。
僕の発表をちゃんとみんなが聞いてくれた?
「星を見ながら寝るなんて、素敵ですね。座っていいですよ」
先生の言葉に僕はやっと立ったままであることに気がついた。
急いで座れば、代わりに隣のジューが立ち上がった。
「キセイ、すごいじゃん」
こっそり僕にだけ聞こえるように囁いたジューの声で僕の胸はいっぱいになる。
あぁ、今日の学校はとっても楽しい。
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