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3、僕とジューと学校

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 夕飯も食べずに寝たせいで、目が覚めると同時にお腹が鳴った。
 クゥと頼りない音は僕の心細さそのものだ。
 ずっと心待ちにしていた学校生活は散々だった。

 投稿初日は朝からジューが迎えにきてくれて、最高のスタートを切った。 
 師匠に借りたカバンの金具がカタカタ鳴るのも、ジューと並んで歩くのも嬉しくて、僕はずっとニコニコしっぱなし。

 ジューが「何か困ったことが言うんだよ、必ず助けるから」と言うのを聞いて、笑ったくらいだ。

「だって、こんなに楽しいのにどうして困るの?」

「それなら、いいんだけど」

 僕の言葉にジューもすぐそんなこと忘れたようだった。
 いつもみたいに、森になってる木の実の話や、鍛冶屋の手伝いの話なんかをして盛り上がっていた。

 様子が変わったのは、街に入り、学校が近づいた頃。
 同じ年頃の子どもたちが、ジューに声をかけるのだ。

「おはよー」
「おはよう」
「その子だれ?」

 僕はギクリとした。
 ジューと一緒に学校に行けることばかりを考えて、他の人のことなんてすっかり忘れていた。

「キセイ。今日からクラスメイトだよ。キセイ、同じクラスのコォだよ」
「コォ、よろしく」
「ふーん。ジュー、宿題やった?」

 ジューは僕を紹介してくれたけど、コォはそんなに興味がなかったらしい。
 チラリと僕の顔を確認をした後でジューとだけ話し始めた。
 学校の話をされても僕にはわかりっこない。
 黙っているしかなかった。
 一緒にいるのに独りぼっち。
 ジューといてそんな気持ちになるのは初めてだった。
 
 学校が近づけば、道を歩く子どもは増えていく。
 ジューに声をかける子もいれば、しない子もいる。
 そして、見覚えのある顔が僕を見て指差した。

「あ! お前、森に住んでる親なし子だろ? その変な髪、俺、覚えてる!」

 僕はすっかり忘れていた。
 自分が街の人と見た目が違うこと。
 ジューや他の子は皆、黒や茶の暗い色の髪と目の色をしている。
 だけど、僕の髪はくすんだ紫で全然違う。
 ぱっと見は黒に見える瞳だって、明るいところで覗き込まれたら、濃い青色だってすぐにバレるだろう。 
 師匠も街の人とは違う色をしている。
 髪は燃えるような夕焼け色で、瞳は月の色。
 師匠と二人でいる時はそんなことちっとも気にしていなかった。
 だって森にいる生き物はそれぞれ違う色を持ち、違う形で、違う大きさなことが当然だから。

 ーー人だって動物で、自然の一部なことを忘れちゃいけねぇ。

 僕が師匠に魔術を習い始めた最初の日に教わったことだ。
 とても大事なことだ、と師匠は折に触れて僕に言い含めるから、僕の髪や目が少し違う色だって、街の人と変わらないと思っていた。

 でも、そう思っていたのは学校で僕だけだ。

 チラチラと僕を伺う視線が身体に刺さる気がした。

「キセイです。よろしくお願いします」

 みんなの前で挨拶した後も、それは変わらない。
 ジューだけが僕に話しかけてくれる。
 ホッとするけど、すぐにそれも消えてしまう。
 だって、ジューは色んな人に話しかけられるから。

 身体が大きくて、力持ち。優しいジューは半年の間に学校の人気者になっていた。
 クラスメイトはもちろん、先生もジューを気に入っているように見える。

 学校の授業は難しくない。というか簡単だ。
 師匠が家で魔術を教えてくれる時に、読み書きも教えてくれた。
 どうしたら火は大きくなるか。
 水が回転するとどうなるか。
 温度が変わると何が起きるか。
 見えない空気にどうやって印をつけるか。 
 魔術を教わりながら知った色んなことが、授業の中に出てくる。
 上の空でもついていける内容だから、僕は余計なことばかり考えていた。
 他の人と笑うジューを思い出し、僕といる時のジューと一緒かどうか比べたのが良くなかった。途端に心細くなる。

 ーージューは僕といて楽しいかな?

 毎日一緒に遊んでいた時は、一度も考えたことがなかった。
 あぁ、学校なんてちっとも良い所じゃない。
 
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